64 最強の属性
ロサルカさんは準備運動でもするように大鎌をブオンと振った。その刃が真っ黒に変色していく。
彼女の鎌、私の剣と似た感じかと思ったけど、違うみたい。
自分の属性を刃に付与できるんだ。
私の視線が武器に行っているのに気付き、ロサルカさんはフフと笑った。
「そう、この鎌は属性を反映させることができます。ですが、トレミナさんの〈プラスソード〉のように、自在にサイズを変えることはできません。そして、私の体を覆っているのは〈闇の護り〉という防御結界です。チェルシャさんと違って、飛べたり形を変えたりはできない仕様ですよ」
これは、あえて教えてくれてる?
「通常は対戦相手の能力は知っているものですので。私もトレミナさんの手の内は装備も含めて存知上げていますから。ここはフェアに、ということです。では、まずこの状態で接近戦を挑ませていただきます。強化技能は使いません」
ご親切にどうも。
じゃあ、こちらも準備します。
マナを〈闘〉に。
〈プラスソード〉は刃渡り五メートルほどの大剣にした。
私の支度が整ったのを見て、ジル先生が「始め!」と開始の合図。
ロサルカさんが音もなく駆け出す。
私の間合いに入ってきたところで、マナの大剣を振り下ろした。
彼女はそれを大鎌でいなして難なく回避。
そのまま刃を滑らせながら接近してくる。
う、剣のマナが吸われる。
これなら自分で収納した方がマシだね。
〈プラスソード〉を縮め、バックステップで距離を稼ぐ。
突きと同時に再び剣を伸ばした。
ロサルカさんは鎌の柄で受け止める。
刃部分じゃなくても〈闇の護り〉で覆われているので、接触しただけでマナを持っていかれる。大剣の先端が溶けた。
……これはダメだ。
武器を合わせるだけでどんどんマナを吸収される。
接近戦、……すごく不利だよ。親切に教えてくれたから思わず乗っちゃったけど……。
視線を送ると、ロサルカさんはまた微笑みを返してきた。
罠だったみたい。
穏やかな空気を纏っているけどかなり食えない人だ。気を付けないと。
「接近戦、やめます。〈トレミナボール〉使いますよ」
「分かりました。では私は攻撃に、〈オーラスラッシュ〉に闇属性を付与した〈ダークスラッシュ〉を。防御に〈闇の盾〉を使わせていただきます」
律儀にまた……。
もうその手にも、あなたのペースにも乗りませんよ。
剣を鞘に収めると、手の中にマナ玉を作った。
〈トレミナボール〉、発射。
「闇霊よ、盾となって私をしばらく守ってください。〈闇の盾〉」
空中に出現した黒い板がボールを食い止める。が、すぐにヒビが入り、粉々に砕けた。
飛んできた玉を、ロサルカさんは大鎌でサクッと。
あえなく〈トレミナボール〉は消失した。
そして、黒い粒子が集まり出し、壊れたはずの〈闇の盾〉が復元されていた。主人を守るようにその周囲を旋回する。
あれが「しばらく」ってことか。
盾と鎌、二つを破るには威力を上げるしかないね。
小手の〈オーバーアタック〉を発動。
即座にマナ玉を形成して投げた。
〈トレミナボール〉は〈闇の盾〉を易々と貫通し、大鎌の刃も砕く。
しかし、ロサルカさんは体を傾けてこれを避けた。
「さすがに、強化されたこのボールを完全に吸収するのは無理ですね」
ん? 吸収……?
そうだ、闇属性の盾と刃で受けてるんだから、ボールのマナも奪われてるよね。
「次はこちらから参ります。闇霊よ、刃に宿ってください」
死神が鎌を振ると、闇の波動が生み出された。
相当な威力だ。〈プラスシールド〉展開。
二重の盾でどうにか耐え抜く。
……え、マナが持っていかれる。
まさか、遠距離攻撃でも吸収できるの?
フフフとロサルカさんの笑い声。
「トレミナさん、勘違いなさってますね。私はあなたを接近戦に誘導したわけではありませんよ。近距離でも遠距離でも、私が有利なのですから」
あ、吸収されすぎてマナの量が逆転してる。
……こんなのありだろうか。マナ切れの心配が全くいらないなんて。
減るどころか時間と共に増えていく。
闇属性って、最強の属性じゃない……?
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