63 死神ロサルカ
お休み最終日。
言われた通り、私は支給された騎士服に、フル装備で演習場にやって来た。
騎士の姿が結構見受けられる。非番の人達が自主練に訪れてるのかな。
わ、視線バチバチの二人。
あれは絶対、これから下剋上戦だね……。
エントランスで周囲を見回していると、普段着のジル先生を発見。
装備をつけてない、ということは、相手は先生じゃないのか。ま、十中八九、隣に立っている人だよね。
長い黒髪の大人っぽい女性だ。
微笑みながら彼女の方から話しかけてきた。
「お呼び立てしてすみません、トレミナさん。私はロサルカと申します。あなたのご活躍を伺い、どうしても一度手合わせをしたくなりまして」
この人は、見た目通り本当に大人っぽい。ミラーテさんと違って。
ご活躍って、やっぱり先日の狼達の件だね。
噂になってるのかな。困ったな。
だってこのロサルカさん、かなりの手練れだし。マナはかろうじて私の方が多いくらい。つまり、相当な量だ。
戦闘技術や技能面では、間違いなくあっちが上だろうし。
ジル先生以外にもこんな騎士がいるなんて。
私と手合わせしたいって、戦うのが好きなんですか?
うーん、お断りしてもいいだろうか。
と先生の方をちらり。
「いけません。これはあなたのためでもあるのです。彼女はとても特殊なタイプなので、トレミナさんも勉強になるでしょう。戦っておきなさい」
「その前にまだ勉強することが……。私、基本の強化戦技すら未習得です」
「ですので装備の技能を使って構いません。ロサルカの方は自身の技能と、武器に付与されたものだけを使用します」
それ、あまりハンデになっていない気が。
顔に書いてありますよ、先生。限られた技能でどうやって私が切り抜けるのか、楽しみでしょうがないって。
ロサルカさんが足音もたてずに私の目の前へ。
「私も楽しみなんです。トレミナさんがどんな方法で私の技を凌がれるのか」
直接言ってきた。
それもまた微笑みながら……、何だろ、体がぞくぞくする。
……あれ?
さっきまで周りに人が結構いたのに、誰もいなくなってる。
皆、どこに行ったんだろ……?
「では始めましょう。第一闘技場をとってあります」
ジル先生、待ってください。その人、すごくやばくないですか?
結局断れず、私は再びこの戦いの場に戻ってきた。
ただ、今回は観客が一人もいない。
別に大勢の人に見られたいとか思ったことはないけど、……今日は、いてくれてもよかったかな。
体がぞくぞくする……。
ジル先生は見慣れた審判員の位置へ。
向かい合って立つロサルカさんを改めて観察。
黒髪のせいか黒煌合金の鎧がよく似合っている。武器は……、棒?
と思っていたら、先端からシュッと魔法の刃が生えた。
棒から変化したその形状は、大鎌だ。
「まず戦闘態勢をとらせていただきますね」
そう前置きしたロサルカさんの全身が一層黒くなっていく。
まるで彼女にだけ夜が訪れたみたい。
この変貌を待っていたようにジル先生が。
「彼女は騎士団唯一の闇属性保持者、死神ロサルカです」
ぞくぞくの正体が分かった。
震えているのはマナだ。
闇の特性は吸収。捕食の危機にマナが哭いている。
だけど死神って……。
ランキング上位者になると、能力に合った通り名が付けられていたりする。閃光の騎士、とかね。それがよりにもよって、……死神。
ジル先生、ひどすぎませんか。
私、半月前に死にかけたばかりですよ。全く笑えない冗談です。
…………。
……死んだり、しませんよね?
ようやく闇属性を出せました。
光ほど簡単にはいきません。
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