62 騎士セファリス 誕生
ジャガイモ畑も元通りになり、休み期間を終えた私達は故郷を後にした。
コーネガルデに辿り着いたのは、学園の始業二日前。コルルカ先輩も明後日が叙任式で、そのまま騎士の任務に就くらしい。
「明日は丸一日訓練だ。叙任式後、即ミラーテさんに下剋上戦を申しこむ!」
先輩は意気揚々と王都の実家に帰っていった。
ミラーテさん、気の毒に。先輩はかなり根に持つタイプだ。自業自得ではあるんだけど。
下剋上戦について改めて説明すると、これはランキング上位者に挑戦できるシステム。月に一回だけ権利を行使でき、勝てば順位がそっくり入れ替わる。
ランキングはお給料にも大いに影響するので重要だ。
皆、割と頻繁に下剋上し合ってるみたい。
そんな権利、私は使うつもりないけどね。騎士としての順位なんて何位でもいいよ。いつまで続けるかも分からないし。
そういえば、学生と騎士、私はどちらを優先すればいいんだろう?
まあ、何か通達があると思うし、普通に学生をやっておこう。
荷馬車を返却し、私とセファリスは約一か月ぶりに寮へ。
「あと一日お休みがあるのよね。明日は二人で買い物にでも行かない? 最後の休日はパァーと遊びましょ!」
自室に入るや、姉はベッドに体を投げ出した。
そんなに気を緩めていていいの?
私はちゃんと感知で気付いてるよ。もうそこまで来てる。
どうやらお姉ちゃんのお休みは今日までのようだ。
部屋の窓が勢いよく開き、レゼイユ団長が。ちなみにここは二階。
「我が弟子セファリスよ、訓練の時間です」
「きゃ――――――――っ!」
団長は絶叫するセファリスをベッドから抱え上げる。
そして、定位置の小脇に。
もはや完全に人さらいだ。
窓には鍵がかけてあったのに……、うん、普通に壊れてるね。
え、団長、こっちをじーっと見つめてる。
まさか私もさらう気?
程なく彼女は思い出したように「あ」と呟いた。
「セファリスも騎士にするのでした。姫様の許可はもらっています」
「ほんとですか! 師匠!」
「もうお前にはその力があります、我が弟子よ」
「……やった。私、とうとう騎士に」
「では叙任式を始めます」
「へ……?」
レゼイユ団長はセファリスの頭にわしっと手をやった。
「団長の名においてセファリスを騎士にします。ついでに、騎士団への入団も認めます。はい、おしまい」
……雑すぎる。
私の時も大概だったけど、これに比べれば全然マシだったな。
「……私、騎士に、なったの……?」
きっと今、お姉ちゃんの頭の中では、騎士に憧れていた頃の思い出がぐるぐると。
理想と現実のギャップは大きい。でも、これまで色々乗り越えてきたお姉ちゃんなら大丈夫だよ。また成長して戻ってきてね。
「さあ、我が弟子騎士セファリス、行きますよ。おっと、装備もいりますね」
「これが姉のです。どうぞ」
一式が詰まった袋を渡すと、団長は再び私の顔を凝視。
たぶん、また何か思い出そうとしてる。
「そうそう、ジルちゃんから伝言を頼まれていたのでした。騎士トレミナ、明日の朝十時に装備を整えて演習場に来るように、とのことです」
そう言うとレゼイユ団長は入ってきた窓から外へ。
ふむ、どうやら私のお休みも今日までのようだよ。
何と戦わすつもりだろう。さすがに神獣じゃないと思うけど。
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