60 [チェルシャ] 光の世界
属性を身につけるのは時間が掛かる。
通常の火風地雷水でも、精霊を認識して親和性を高めるのに約半年。それからようやく属性技能の習得に入る。
光の精霊はさらに厄介だ。
私の場合、すでに認識はしているけど、親和性の方が課題で、王様によると一年くらいは覚悟しておくべきだという。
なんて気難しく面倒な精霊……。
だけど、焦りはなかった。姫様も王様も、光の精霊ならきっと問題解決してくれる、と言った。二人の、特に姫様の言葉を信じることにした。
親和性を高めるとはつまり、仲良くなること。
とにかく精霊を自分のマナに馴染ませればいい。
一番効果的なのは〈錬〉の時に一緒に錬りこむことだけど、〈錬〉ができる時間は限られている。だからそれ以外の時間はとりあえず精霊とマナを引っつけておくしかない。
私は二年生の大半を光って過ごすことになった。
この頃は、ミイラ少女が昇天しつつある、とよく周囲から心配されたものだ。
二年も終わりに近付いた頃、やっと光の精霊が少しだけ言うことを聞いてくれるように。マナを食べさせて属性変換させることが可能になった。
操れるようになるまであとちょっと。
先が見えてテンションが上がり、私は一層光輝いた。
周囲から眩しいと言われる。
ずっと学年一位を守り通していた私は、学年末トーナメントでも、準決勝でコルルカを、決勝でクランツを叩きのめして優勝した。
そうして三年生に上がり、ついに光の精霊を従えることに成功する。
早速、シガイセンとやらから身を守る魔法の構築に着手。
シガイセンとやらはよく分からないので、太陽光中の私に害となるものは全て除去してもらう設定に。
魔法は数日で完成し、いよいよ待ちに待った瞬間を迎えた。
「光霊、太陽光中の私に害となるものを全て除去しろ。〈チェルシャガード〉!」
右手の包帯を取り、おそるおそる日光の中へ。
…………、
……あ、赤くならない! 全然痛くもない!
やった! 上手くいった!
……待て待て、もう少し様子を見てから。
一分経過――。
二分経過――。
五分経過――。
十分経過――。
……何ともない。
……何とも! ない!
全ての包帯を取り、日向に飛びこんだ。
フード付きの外套も脱ぎ、全身で思いっ切り日光を浴びる。
「う! うぅ……! うぅっ……! うあ――――っ!」
声にならなかった。
望んで焦がれて止まなかった光の世界。
薄暗く狭かった私の世界はこの日、大きく広がった。
姫様に報告に行くと、彼女も一緒になって喜んでくれた。
そして、私にお願いがあると。
「チェルシャさんのその力、できることならこのコーネルキアのために使ってほしいの。騎士となり、私と共に国を守ってほしい。考えておいてくれる?」
考えるまでもありません。
姫様にこの恩を返し、姫様のお傍にいるため、私はすごく強くなります。
私はあなたを守護する天使になる。
というわけで、すごく強い天使、をコンセプトに新たな魔法を作ることに。
なお、〈チェルシャガード〉は主にシガイセンとやらを除去するだけの魔法なので、とても燃費がいい。
一日一回かけるだけで、私は普通の生活が送れるようになった。
ミイラから脱皮した私の姿に、学園は騒然と。
しばしば告白されたり、恋文をもらったりしたけど、ごめん、私には姫様がいるので。
取り組んでいた戦闘魔法〈エンジェルモード〉の完成により、三年の学年末トーナメントもぶっちぎりで優勝した。
リズテレス姫にさらなる修練と進化を約束し、一年後、その成果を見てもらうことに。
――――。
ポテリアーノの絶品オムレツを食べ終えた私は、同時に過去の回想も終えた。
四年のトーナメントでは優勝を逃したけど、姫様に戦う姿を見てもらえたのでよしとする。トレミナに感謝しなきゃ。
……私はたぶん、これからトレミナに差をつけられていく。
それでもいい。
あなたのお傍にいられるよう、私なりに頑張って強くなります、姫様!
すると、向かいに座るリズテレス姫がくすりと笑った。
「勘違いしているようね。私はあなたをただの戦力として見ているわけじゃないわ。前世のことも話したでしょ。チェルシャさん、あなたは私の友人、いいえ、もう親友よ」
……姫様。
好きです、結婚してください。
チェルシャ・オリジン完結です。
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