6 姫との食事
「それ、本当に神獣の肉なの? 神獣って言っても野良だろうけど」
私には、ちょっと傷んだ牛肉に見える。
神獣と一言に言っても、ピンからキリまで様々だ。
どこの国にも属していない低位の神獣が結構いて、世界各地で人間を襲っている。それらは野良神と呼ばれ、各国で討伐対象に指定されていた。
私の村も何度か野良神の襲撃を受けた。
野良であっても神。倒すには騎士が束になってかからなきゃならない。もちろん何人かは帰らぬ身となる。
騎士とはそういう危険な仕事だ。
「間違いなく野良神の肉よ。五万ノアもしたんだから。トレミナ、半分こしましょ。これを食べれば明日は私達が優勝よ!」
「優勝できるのは一人だよ」
神獣の肉を食べると、その力を取りこむことができると言われている。
生命が漲り、マナの量も増えるんだとか。
そんなすごい肉なので、取引価格は法外だ。
五万で手に入るかな?
やっぱり、ちょっと傷んだ牛肉なんじゃ……。
「おや、お二人も食事ですか?」
声に振り向くと、レストランの入口からジル先生が。
続いてもう一人、白髪の美少女が入ってきた。
前に彼女に会ったのは一年以上前になる。
でも、その顔は忘れようもない。リズテレス姫だ。
「わあ、とっても綺麗な子ですね。先生の妹さんですか? こんにちはー」
セファリスはささっと生肉を隠しながら気軽に挨拶。
「こちらは、この国の第一王位継承者、リズテレス様ですよ」
ジル先生が紹介すると、途端にセファリスは硬直した。
私の姉はめっぽう権力に弱い。
「ぶ、ぶ、無礼を……! お許しを……!」
「無礼ではないから落ち着いて。久しぶりね、トレミナさん。あの時、私が言った通りになったでしょ」
「はい、……本当に。今日はどうしてこの店に?」
「もちろん食事のためよ。ここのオムレツは絶品だもの」
と姫はジル先生に視線を送る。
「はい、では私達も食事にしましょう。ところでセファリスさん、どうして先ほど慌てて生肉を隠したのです?」
セファリスは固まりすぎてもう喋ることもままならない。代わって私が。
「あれ、神獣の肉らしいんですけど」
「え……? セファリスさん、もう一度見せてください」
姉は額に冷や汗を浮かべつつ、生肉をテーブルに。
先生はそれを見るなり。
「これはただの牛肉ですよ。しかも、ちょっと傷んでいますね」
あ、やっぱり。
リズテレス姫はしばらく肉を眺めた後に、
「悪質な詐欺ね。ジルさん、対処を」
先生に指示を出した。
悪徳商人を摘発するためにセファリスとジル先生が店を出ていき、私は姫と二人きりに。次期女王と向かい合ってオムレツを食べることになった。
「明日の試合は私も見学に行くわ。頑張ってね、トレミナさん」
姫からの激励。これは本当に頑張らなければ。
大丈夫、自信はある。
明日のために修練を積み、準備を進めてきたんだから。
私は必ずや、誰一人殺すことなく、明日を乗り越えてみせる。
ちなみに、トーナメントには十数人の欠場者が出た。
原因は食中毒だそうだ。
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