58 [チェルシャ] ミイラ少女の成り上がり
リズテレス姫と私は食事に行くことにした。
コーネガルデの繁華街から少し離れた路地裏にあるお店。
ここは私が姫様に紹介したとっておきの場所だ。
キッチン『ポテリアーノ』。
小さなレストランだけど、その味はどんな高級店にも負けない。
コーネルキア中の、いや、周辺国も含めた一帯の名店を食べ歩いた私が保証する。特にジャガイモを使った料理が絶品で、一番のおすすめはふわとろのポテトオムレツ。
テーブルの向かいに座る姫様が思い出したように。
「トレミナさんもここの常連なの。彼女もオムレツは必ず頼むと言っていたわ」
……さすがトレミナ。本物を探り当てる嗅覚と舌まで備えているとは。
騎士にしておくのは惜しい逸材。
そういえば、奴はジャガイモ農家になりたがっていた。あれだけ戦闘と料理の才に恵まれているのに贅沢な話だ。
ま、私も以前は騎士になるつもりなんて全然なかったんだけど。
目の前のリズテレス姫を見つめた。
真っ白な髪に、知性を感じさせる眼差し。
こことは異なる世界からやって来た姫様。
全ては、彼女の力になるため。
私がコーネガルデ学園に入学したのは十一歳の時。
別に騎士になんてなりたくなかった。目的はただ一つ、錬気法の習得。
マナを扱えれば、この不幸な体質を克服できるかもしれないと思ったからだ。
私の肌は生まれつき日光にとても弱かった。太陽を浴びると、火傷したように赤くなる。
なので、常にフードを深く被り、顔や手には包帯を何重にもして巻いていた。
そんな私の当時のあだ名はミイラ少女だった。
屋外での運動など恐怖でしかない。体力がつくはずもなく、学年順位は当然ながら最下位。だけど順位なんて、……気にはなったけど、それより一刻も早くマナを身につけたかった。
一日の大半を瞑想に当てる。
学園での授業中も、寮に戻ってからも、ひたすら瞑想。
その甲斐あって、入学から二か月でマナを認識できるように。
そこからは毎日、限界を超えて〈錬〉りまくった。
まず早朝から二時間の〈錬〉。集中力を使い果たし、学園では抜け殻のように過ごす。夕食後にまた二時間の〈錬〉。済むと泥のように眠った。
この頃はリアルミイラと呼ばれたものだ。
私を突き動かしていたのは、思いっ切り日の光を浴びたい、という想いだけだった。マナを纏えばその夢が叶うかもしれない。
決行は二年生に進級した直後と定め、それまでに少しでもマナを増やすことにした。
月日は流れ、二年に上がった私は、学園でのマナの使用が解禁された。
相変わらず体力がなかったけど、私にはこれを補って余りある量のマナが備わっていた。同級生達の約四倍といったところ。
初日の体力測定で、最下位から一気にトップへ。
最後の手合わせでは、剣を合わせた瞬間に相手の木剣が砕けたので、オール不戦勝となった。
この日はミイラ覚醒デーと名付けられたっけ。
そんなものより、私にはもっと大事な行事があった。
マナを〈闘〉の状態で維持し、右手の包帯を解く。
おそるおそる日光の中へ。
え、赤くなっていく……。
そんな! どうして! い! 痛いっ!
私は絶望した。
この一年間は何だったのか。
しばらく呆然としたのち、夜更けになって寮を出た。
もうここにいる理由はない。帰ろう。
しかし、時間が時間なだけに、街の外へつながるゲートの所で止められる。
学園に連絡が行き、なんと理事長がここにやって来るとのこと。
なぜ一生徒のために学園の運営者がわざわざ来るのか、びっくりしかなかったが、本当に驚いたのはその後だった。
現れたのは十歳にも満たない少女。
真っ白な髪の彼女は、この国の姫、リズテレスと名乗る。
私の話を聞くと、すぐに考えに耽り始めた。
「おそらく紫外線が原因のアレルギー症状ね。あなたの〈闘〉であまり緩和されないとなると、防御系技能も効果は期待できないかしら……」
何この姫様……。
……本当に、子供?
シガイセン? アレルギー?
やがて結論が出たらしく、リズテレス姫はこちらに向き直った。
「可能性はとても低いけど、あなたの望みを叶える方法があるわ」
「お! 教えてください! 低くてもいいです!」
彼女は少し間を取ったのち、人差し指をピンと立てた。
「光属性の習得よ」
評価、ブックマーク、いいね、感想、本当に有難うございます。










