57 [チェルシャ] 同期について思うこと
月明かりの夜空を、満たされた気分で飛行する。
稀少肉を食べたおかげで、一時は空になったマナも完全回復。纏っている光の精霊も元気を取り戻した。
違う、もっとだ。以前よりさらに元気になってる。
さすが上位神獣の稀少肉。また食べたい。
こっそりドラグセンに潜入して守護神獣を捕まえてこようか。
あの大国には、今日の狼達と同ランクのドラゴンがうようよいる。少しくらい食べてもバレない。
敵は減るし私は強くなるし、いいことづくめ。
姫様も喜んでくれるに違いない。
そして、肉を手に入れたらトレミナのところへ……。
そう、トレミナ。まさか奴があそこまでの逸材だったとは。
私は自信を持って断言できる。
トレミナには、料理人の才能がある。それもとびきりのだ。
何と言っても包丁の技術。
素人は意外に思うかもしれないけど、包丁は料理においてとても大切な要素。この工程で失敗してしまうともう取り戻すことはできない。
食材を活かすも殺すも包丁次第。
今日トレミナが切った肉は、活きていた。
奴の恐ろしいところは、どんな高級な食材だろうが一切プレッシャーを感じず、淀みなく包丁を動かせるという点だ。
加えてマナまで使っているので、もう通常の料理人では到達しえない領域にいる。
実は私、さっき皆で稀少肉を食べる前に、一人密かに味見をした。
勘違いしないでほしい。摘まみ食いじゃなく、上がり幅を記憶するため。
神獣の肉は調理する人間を選ぶ。
もしイルミナお母さんが包丁を握っていたら私が代わっていた。
それでトレミナの切った肉はどうだったかというと、私が切ったものよりマナが増えた。
神にも通用する驚異の包丁技術。
さらに、トレミナの才は包丁だけじゃない。
奴は料理するのは初めてだと言った。
つまり、ほぼセンスだけであれだけのものを作ったんだ。
あの場にいた、私とトレミナ以外の九人は本当にラッキー。
自分の実力では絶対に狩れない獲物の肉を、最高の形で食べることができたんだから。
第127部隊の平騎士六人なんかは、全員すぐに隊長格に上がるはず。
本当にラッキーな奴ら。おみやげのハンバーグは強奪するべきだった。
まあでも、ラッキーなのは私も一緒。
命の恩人である私が頼めば、トレミナはあの神の腕を振るってくれる。
どんどん肉を持っていこう。
なんて思っていたらお腹が空いてきた。
トレミナの家を出て、大体二十分くらい。
ゆっくり飛んできたけど、そろそろ……、見えた、コーネガルデ。
とりあえずご飯を食べに、
……あれ? このマナは!
学園を卒業した私は騎士団寮には入らず、一軒家を借りて生活している。
その門の前に、なんとリズテレス姫が!
急いで着陸!
「姫様! どうしてここに!」
「あなたに会いにきたのよ。もう帰ってくる頃だと思ってね」
「私に! 本当ですか!」
「トレミナさんを助けてくれたこと、改めてお礼を言いたくて。本当にありがとう、チェルシャさん」
「そのこと……。姫様にとってトレミナがどれほど大切な存在かは分かっています。だから、あのどんぐりは私が全力で守るつもりです」
今日、私にとっても極めて大切な存在になったし。
けど、私が助けるのは今回限りの気がする。
トレミナの戦いを見てそう思った。あと、私が到着する前のこともコルルカから聞いてる。
はっきり言って、寒気を覚えた。
やるべきことを淡々とこなし、自分の命さえも計算に組みこむ。
戦闘の才能って色々あるだろうけど、トレミナのは相当やばい。どんな状況でも、力を最大限発揮できるっていうやつだもん。
あれでこれから技能や精霊を習得していくんだから、末恐ろしいなんてものじゃない。
「あなただってもっと伸びるわ。まだ十五歳だもの」
私の心を読んだように、リズテレス姫はそう微笑んだ。
「もちろんです。今度、ドラゴンを狩りにいこうと思っています」
「あら、いいわね。私も行こうかしら。あちらにも今日のお礼をしたいの」
チェルシャの本題は次話になります。
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