55 成長の日
リズテレス姫がドラゴンを爆撃してから一時間ほど経った頃、今度はジル先生が飛んできた。比喩的表現ではなく、本当に空を飛んできた。
ふわりと私達の前に下りたつ。
「先生、飛べたんですね」
「ジル様は風霊技能が大の得意なのよ」
自慢げにそう教えてくれたのはミラーテさん。
彼女を見るや、先生はため息をついた。
「ミラーテ、トレミナさんの足を引っ張らなかったでしょうね? いえ、あなたのことだからきっと引っ張ったわね。彼女は私と同じ一期生で友人なんですよ、トレミナさん」
「同級生で友人なのに、どうして様を付けて呼ばれているんです?」
「知りません、彼女に聞いてください。……やっぱり聞かなくていいです」
聞かなくてもミラーテさんは勝手に喋り出した。
「強くてかっこよくて、ジル様は皆の憧れだったの。男子も女子も告白してふられた人は数知れずよ。何を隠そう、私もその一人なんだから」
そういうことは隠したままにしてください。
ジル先生はといえば、完全に聞かなかったことにして姫様の元へ。
「近隣の拠点を回ってきました。二時間弱で回収に来るでしょう。あとは私が」
「そう、お願いね。トレミナさん、とにかくあなたが無事でよかったわ」
とリズテレス姫は再びユウタロウさんの背に跳び乗った。
もふもふ神獣のパートナー、いいな。
あ、ちょうどレゼイユ団長も戻ってきたね。
彼女は気絶させたドラグセンの人達を森の外に並べる作業をしていた。二十人ほどの男女が整然と身長順に横たわっている。
……絶対遊んでましたよね?
彼らとは別に、団長は一人の少女を小脇に。
このマナの感じ、間違いない。少女はあのドラゴンだ。
持ち運べるように人型にさせてから眠らせたってことかな。
レゼイユ団長もユウタロウさんに乗ろうとして、ふと視線をこちらへ。
「我が弟子セファリスよ、少しだけ強くなりましたね」
「ほんとですか! ありがとうございます!」
「ですが、騎士トレミナはもっと伸びています。やはり実戦が一番ですね。休みが明けたら迎えにいきます」
「え……、はい……」
…………。
お姉ちゃん、残りのお休みで楽しい思い出、いっぱい作ろうね。
ユウタロウさんが駆け出し、国の(おそらく)トップ3は帰っていった。
見送ったジル先生は振り返り、私の顔をまじまじと。
「確かにマナの質が上がっていますね。何か心境の変化がありましたか?」
「いえ、特には……」
命を懸ける覚悟をしたからあれかな?
他に心境の変化は……、なくもないけど、今はまだあまり考えないでおこう。
「特にはないです」
「そうですか。何にしても、トレミナさんにとって今日は成長の日になったようですね。まだ途中ではありますが。あれがあるので」
ジル先生が目線で指したのは力尽きた大狼達だった。
【白王覇狼】の前にはチェルシャさんが。真剣な表情で見上げている。
「チェルシャさんは帰らないんですか?」
「命の恩人になんて言い草。肉を食べずに帰れようか」
そうか、討伐した者の特権、神獣の稀少肉を食べなきゃ。
『今思い出しても、あの日は本当に大変だった。
私自身は技能一つしか使えない、半人前にも満たない状態で、守護神獣級を二頭も相手にしたんだから。
大変だった分、色々と転機になった一日でもあったね。
世界に対する向き合い方とか、ああ、大事な出会いもあった。
当時は想像もできなかったよ。
あの時に捕獲されたドラゴンと、こんなに長い付き合いになるなんて。
本音を言えば、パートナーはもふもふの神獣がよかったんだけど。なんて書いてるの見られたら怒られちゃうね。
剣神(兼ジャガイモ農家)トレミナの回顧録より』
次話はお肉の日です。
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