52 村を救った勇者
「エンジェルキャノンには改善の余地がある」
「一撃で必ず殺さなきゃいけないのはリスクが高すぎるので、その辺では?」
チェルシャさんと他愛ない会話をしていると、村の方からぞろぞろと向かってくるのが見えた。
セファリスにコルルカ先輩、第127部隊の騎士達、そして、村人全員。
一早く駆けてきた姉が泣きながら私に抱きつく。
「トレミナのバカ! 死ぬつもりだったでしょ! そんなのお姉ちゃん! 絶対に許さないから!」
次いで、村の皆が雪崩れこんできた。
「トレミナちゃんは村を救った勇者じゃ! 皆の者! 勇者を称えようぞ!」
村長さんの号令で担ぎ上げられる私。
やばい、度重なる命の危機と、緊張からの解放で、皆のテンションが振り切れてる。いつになくスキンシップが激しい。
あれ? お父さんとお母さんは……?
二人は少し離れた所で、苦笑いで安堵の表情を浮かべていた。
心配かけてごめんね。
一方、チェルシャさんは同級生のコルルカ先輩の元へ。
「ここの村人、すごく変」
「ああ、私も薄々気付いていた。この村は普通じゃない。しかしこの白狼、立ったまま息絶えるとは敵ながら見事だ。私もこんな最期を迎えたいものだな」
先輩は【白王覇狼】を見上げながらしみじみと。
そんなものに憧れる先輩も充分変です。
だけど、村の威信はしっかり守らないといけない。
「皆、勇者である私からのお願い。普通にして」
「……はい、すまんのじゃ」
村長さん始め、皆少し熱が冷めたみたい。
ようやく解放されたものの、相変わらずセファリスは引っついたまま。
その彼女が突然、彼方に視線をやった。
「来る! 師匠だわ!」
そう言われても私には感知できず。
たぶん師弟の絆……、いや、危険を察知する姉特有の動物的直観だと思う。
一緒に眺めていると、地平線の向こうから土煙が。
レゼイユ団長が凄まじい速さで走ってくる。馬の数倍は速度が出ているだろうか。あの人はこんな風に国中を駆け回っているらしい。
セファリスはあれで小脇に抱えられて運ばれ続けた。
トラウマになるのも納得だ。
後続の応援ってレゼイユ団長のことだったのか。と思っていると彼女は、ギュン! と私達の目の前を通り過ぎた。
そのまま一直線に森の中へ。ドラグセンの人達が潜伏している森ね。
すぐにそこから多くの悲鳴。木々から鳥達が一斉に飛び立った。
そして、さらなる異変が。
ベキベキと周囲の木を薙ぎ倒し、巨大生物が頭を覗かせた。
ドラゴンだ。深緑の鱗に全身を覆われ、背中には翼が生えている。
なんと、近所の森に竜が棲んでいたよ。
まあ、そんなわけはない。ドラゴンの体長は、二十メートルほどある木の倍近い。こっちに立っている【白王覇狼】より少し大きいくらいかな。どう頑張っても隠れようがないだろう。
間違いなく、あれも人型になっていた。
ドラグセンの守護神獣だね、きっと。
強さは……、黒白狼達よりちょっと上くらい、だと思う。
もう戦うのは無理だよ。その心配はないだろうけど。
何と言っても、ランキング一位が来ているから。
噂をすれば、木々の上、空中にレゼイユ団長の姿が。私と同じ〈ステップ〉で宙を駆けている。
うん? 双剣を抜かないのかな?
魔法で戦うつもりなのかも。
と見ていると、彼女はそのまま素手で、ゴンッ! と竜を殴りつけた。
ズズゥゥン…………。
巨体が森に沈む。
レゼイユ団長はファイティングポーズをとり、相手が起き上がるのを待っている。
殴り倒すつもりだ……。さすがランキング一位。
すると、チェルシャさんが。
「団長、たぶんあのドラゴンを捕獲するつもり」
そう言った後、彼女は彼方に視線を移した。
「来る! 姫様だ!」
こちらも何か特異な直感が働いたようだ。
この騒動後に、チェルシャ主体で書きたいと思っています。
そこで、彼女が光属性を手に入れた経緯、
リズテレスを大好きな理由も明らかに。
もっと早く入れたかったのですが、タイミングが……。
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