50 白の厄災 同期の二人
チェルシャさんは音もなく私の前に降り立った。
彼女も同じ黒煌合金の鎧を身につけている。武器は腰元にナイフが一本だけ。
別に武器は必要ないってことだよね。今、発動中の〈エンジェルモード〉はチェルシャさん自身を武器に変える魔法だし。
にしても、防具のデザインが違うとはいえ、ここまで見た目に差がつくとは。
あっちは都会的で何だかスタイリッシュ。
対する私は装備に着られてる感が半端ない。
「そんなことない。トレミナもどんぐりぼっくりみたいで可愛い」
「共鳴で心を読まないでください。どんぐりぼっくりって何ですか」
「どんぐり イン まつぼっくり」
「……身近なもので武装しているあたり、よく似ていますね」
「トレミナの装備は全然身近じゃない。私は聞いて知っている。その盾以外は全て非売品。特に〈オーバーアタック〉と〈セルフリカバリー〉が付与されたものは高級で、どちらも数千万はする。全身で一億ノア超え」
……一億?
いや、そんなはずはない。だって、防具はマリアンさんがお店に並んでいる数百万のものを選んでくれたんだから。
でも考えてみれば、研究所の所長さんとたまたま店頭で会うかな。
……まさか、最初から全部仕込まれていた?
「姫様に感謝するべき。いくらマナが多くても、使える技能がなければ宝の持ち腐れ」
確かに、装備に付与された戦技や魔法がなければ、私はここまで戦えていない。今だって、とっくに【白王覇狼】にやられていてもおかしくなかった。
その巨狼は後ろに下がって、私達に警戒の眼差しを向けていた。だからこうやってのんびりお喋りができているんだけど。
私もマナを〈全〉から〈闘〉に変えてある。
チェルシャさんが近くにいるのはすごい安心感だ。
狼も見つめているのは主に彼女。何と言っても、世にも珍しい光属性だからね。
「チェルシャさん、応援要請を受けて来てくれたんですか?」
「そう、私はナンバーズだから要請に応じる義務がある」
「じゃあ、もうランキング十位以内に?」
尋ねると、美少女は少し得意げな笑みを浮かべた。
「ランキング七位の『閃光の騎士』を下剋上戦で倒し、その地位を奪った。奴はちょっと動きが速いだけで閃光を名乗っていた。ナンバーズの称号は、真なる光の騎士である私にこそ相応しい」
ひどいことを。
二千人以上いる騎士の七位だから、ちょっと動きが速いだけじゃないと思いますよ。色々工夫したり、毎日走ったり、努力していたんじゃないかな。
なのに、二つ名に光が入ってるばかりにチェルシャさんの標的にされて。気の毒としか言いようがない。
「気の毒じゃない。そういうシステム。トレミナ、自分が最下位だと分かってる? いつまでもジャガイモにかまけてないで、ランキングを上げるべき」
「かまけてません。むしろそっちがメインです。私は今のままで」
【白王覇狼】が大口を開けているのが見えて言葉を切った。
放たれたのは〈火激波〉だ。
俺を無視していつまで喋ってるんだ! ということだね。
押し寄せる火炎の大波。
チェルシャさんは私を光の翼でくるんだ。
すごい、熱を全く感じない。さすがの防御力。
次いで白狼は炎を突っきって直接攻撃に。
危険なお手を私達は跳んでかわす。
「まぬけな犬め。安易に接近したことを後悔するといい。私達がお喋りしていたのはお前を誘い出すため」
え、そうだったの?
チェルシャさんの翼の片方が、細く、長く、形状を変化させていく。
「一点突破! 〈エンジェルランス〉!」
ザスッッ!
光の槍が大狼の胸に深々と突き刺さった。
「白い方はとてもタフだと聞いた。望むところ。私はタフな相手を倒すため、日夜研究し、研鑽を積んできた」
……その〈エンジェルランス〉で、私を串刺しにするつもりですよね?
次話、決着です。
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