49 白の厄災 決死の覚悟
私の魂の一撃は致命傷に至らなかったものの、それなりに効いたようだ。
【白王覇狼】も体に纏うマナの量を一気に増やした。
これは気を付けないと。
防御力が上がっただけじゃなく、攻撃面でも……。
考えを巡らせていると、いつの間にか巨大な肉球が目の前に。
空中の足場にいた私は、ベシッ！ と地面に叩きつけられる。
いたた……。
速くて、重い。なんて威力のお手。
やばい、追撃が来る。
白狼が大きな口を開けてこちらを向いていた。
特大の火炎放射が放たれる。
とっさに盾を掲げ、〈プラスシールド〉を展開。
ゴオオォォオオォォォォ――――――――！
一帯のジャガイモ畑が火の海に変わる。
ようやく芽を出し、育ってきたジャガイモ達が灰に。ここは生産者の生き地獄か。まあ、この業火の中で生きている私がおかしいとも言える。
これは〈火激波〉だよね。
〈プラスシールド〉は溶けたけど、〈全〉による守りは大丈夫だ。
神技は黒狼の方が上じゃないかな。さっきのお手の方が痛かったよ。やっぱり【白王覇狼】の特性は肉体の強靭さ。
あまり近付きすぎると危険だね。たぶん咬まれたら即死だ。
じゃあ、距離を取って〈トレミナボール〉で攻撃していこう。
煉獄地帯を突っ切り、走りながらマナ玉を作成。
〈オーバーアタック〉、からの、〈トレミナボール〉発射。
白狼はすぐに避けられないと判断した。体の一部にマナを集めて防御。
「グッ！ グゥ……！」
低い唸り声と共に、狼は巨体を少しのけ反らせた。
よし、効いた。
この調子で無駄撃ちせず、一発一発重い球を投げていくのがいいね。
技能にマナを費やせば、それだけ〈全〉を維持できる時間が短くなる。節約しないと。……私、残りマナを気にして戦うの、初めてだ。
【白王覇狼】の神技に耐えながら投球を続ける。
と相手の攻撃に変化が。
技の威力が上がった？
込めるマナの量を増やしたんだ。
まずい、私の防御力はこれ以上にはならない。
そう思った矢先のこと、〈風の爪〉が生み出した突風が直撃。
弾き飛ばされて大分離れた畑に落下する。
……痛い。かつてないほどに。
あ、やっぱり脚の骨が折れてる。
脚か……、しょうがない。治療しよう。
私の鎧には〈セルフリカバリー〉という魔法が付与されている。その名の通り、自分の怪我を治すことができるよ。
けどこれ、結構マナを消耗するな……。
普通なら治るのに何か月も掛かる怪我だし、仕方ないか。
完治した脚ですっくと立ち上がった。
えーと、【白王覇狼】は……、動かないで待ってるね。
私に時間がないの、バレてるようだ。
戦える時間は、もう残り二分を切った。
やっぱりこの敵は倒せそうにない。
村の皆の方に目を向けた。
お父さん、お母さん、あと村長さん。
ごめん、帰るのは無理になった。
結構遠くにも関わらず、私の心の声は届いたらしい。
お母さんが崩れるように膝をつくのが見えた。
もう私にできるのは、残された時間であの巨狼に少しでも多くのダメージを与えること。
ここからは、慎重さは必要ない。
命を使い切る。
決死の覚悟を胸に踏み出そうとしたその時だった。
…………？
感じるものがあって空を仰いだ。
キラキラと無数の煌き。
昼間でもはっきり分かるほどの輝きを放っている。
次の瞬間、【白王覇狼】の頭上に光の雨が降り注いだ。
シュドドドドドドド――――――――ッ！
「グッ！ グウッ！ グルッ！ グガウッ！」
纏うマナを増やして何とか耐えようとする巨狼だったが、堪らずに吠えた。
分かるよ、私も散々浴びたからね。
それ、マナの守りを貫通してくるんだよ。
撃った張本人が空からゆっくりと降りてきた。
眩い光に包まれた、神々しい姿の美少女。
「感謝して、トレミナ。同期の私が助けに来た」
感謝してもしきれません。
今の私には、あなたが本物の天使に見えますよ、チェルシャさん。
次話、同期タッグバトルです。
マナによる治癒
マナは宿主の体を記憶しており、その情報を引き出すことで細胞の修復、増殖が可能になります。錬気法の技術〈癒〉というもので、学園では四年生で習います。が、習得は相当困難。欠損部分の補完（腕を生やすなど）も可能ですが、その道に長けた者でないと難しいです。また、他者への治癒行為はさらに難易度が上がり、行える者は聖人として崇められていたり。ですので、治癒魔法、戦技は武具に付与することが推奨されています。ただし、とても高価です。
という設定ですが、説明は随分後になりそうなのでとりあえずここで。
本編では聖女騎士が登場した際に改めて説明します。
そして、トレミナの装備に付与された技能が便利すぎる件。
一千万ちょいでは安かったです。
姫とマリアンさんが結託して……。
ということにしようかと。
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