48 白の厄災 魂の一撃(全力の不意打ち)
まっすぐ【白王覇狼】が歩いてくる。とてもゆったりした足取りだ。
同時に、威圧するようなマナを私達に。
一人でも逃げ出そうものなら直ちに全員殺す!
マナなんて使えない村の皆も、しっかりそんなメッセージを受け取った。誰もその場から動くことができない。
もちろん私は動けるけどね。仕方ない、始めるとしよう。
セファリス、コルルカ先輩、それから第127部隊の人達、と順に視線を送った。
「今から七分間、私が時間を稼ぐよ。皆はその間、〈錬〉に集中して」
マナを増やす鍛錬の〈錬〉は、効率よくマナを回復させる手段でもある。
それでも、七分で取り戻せるのはごくわずか。魔法一発分くらいだろうけど。
先輩が腑に落ちない表情で。
「しかし、一人でどうやって七分も」
「〈全〉を使うよ。私ができる限り削るから、最後に一斉攻撃で仕留めよう。勝つにはそれしかないと思う。一秒でも惜しいからすぐ〈錬〉に入って。ちゃんと目を閉じてね」
「ほんとに一人で大丈夫なの? けど信じるしかないわね、トレミナ隊長の言うことだもの。皆、錬りましょ」
そう促すミラーテさんを、あんたはいつ隊長職を譲ったんだ、という目で見つつ隊員達も従った。
コルルカ先輩も「それしか手はないか」と続いたが、セファリスだけはまだ納得できない様子。
「トレミナ、そんなにマナ残ってる? 嘘はダメよ」
「嘘なんかつかないよ。さあ、お姉ちゃんも早く」
「…………。お姉ちゃんは六分でトレミナを助けにいくわ」
「好きにして」
言ってくると思ったよ。だから七分にしたんだ。
本当は、私が〈全〉を維持できるのは五分間だ。
剣を抜いて白狼に足を向けたその時、お父さんとお母さんが抱きつくように私を止めた。やっぱり二人にも伝わったみたい、私の決意が。
……あ、脚には村長さんも。
「トレミナ! 行くなっ!」
「行かないでっ!」
「行っちゃいかんのじゃー……」
私は体を捻ってスルリと抜け出す。
「他に道はないんだよ、分かって。私も死なないように頑張るから」
なかなか難しいんだけどね。
まっすぐ【白王覇狼】に向かって歩いていく。まあいつも通りの足取りだ。
あっちは私を見るや歩みを止めた。そのまま凝視。どうやらマナで私を探っているみたい。今、ちょっと驚いた。子供のマナ量じゃないしね。
そういえばこの神獣、人型になれるんだっけ。
言葉通じるかな。
「私の言葉、分かりますか?」
すると、白狼はクイッと鼻を動かした。いけるようだ。
「あの【黒天星狼】を殺したのは私です。感知で向こうの人達を調べてもらえれば、真実だと分かります。村に危害を加える野良神は容赦しません。今からあなたも討伐します」
【白王覇狼】は村外れの集団に一度目をやった後、再び私に戻してきた。
鋭い眼光で私を睨む。
信じてくれたね。これで恨みの対象が私一人に絞られた。
だからって、私の命と引き換えに皆を助けてください、なんて言うつもりはないよ。約束してもらっても、何の保証もないしね。
大事なのは、私を殺した段階で白狼の気が大分静まるということだ。
もしその時、自分がかなりの深手を負っていて、相手方に少しでも戦力が残っていれば、ここで退こうかなってなる可能性は高い。
こんな計算をするくらい、現在厳しい状況にある。
敵は相当タフ。きっと狼族の生命力特化進化とかに違いない。
私が万全の状態でも倒し切れるかどうか。今はその半分、五分の〈全〉でやれるところまでやるしかないんだ。
理想はやっぱり、相手の気分に頼るんじゃなく、残りの皆で倒せるほどの致命傷を与えること。
ちなみに、今回は私一人なので向こうの神技に耐えるには〈全〉が必須だ。
状況はなかなかに絶望的だけど、勝機もないわけじゃない。
最大のチャンスは最初の一撃にあり。
これに魂を込める。
よし、いくよ。
剣と盾を構え、【白王覇狼】に向かって走る。
振り払うような前脚をジャンプで回避。〈ステップ〉で魔法の足場を作り、そのまま空中を駆け上がる。
私の方は大狼二戦目で、ある程度は行動が読める。
これに対し、あっちはまだ私の動きに慣れていない。
白狼の頭上に到達。さっき黒狼を仕留めた絶好のポイントだ。
なお、ここまで私は、纏うマナは〈闘〉にし、〈プラスソード〉も使っていない。色々と不意打ちだけど、悪く思わないでね。余裕がないので。
【白王覇狼】の首筋に剣を振り下ろしつつ、マナを〈闘〉から〈全〉に。
さらに〈プラスソード〉を発動し、マナの大剣を作る。
仕上げに〈オーバーアタック〉で強化。
ザン――――――――ッッ!
「ギャギャ――――ウ!」
よろめく巨狼。しかし、足をグッと踏ん張り、体勢を立て直した。
怒りと闘志に満ちた眼でこちらを。
……私の、魂の一撃(全力の不意打ち)が。
本当に、まいった。
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