46 村の英雄
伝説の野良神【黒天星狼】の命を絶つ役目は私が担うことに。
コルルカ先輩が、その方がいいと言った。
これほどの神獣になると誇り高く、気を付けないと屈辱に感じることもあるらしい。村の皆を食い殺そうとしたとんでもない神様だけど、それでも神様には違いない。
恨みが強すぎると死後に何か発動したりすると聞くので、先輩の言う通りにした。
大狼の骸を前に、四人で手を合わせる。
皆の所に戻る途中、少し離れた森で動く人影が目に入った。相当な人数がいる。
あんな場所で何してるんだろう?
コーネルキアの人じゃないみたい。旅のキャラバンかな。
戻ると村の人達に囲まれた。
「トレミナちゃん! どうしてあんなに強いの! ねえ!」
「セファリスもすごい動きしてたぞ!」
「英雄! ノサコット村の英雄だわ!」
「石像を作って称えよう!」
石像はやめて、絶対に。
皆のテンションがやけに高い。まあ、無理もないと思うけど。
今の戦いに命を懸けていたのは私達だけじゃなかったということだ。緊張から解き放たれた村人達の熱気は凄まじかった。
えーと、お父さんとお母さんは……、あ、固まってる。
こちらもやっぱり、無理もないよね。二年前まで普通の子供だったのに突然、だもん。……少しずつ現実を受け入れてもらおう。
熱狂する村人をかき分け、村長さんがやって来た。
その行動は、他の人とは対照的だった。
私の肩に手を乗せ、静かに涙を流す。
「……長生きも、してみるものじゃ。……ありがとうのう、トレミナちゃん」
そういえば聞いたことがある。
村長のハルテトさんはこの村の生まれじゃないって。
彼が若かりし頃、まだコーネルキアという国はなかった。
一帯は村々が点在するだけの空白地帯。野良神が我がもの顔で跋扈する無法地帯、と言い換えることもできる。
住んでいる人々は常にその脅威に怯え、毎月のように亡くなる人も出たという。力のある野良神の襲撃に遭えば、村ごと地図から消えるなんてことも。
ハルテトさんの村もその一つで、彼は命からがらノサコット村に辿り着いたらしい。
この時代に生まれた私に分かるはずもないけど、悔しい想いも沢山したのかな。自分にもっと力があれば、って。
「はい、村長さんが村長を務める村で、村長さんに孫のように育ててもらった私が、村を消滅させようとした野良神を撃退しました。もう村長さんが村を救ったも同然です」
「…………。……ほんに、わしにはすぎた孫じゃよ、トレミナちゃんは」
ハルテト村長は気分を変えるように、「さて」と明るい声で。
「皆の者! 村の英雄、トレミナちゃんとセファリスの石像を作るぞい!」
あ、いつもの村長さんに戻った。
だから石像はいらないって。あんなの恥ずかしいだけだよ。
ほら、セファリスも険しい顔してる。
お姉ちゃんも困るでしょ?
「……どうして石像なの? 銅像にして!」
そっちか。確かに、騎士の英雄は石像より銅像になってるイメージがあるね。
よし、じゃあ私の分はもう一人の騎士好きに押しつけよう。
「私は辞退するので、お姉ちゃんとコルルカ先輩、二人の銅像をお願いします」
「バッ! バカ! 私はこの村の出身じゃないぞ! それに銅像なんて恥ずかしいだけだろ!」
ものすごく嬉しそうですが?
一気に賑やかな雰囲気となり、やや遠慮がちにミラーテさんが。
「じゃ私達、一旦報告に戻るわね。トレミナさん達のこともきちんと伝えておくから。ほんとに助かったわ。まさか、こんな上位の野良神が出没するなんて」
「それなんじゃがのう……」
再び村長さん。また何か思い出したようだ。
「黒の厄災がドラグセンで騒がれていたのは、何十年も前の話じゃよ。てっきり、あちらで討伐されたものと思っておったがのう。よく行動を共にしていた白の厄災もろとも」
ん? よく行動を共にしていた、白の厄災……?
というわけで、白の厄災が始まります。
なお、トレミナがちゃん付けでセファリスが呼び捨てなのは、トレミナがアイドルでセファリスが悪ガキだからです。
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