45 黒の厄災 ジャガイモ畑の決着
起き上がった【黒天星狼】は、歯を剥き出しにして私を睨む。
想定以上に〈オーバーアタック〉の斬撃は効いたようだ。
でも、そんなに私ばかり凝視していていいの?
アレは定期的に飛んでくるよ。
「火霊よ! 爆ぜて私の敵を打ち砕け! 〈フレイムバースト〉!」
大狼の顔に、ドパンッ! と再び炎が炸裂した。
撃ってきたミラーテさんに向かって怒りの一吠え。
さっきから何顔ばっか狙ってきてんだ! といった感じだろうか。
「ひぃ! あの子よ! トレミナ隊長がそうしろって言ったの!」
ミラーテさん、隊長を引き受けた覚えはありませんよ。
彼女には派手な火霊魔法で顔を集中攻撃するよう頼んである。
やっぱり〈フレイムバースト〉が最適みたい。弓はいらないね。
敵の視覚と聴覚を、わずかな間でも遮断するのが目的。マナを感知して私達の動きを読んでいても不快には違いない。
黒狼はすぐに視線を私へと戻してきた。
一番倒さなきゃならない相手は私、ってことだ。
姉と引っつけば強靭なマナを生み出し、単体でも危険な一撃を持っている。一刻も早く仕留めたいはず。
それを裏付けるように、【黒天星狼】の体がもう一度光った。
今度は攻撃強化かな?
準備が整った大狼は空に向かってジャンプ。
落下の勢いもプラスして、という意図だろうけど、良策とは言えないよ。
忘れたの? 私にも遠距離攻撃があるってこと。
剣を地面に突き刺す。
まずは〈オーバーアタック〉を発動。
手の中にマナ玉を作った。
空中にいる大きな標的に照準を定め、〈トレミナボール〉投擲。
ドッシュ――――……、ドムッ!
「キャイ――――ン!」
強化された剛速球が狼の腹部にめりこんだ。
神獣は悲痛な叫びを上げて大地に叩きつけられる。
これはかなり堪えたみたいだね。ダメージは結構蓄積してるはずだ。
そろそろ仕留めないと、……ちょっと、嫌な予感がする。
【黒天星狼】は立ち上がると、今度は横に走り出した。
ピタッと止まり、畑に爪を突き立てる。
すると、地中から尖った岩石が次々に出現。
私は〈ステップ〉で宙に逃れるも、岩の針はどこまでも伸びてくる。
「トレミナ! お待たせ!」
トゲトゲの山を登ってきたセファリスが合流。
合わさって強固になったマナで岩石針を踏み砕く。お、伸びるのが停止した。
……嫌な予感、的中だよ。
〈雷狼砲〉、〈火の咆哮〉、〈水激波〉と来れば、流れ的に残すは二分の一の確率で地属性。
完成した針山を頂から眺める。
何この巨大オブジェ。
使ったのは〈地の爪〉だろうけど、本当に大地の爪のような物体が。
撤去するのどれだけ大変か。
……聞こえる、ジャガイモ達の泣き声が。
度重なる攻撃で、一番ダメージが蓄積しているのはジャガイモ畑だ。
猶予はない。今すぐにこの狼を倒さなきゃ。
「お姉ちゃん。もう仕留めるから、お願いできる?」
「任せて! しっかりやってみせるわ!」
ブーストを得たセファリスがタタタタッと駆けていく。
巨狼の攻撃を素早くかわし、横っ腹に斬りかかった。
彼女を援護するように、コルルカ先輩が突進を繰り返し、ミラーテさんが火霊魔法を連射。
「大技を続けたせいでバテ気味だな。攻め時だ!」
「私はとにかく顔を狙えばいいのね!」
この作戦は戦闘前から決めてあった。
敵が弱り始めたら三人に誘導してもらう。一撃で終わらせられる力を溜めた私の所へ。
私は大剣にマナを集め、〈オーバーアタック〉も使用しておく。
タイミングを見計らって、空中の足場から跳んだ。
【黒天星狼】の首筋に、渾身の一振り。
――――。
目の前では、地面に伏した大狼が苦しそうに息をしていた。
もう立ち上がる力も残ってないようだ。
その瞳が動き、私を捉える。
伝わってきたのは、疑問。
なぜ自分が、こんなわずかな時間しか生きていない人間達に負けたのか。
いいよ、教えてあげる。
あなたの敗因は、ジャガイモ畑を戦場に変えたことだ。
黒の厄災編はこれで完結です。
しかし、トレミナの試練はまだ……。
お読みいただき、有難うございます。










