44 黒の厄災 攻勢
黒狼は振り返って私達を見た。
どうして全く効いていない? とでも言いたげだ。
いや、マナの力強さは感じているはずだから、そのマナは何だ? かな。
「火霊よ! 爆ぜて私の敵を打ち砕け! 〈フレイムバースト〉!」
ミラーテさんの詠唱。
直後に狼の顔は激しく燃え上がった。
「風霊よ! 私と共に突撃だ! 〈嵐旋結界〉!」
コルルカ先輩の詠唱。さっきと変わってませんか?
風を纏った先輩は狼の後脚に突進する。巨体がぐらりと揺れた。
「チャンス! お願いトレミナ!」
はいはい、行ってらっしゃい。
私から離れたセファリスは、再び大狼の背に着地した。
走りながら双剣でザクザク斬っていく。
明らかに先ほどより攻撃力が上がっていた。
私はマナを体から離した状態で維持できる。
同様に、セファリスを覆ったマナをそのままキープ。使い切るまでのわずかな時間だけど、姉はマナが合わさった状態で戦える。
いわゆる、ブーストタイムだ。
さらにブーストを追加しよう。
「いいよ、お姉ちゃん。頑張って」
「マナが! 漲ってくる!」
力強さを増したマナを身に纏い、斬って斬って斬りまくるセファリス。
シュババババババババババババッ!
「ギャギャーン! ギャーン!」
堪らず悲鳴を上げる【黒天星狼】。
さすがにこれは効いてるね。今回は本当の、ギャン! だ。
「このまま仕留めてやるわ! 伝説の神獣! 討ち取ったり!」
「油断しないで、お姉ちゃん」
こんな簡単なはずがない。
と思った瞬間、大狼の全身が光に包まれた。
剣を振り下ろしたセファリスが首を傾げる。
「急に、硬くなった……?」
神技は私達の技能の元祖。
じゃあ当然、持っていて然るべきだよね、強化の技を。
防御力を上げたんだ。
黒狼がブルブルッと体を振るわせる。
飛ばされたセファリスは少し離れた地面に着地。
そちらに向かって狼は大口を開けた。
「いかん! 今行くぞー!」
コルルカ先輩が一目散に駆けていく。
【黒天星狼】の口から放たれたのは強力な冷気だった。
一帯の畑が氷に覆い尽くされる。
姉の元には先輩がギリギリで間に合った。
炎の壁が築かれ、その周辺だけ氷がない。
「これは【水激波】か? やはり雷球ほどの威力はないな」
「先輩助かりました! 危うく凍えるところでしたよ」
「ふふ、仲間を助けるのは騎士として当然のことだ。礼には及ばん」
「さすがです。私も騎士として見習わないと」
……二人共、まだ騎士じゃないけどね。
ともかく、お姉ちゃんのブーストが切れていたので先輩には感謝だ。
それにしてもこの狼、何してくれてるの?
あの辺のジャガイモも植え直さなきゃいけないじゃない。
私は〈ステップ〉の足場を使って【黒天星狼】の真上に移動。
大剣を振り上げる。
防御が強化されて、もう私の攻撃は効かないかも。
ならこちらも強化するかな。
私の小手にはその魔法が宿っている。しかも結構特殊だ。強化されるのは一度の攻撃のみ。つまり毎回かける必要がある。
けどその分、効果は大きいと思うんだよね。
いくよ、〈オーバーアタック〉発動。
溢れんばかりの力と共に、狼の背にマナの大剣を振り下ろした。
ズバンッッ!
「キャーン!」
【黒天星狼】は大地に倒れこんだ。
ついに、キャーン! と鳴かせたよ。
もうこれ以上、ジャガイモ畑を好きにはさせない。
次話、決着です。
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