43 黒の厄災 姉妹の絆
のんびり作戦を立てている余裕はない。とりあえず、各自の役割を確認した。
私とセファリスは前衛攻撃、コルルカ先輩は前衛支援、ミラーテさんは後衛支援。それぞれ手札が少なかったり、偏っていたりするので、これしかないとも言える。
一気に攻めたて、なるべく早く決着をつけたい。
というのも、姉と先輩は〈全〉で戦うため。タイムリミットは十分弱。
私は〈闘〉よりやや多めのマナを纏うけど、流れ次第で〈全〉に移行する。
ちなみに、ミラーテさんは後衛なので〈闘〉で大丈夫だ。その分、攻撃の方に注力してもらう。あ、そうだ、言っておかないと。
「ミラーテさん、あのスーパー何とかはいらないです。どれか一つの技能にマナを集中させてください。その方がダメージはあると思います」
「……うん、分かったわ。詠唱も一回で済むしね……。トレミナさんは私よりリーダーに向いてるかも……。そうそう、狼族について教えておくわね」
神獣は種族ごとに神技が決まっているらしい。
狼族の場合はこんな感じだ。
〈火の牙〉 〈風の牙〉 〈地の牙〉 〈雷の牙〉 〈水の牙〉
〈火の爪〉 〈風の爪〉 〈地の爪〉 〈雷の爪〉 〈水の爪〉
〈火激波〉 〈風激波〉 〈地激波〉 〈雷激波〉 〈水激波〉
〈火狼砲〉 〈風狼砲〉 〈地狼砲〉 〈雷狼砲〉 〈水狼砲〉
〈火の咆哮〉〈風の咆哮〉〈地の咆哮〉〈雷の咆哮〉〈水の咆哮〉
この中から好みのものを選んで強化していくんだって。
私達に撃ってきたのは〈雷狼砲〉だね。
〈牙〉から〈咆哮〉にかけて、攻撃距離が伸びたり範囲が広がったりする。
ミラーテさんは各神技の特色も教えてくれた。
〈牙〉 = 近距離、高威力。
〈爪〉 = 近、中距離。
〈激波〉= 中距離。前方、範囲攻撃。
〈狼砲〉= 遠距離、高威力。タメが長い。
〈咆哮〉= 自分中心に広範囲。
ミラーテさん、【戦狼】の〈狼砲〉も見たことがあるそうな。撃ってきたのは手で持てそうなサイズの弾で、さっきのとは別の技と言われても不思議じゃないって。
でも、戦闘が始まれば〈雷狼砲〉は気にしなくていいと思う。近距離であれは使いづらいからね。
注意しなきゃいけないのは、まず〈牙〉だろう。
ゼロ距離なだけに、一撃必殺の威力に違いない。顔の動きには常に目を光らせておく必要がある。
それから、近接戦闘でもう一つ気を付けなきゃいけないのが〈咆哮〉だ。
「オオォォ――――ンッ!」
ズド――――ン……。
爆弾でも投下されたように、【黒天星狼】の周辺が広く吹き飛んでいた。
あちこちで火の手が。〈火の咆哮〉だ。
六人の騎士達は直撃を受けたらしく、全員地面に倒れてしまっている。
ミラーテさんが涙ながらに叫ぶ。
「皆――――っ! 死んじゃった――――っ!」
「いえ、全員生きています。だけど、もう限界ですね。行きましょう」
駆け出す前に、お父さんとお母さんの方を見た。
二人共、言葉を呑みこんで何も言わない。
止めたいけど、分かってるんだ。私達が戦うしかないって。
「心配いらないよ。すぐに終わらせるから」
さもないと、ジャガイモ畑がどんどん削られていく。
走りながら四人それぞれ準備を整える。
コルルカ先輩は大盾とメイスを構え、マナを〈全〉に。
セファリスは双剣を抜き、こちらもマナ全開。
ミラーテさんは涙を拭いつつ、弓を取る。
私も黒剣を鞘から抜いた。
「お疲れ様でした。代わります」
六人の騎士に声を掛けると同時に、大狼に向けて剣を突く。〈プラスソード〉でマナの刃をギュンと伸ばした。
しかし、刃は狼の喉元に刺さるや、粉々に。
強度が足りないか。じゃあ、長さはほどほどにして太くしよう。
刃渡り約四メートルの大剣を作った。
踏み潰そうとする【黒天星狼】の前脚を避け、何もない空中にジャンプ。
タイミングよく、そこに半透明の板が現れた。
それを踏み台にして跳ぶと、進行方向にまた同じ板が。
これはすね当てに付与された魔法〈ステップ〉で出したものだ。こんな感じで、次々足場を設置できる。
宙を駆け、大狼の脇腹にマナの大剣を振り下ろした。
ガキィィン!
岩を叩いたような感触。守りが強固だ。
でも、全くの無傷ってわけでもなさそうだね。黒くて分かりにくいけど、血がにじんでる。
ふと気付くと、【黒天星狼】の背中にセファリスが。
確かに、お姉ちゃんには私みたいな長い剣や魔法の足場はないけど……、怖いもの知らずだ。
「背後、っていうか背中をとったわ! もらったーっ!」
双剣を振り回してガシガシ斬りつける。
ここで、大狼がクイッと顔を上げた。
やばい、あれが来る。
「お姉ちゃん、早く」
「トレミナ――!」
私が〈ステップ〉で駆け寄ると、セファリスもすぐさま飛びついてきた。
二人のマナを合わせた瞬間、狼の遠吠え――。
――――。
周囲は完全に炎に包まれる。〈プラスシールド〉もすぐに溶けた。
でも、全然熱くない。
さっき、〈雷狼砲〉を防いだ時に気付いた。
強力なのは、私と姉の組み合わせだ。もしマナを混ぜて強くなるのに条件があるなら、私達は全てクリアしているだろう。
十一年間ずっと一緒にいて、私達は実の姉妹以上に姉妹なんだから。
抱きつくように、私に引っつくセファリスがフフッと笑った。
「この狼に後悔させてやりましょ。私達姉妹のいる村を襲ったこと」
まあ、そういうことだね。
コルルカ先輩に申し訳ない展開に。
でも、先輩はソロで充分硬いですから。
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