42 黒の厄災 希望
神の雷に打たれて戻ると、村の皆が駆け寄ってきた。
お母さんがペタペタと私の体を触る。確認するようにジャガイモ畑のクレーターをちらり。それから、不思議そうな顔で改めて私を見た。
「どうして生きてるの!」
ひどいよ、お母さん。
どうやら相当動揺しているみたいだ。
「ちゃんと防御したからだよ」
「……ちゃんと防御したら何とかなるの? 畑に大穴開いてるのに……?」
「えーと、一人じゃ危なかったけど、皆で力を合わせたから大丈夫だったの」
「……え? ……あんな大爆発でも、力を合わせれば、大丈夫なの……?」
どう説明してもダメっぽい。
お母さんの常識概念を超えてしまっている。
コルルカ先輩が空を見上げながら深く息を吐いた。
「二つ目の雷球を見た時、私は死を覚悟した……。マナを重ねるなど、あの状況でよく思いついたな」
「普通に〈装〉の要領でお互いを覆い合えばいいと思っただけですが」
「トレミナの最大の武器は、マナ量より、その異常なまでの冷静さと判断力だな。しかしさっきの、ただマナを合わせただけではない力強さだった。……あの神技を受けてほぼ無傷とは。報告して検証してもらう必要がありそうだ」
後々の話になるけど、これはそう簡単にできる技術じゃないことが判明する。
まず、マナを合わせるのは気心が知れた者同士なのが最低条件。
次に、意思を高いレベルで一致させる必要がある。この条件が難関で、少しでも乱れがあると相乗効果は発揮されない。
それでも、成功した時のメリットはとてつもなく大きい。
なので、錬気法の新たな技術、〈合〉として登録されることになった。
トレミナシリーズの二作目だ。
なお、三人以上の複数人、とりわけチームで合わせると効果はさらに絶大なものとなる。当然、難度も上がるので、別の技術〈皆〉として登録されることに。
トレミナシリーズの三作目だ。
〈合〉と〈皆〉は、〈全〉に次ぐ最後の切り札となり、四年生の教本にも記載された。
『〈合〉と〈皆〉についてよく言われるのは、トレミナシリーズなのに私の名前が付いてないのは嫌じゃないですか、だね。
いや、逆。これだけは絶対に名前入れないで、って私が頼んだの。
錬気法の技術なのにおかしいでしょ、〈トレミナ合〉とか。〈皆〉はちょっと入ってる気するけど……。
でもまあ、〈合〉と〈皆〉は作ってよかったと思う。
多くの騎士達の命を救うことにつながったからね。
普段は成功率の低い技だけど、緊急時には嘘みたいに上手くいくんだよ。
だって、絶体絶命の時ってただシンプルに思うでしょ?
生きたい、って。
剣神(兼ジャガイモ農家)トレミナの回顧録より』
気合を入れ直すようにコルルカ先輩は「よし!」と。
「何にしても拾った命だ。すぐに失うわけにはいかん。絶対にあの神獣を倒すぞ。第127部隊の騎士達も頑張ってくれているしな」
先輩の言う通り、私達が雷球を凌いでから、騎士達のマナが急に力強くなった。【黒天星狼】も簡単にあしらえなくなってきている。
おかげで私達はもう破壊砲で狙われずに済んでいるんだけど。
騎士の皆さん、どうしてあんなに元気に?
「希望を見たからよ、あなた達に」
ミラーテさんがこちらまで戻ってきていた。
「抜けてきていいんですか? 隊長なのに」
「私はこの後でもう一度戦うわ。あなた達と一緒にね。部下達は〈全〉が切れるまで意地でも敵を抑える。その間に作戦を練りましょ。
今更だけど、……あの神獣と、戦ってくれる?」
「しょうがないわね。私の力、貸してあげるわ」
お姉ちゃん、どうしてそんな上から。
「事ここに至っては仕方あるまい。私も助勢しようではないか」
先輩、いつにも増して口調が。
そういえば、二人共騎士への憧れが強いんだっけ。
好きそうだな、こういうシチュエーション。
私はまあ、普通で。
「もちろん戦いますよ。村の存亡が懸かっているんですから」
「ありがとう! それにしても驚いたわ。トレミナさんとセファリスさんは知っていたけど、他にもこんな子がいるなんて。すごく小さいのにあそこまで防御魔法を使いこなして。あなた、十歳くらい? お名前は?」
……ミラーテさん、まさか、コルルカ先輩を知らない?
完全に武装した村の子供だと思ってるよね。
小刻みに震えるコルルカ先輩。
怒りが限界を超えたようだ。
「……私の名は、コルルカ。……コーネガルデ学園の、四年生だ」
「え……?」
「来月! 下剋上戦でお前を倒し! 隊長の座を奪う者だ! 覚えておけ!」
「え――――!」
うん、その前に、あの神獣を何とかしようか。
久々に回顧録を。すっかり存在を忘れていました。
コルルカ先輩の進路も決まったところで、次話、戦闘開始です。
評価、ブックマーク、本当に有難うございます。










