41 黒の厄災 神だろうが倒せるはず
本格的に戦闘が開始された。
男女六人の騎士が【黒天星狼】を取り囲み、少し離れた所からミラーテさんが弓矢や魔法で援護する。
前衛六後衛一、それが彼ら第127部隊のスタイルらしい。
前衛と言っても六人は、主に中から遠距離の技能を使っている。
黒狼があまりに巨大なためというのもあるし、近付きすぎたくないというのもあると思う。敵はその巨躯に似合わず俊敏で、間合いを計り違えると取り返しがつかない。
火やら水の刃を武器から放ったり、雷やら風の魔法弾を撃ったりと奮闘。
「さすが黒い騎士達だ……。あんな化け物を相手に善戦している」
「いいや、彼らはギリギリの状態なんだ。トレンソさん」
コルルカ先輩がお父さんの見解を正した。
そう。というのも、前衛の六人が纏っているマナは〈闘〉じゃなく、〈全〉だからだ。十分以内にマナを出し切る〈全〉は最終手段。それ以降は戦えなくなっちゃうんだもん。
彼らはその時間内に応援が来る可能性に全てを懸けている。
第127部隊、決死の戦い。
対する神獣の方はずいぶん余裕に見える。
様子を窺いながら軽くあしらっている、って雰囲気が。
何より、【黒天星狼】はまだ神技を出していない。
神獣の技能は神技と呼ばれ、これを模して作られたのが人間の戦技や魔法になる。つまりは私達の元祖。なので当然ながらものすごく強力、らしいよ。
加えて、あの巨体とマナで放ってくるんだから、大変な破壊力だろう。
困ったな、本当に神様と戦っている気分だ。
たぶんジル先生でも簡単には倒せない相手だと思うんだけど。先生、助けにきてくれないかな。
……いない人のことを考えても仕方ない。
何か手がないか、観察して探そう。
見つめ続けていると【黒天星狼】のマナに変化が。
まずい……。
うろちょろ邪魔だし、そろそろ片付けていくか。
って思考に切り替わった。
注意しないと、と思った直後、大狼は右の前足にマナを集中。
騎士の一人に振り下ろした。
彼は地面に叩きつけられる。
敵はもう一度足を上げ、そのまま踏み潰そうと――。
バチッ!
私の投げた〈トレミナボール〉が寸前で間に合い、黒狼の足を弾いた。
「ありがとうトレミナさん! 彼! ぺしゃんこになるとこだった! やっぱりそのボールはすごい威力ね!」
お礼はいいです、ミラーテさん。戦闘に集中して。
だけど、確かに私の〈トレミナボール〉は威力が上がっている。
チェルシャさんとの試合で投げまくったせいか、思っていたより早く〈放〉を習得できた。もうマナ玉は手を触れなくても動く。
ジル先生が石の壁二枚を撃ち抜いた、あの球に近付きつつあるよ。ところが、それでも狼の足を払いのけるのが精一杯。
まったくあの神獣は……、うん?
少しの間、弾かれた足を見つめていた【黒天星狼】がギロリと私を睨んだ。
……結構痛かったみたい。
大狼はこちらに向かって、グワッ! と口を開いた。
その中に、急速にマナが集まり出す。
ついに来る。初めての神技だ。
私、ボールを一球投げただけなのに。
そんなことより、この場所はいけない。村の皆が……、受け止めるしかないか。
でもどうしよう。
……あの神技、皆どころか村自体が吹き飛びかねない。
「案ずるな! 私に任せておけ!」
駆け出したコルルカ先輩。ジャガイモ畑の真ん中で大盾を構えた。
「風霊よ! 周囲を巡って私を守れ! 〈嵐旋結界〉!
火霊よ! 炎の壁となって私を守れ! 〈フレイムウォール〉!」
先輩の周りを暴風が吹き荒れる。
遅れて前方に燃え盛る防壁が出現。
風と火が先輩の専攻精霊。……この人、本当に防御一色だな。
だけど、この魔法の組み合わせはよく考えられているね。
後ろの結界から風を受けて、炎の壁が見る見る大きくなっていく。ミラーテさんの、ただ引っつけただけのスーパー何とかとは大違いだ。
さらにコルルカ先輩は、外側に土の壁を、内側に二枚の〈プラスシールド〉を構築。五重の防御壁を完成させた。
一方、【黒天星狼】の前には巨大な雷の球体が。
放電しながらゆっくり進んだかと思うと、一気に加速。こちらに高速で飛んできた。先輩の防御陣とぶつかる。
一層目、土の壁。一瞬だけ受け止めるも、即座に崩壊。
二層目、炎の壁。かなり持ち堪え、消滅時には雷球は半分ほどの大きさに。
三層目、風の結界。ガリガリ雷球を削り、さらに半分のサイズに。
四層目、〈プラスシールド〉一号。雷球と相殺。
五層目、〈プラスシールド〉二号。無傷。
「見たか! 神の雷! 恐るるに足らず!」
勝ち誇るコルルカ先輩。が、すぐに絶句する。
黒狼の目の前に、新品の雷球が浮かんでいた。もう発射間際だ。
「卑怯な! 貴様はそれでも神か!」
まあ、止められるの分かっていたら、もう一球用意するよね。
先輩は〈プラスシールド〉一号を張り直すくらいしかできない。
私も手伝わなきゃ。
止めようとするお父さんとお母さんを振り切って走り出す。
コルルカ先輩と盾を重ね、〈プラスシールド〉を追加。
それから、私のマナで彼女の全身を覆った。先輩は小さいから包みやすい。
「お前、今、私のことを小さいと思っただろう?」
「言ってる場合ですか。同じようにマナで私を覆ってください」
ここに、追いかけてきていたセファリスも加わる。
「トレミナはお姉ちゃんが守る! 死ぬ時は一緒よ!」
言葉が矛盾している。
死と隣合わせのこの状況で、どうしてそんなに張り切ってるの……。
三人のマナを一つにした直後、雷球が飛んできた。
〈プラスシールド〉群は蒸発し、稲光りと共に大爆発――。
ドドォォ――――ンッ。
――――。
私達の立っている所を残し、半径約二十メートルのジャガイモ畑が消失。ぽっかりクレーターが出来ていた。
ちなみに私達は……、お姉ちゃん、どう?
「ちょっとビリビリしたわね」
だそうな。
とりあえず、ジャガイモ畑をこんなにしてくれたあの狼は許せない。
私達が力を合わせれば、きっと神様だろうが倒せるはずだ。
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