38 迫りくる戦慄
作業は予定よりずいぶん早く進んだ。
私が(魔法で)耕しすぎたせいで畑はかなり広がってしまったけど、逃亡していたセファリスを連れ戻したのがよかった。
一刻も早く解放されたい彼女は高速で種イモを植えていった。
私とコルルカ先輩もマナを活用して動いたので、帰省五日目には、大変な作業は粗方終えることができた。
問題がなければ夏前には立派なジャガイモが収穫できるはずだ。
もちろん、畑が広くなった分、収穫量も増える。各家の収入もね。村の皆は今からそわそわして、待ちきれない様子。
「今回のジャガイモは、何かすごい気がするのう」
村長さんがそう呟いた。
畑の土には私のマナが含まれている。
きっと元気なジャガイモが育ってくれる、と信じたい……。
それにしても、思っていた以上にマナが農業に役立った。
加えて地属性の魔法だ。
学生は残りの二年間で専門とする精霊を選び、親和性を高めるらしい。チェルシャさんなんかは特殊な例として、通常は火水雷地風の中から二つ選択する。
私は、一つは地属性でほぼ確定。
魔導具の力を借りなくても畑にアクセスできる。
卒業する頃には、私は何かすごいジャガイモ農家になっている気がするよ。
「そういえば、先輩の専門属性って何なんです?」
「言ってなかったか? いずれ技能を見せてやろう」
「どうせ防御系でしょ」
「どうせとは何だ。違うかもしれないぞ」
「違うんですか?」
「無論、防御系の技能だ」
帰省六日目。
私とコルルカ先輩は、村から少し離れた所にある森を歩いていた。
一人で先を行っていたセファリスが駆け戻ってくる。
「私達の隠れ家は大自然に呑まれていたわ。もうこの辺りで始めましょ」
何を始めるかというと、魔導装備を使いこなせるようになるための訓練だよ。
なので全員、黒煌合金の鎧を着こんできた。
セファリスが双剣の片方をスラッと抜く。
「お姉ちゃん、実は密かに家で練習してたのよ。ほら見て」
刃を炎で包むと、素手でタッチ。
「全然熱くなーい。ほらほらー、制御は完璧よ」
「それ、絶対真似しちゃダメなやつだね。私も早く使えるようにならないと」
「全てに付与されているなど、ありえん話だ……。普通は武器のみ、せいぜい盾までだぞ」
とコルルカ先輩は大盾と棍棒を掲げた。
でも、きちんと扱えなきゃ意味ないからね。頑張ろう。
まずは……、盾、はいいか。〈プラスシールド〉は出せるし、あとは構えるだけだ。じゃあ剣、〈プラスソード〉を発動してみよう。
鞘から黒剣を抜いた。〈装〉を用い、刃をマナで覆う。
伸びろ、伸びろ、剣先伸びろ。
念を送っていると、ニョキッと五センチほどのマナの刃が。
……短い。
「イメージが貧弱だ。〈プラスソード〉はもっと伸びる。限界は、十メートル、だったかな。おっと、こっちに向けるなよ」
先輩がアドバイスをくれた。
そんなに伸びるんだ。
よーし、伸びろ、伸びろ、十メートル。
ギュンッ! と伸びた刃が前方の木を貫通。さらに、奥にある木も突き抜けた。
……おお、これは本当に気を付けないと危険だね。
というより、限界まで伸ばす必要はなかった……。
プラス五十センチくらいまで縮め、軽く素振りをしてみる。当然だけど、マナの刃だから全く重さが変わらない。
この戦技、相当便利じゃない?
ねえ、先輩。
「似た技能だが、〈プラスシールド〉より遥かに格上なんだ。ソードの方は。そもそも一般販売もされていない。あれば皆買うだろ?」
確かに。
「お姉ちゃんだってほしいわよ。一振りで全員を真っ二つにできるもの」
いや、何言ってるの。
でもリズテレス姫、すごくいい剣をくれたんだ。
これは私への期待の表れ……、あまり深く考えないでおこう。
さ、他の技能も確認しなきゃ。
あとは、兜、鎧、小手、すね当て、か。
……大変だな。
休暇もまだまだあるので、その日から皆でフル装備の訓練をすることに。
一番乗り気だったのはセファリス、ではなく、コルルカ先輩だ。何でも、騎士になったら下剋上戦というのがあって、少しでも腕を磨いておきたいらしい。
下剋上戦? 何それ……。
聞かなかったことにした。
そうして時間は過ぎ去り、帰省十五日目。
コーネガルデの騎士が慌てた様子で馬を走らせ、村に駆けこんできた。
「緊急警報! 緊急警報です!」
この日、私は本当の戦いを知ることになる。
今日で投稿一か月です。
明日からも頑張ります。
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