34 春の女子旅
しばらくマリアンさんから武具の特性や効果的な使い方、お手入れ方法などの指南を受けた。開発者から直々に教わるとは贅沢だ。
結構時間が掛かっちゃったな。
セファリスはどうしただろう。待ち疲れて先に帰っちゃったりとか、はしないか。私を探しに街に出てなきゃいいけど。
セファリスはまだ店内にいた。
ショートソードを手に取り、じっと見つめている。
お姉ちゃんはさっきの魔法具街で、自分へのおみやげと言いつつ今月分のお給料を使い果たした。トーナメント準優勝の賞金百万ノアが全財産。
買えるのはあれくらいなんだよね。
「どうして急に装備がほしいなんて言い出したの? まさか私が騎士になったから、形だけでも対抗しようと……」
「お姉ちゃんはそんな小さい人間じゃないわよ! ……レゼイユ師匠、また訓練に私を連れていくって……。自分の身は自分で守らなきゃ!」
セファリスはかなり小さい人間だと思う。だけど、そういう事情なら仕方ない。マリアンさんのおかげで私の装備費用も浮いたし……。
「分かったよ、私が買ってあげる。一式選んで」
「ほんとにいいの! ありがとうトレミナ!」
うちの姉は金使いが荒い。それは妹のお金でも変わらなかった。
まず、武器はレゼイユ団長が双剣なのでそれに倣うらしい。
刃に炎を纏わせる戦技が付与された剣と、雷の波動を飛ばせる戦技が付与された剣を購入。二本で五百万ノアを超えた。
防具類も足すと一千万ノア近くに。
「ずっと魔剣がほしかったのよ!」
「はぁ……、遠慮なさすぎだよ。大事にしてね」
「もちろん! トレミナが買ってくれた装備だもの! ふふ、うふふ、……ん? あんな子供も魔導具を買うのかしら?」
「え? ああ、あれは子供じゃないよ。先輩だから」
私達の視線の先にはコルルカ先輩が。
彼女も騎士の準備で来店したようだけど、一心不乱に何かを見つめている。
何をそんなに必死で……? あ、私のと同じタイプの盾だ。それの大盾版。コルルカ先輩なら〈プラスシールド〉の二枚重ねが可能になる。
でも先輩、それ、六百万もしますよ。支度金だけじゃ足りないし、契約金を上乗せしても全装備買えないんじゃないですか?
で、そうやって葛藤に苛まれているんですね。
「少しお金貸しましょうか? いくらあればいいんです?」
「トレミナ! なぜここに! ……二百万ノアもあれば、いや! ダメだ! 騎士たる者! 借金をするなど許されない!」
面倒な人だな。
私はカバンから札束二つを取り出す。
「じゃ、この二百万は先輩にあげます。いつか私に二百万ください」
「そ、それなら……」
いいんだ。
よっぽどあの大盾がほしいんですね。
お会計を済ませたコルルカ先輩は、ほくほくしながら戻ってきた。
「感謝するぞ、トレミナ。ぜひお礼をさせてくれ。私もお前の帰省に同行し、農作業を手伝う」
「先輩は帰省しなくていいんですか?」
「私の実家は王都だ。日頃からよく帰っている」
「ならお願いしようかな。人手は多い方がいいし」
というわけで、私とセファリス、コルルカ先輩の三人で帰省することに。
私の家があるノサコット村は、コーネルキアの北東の端にある。
おみやげの魔法具に私達の装備品と、荷物が多いので馬車を借りることにした。片道二日の旅になる。走れば二時間ほどなんだけど仕方ない。
のんびり帰ろう。春の日差しで、馬車旅もピクニックみたいで気持ちいい。
まあ、年上二人は完全にピクニック気分だけど。
「先輩、途中に大きな湖があるんですよ。釣りしませんか?」
「いいな。大物を狙うぞ、セファリス」
姉とコルルカ先輩はすごく気が合う。どちらも似た気質だからね。
ちなみに、野良神と遭遇することは滅多にないよ。
騎士達が常に国内を巡回しているから。
例外もあることにはあるんだけど……。
……何か、一直線にこっちへ向かってくる。
あれは……、【蛮駕武猪】だ。
通常より一回り大きい猪が、私達の馬車めがけて突進してくる。
噂をすれば例外の一つが。
あの猪はずっと走り続けていて、なかなか捕捉が難しい。そして、旅人を発見すると馬車をひっくり返したりする。
獰猛だけど野良神としてはかなり弱いので、それほど怖がる必要はないよ。
むしろ喜ぶ人の方が多いかも。
「バンガム猪だ! 釣りは中止だセファリス! あれを食うぞ!」
「ラッキーですね! ごちそうが走ってくるなんて!」
沸きたつコルルカ先輩とセファリス。
そう、【蛮駕武猪】はとても美味しい。
春の女子旅、肉祭にまっしぐらだ。
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