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30 [リズテレス] 転生

 気が付けば、私は赤子になっていた。

 自分は生まれ変わったのだと理解し、魂の存在もあっさり受け入れた。


 それより断然気になることがある。体内に以前は感じなかったものが。モヤっとしているが、どこか力強い流動体。

 とにもかくにも、私の中にある以上、きちんと管理しなければ。

 謎の力は体中を巡っている。一所に集めてこねると、ほんの少し大きくなった。


 これは何かしら。やはり情報収集が必要ね。


 当然ながら赤ちゃんの私は身動きが取れない。収集活動は受動的に。

 まず周囲の会話から言語を覚えた。

 ここが日本ではないことは分かっていたけど、どうやら地球でもないらしい。雰囲気は近世ヨーロッパに近い。

 大きく異なるのは神と呼ばれる獣達がいて、人間の脅威になっているという点。さらに、人の中にもそれらに対抗しうる力を持った者がいるという点。


 なるほど、その秘密が全身に流れるこの力、マナね。実に面白いわ。

 マナ、あるいは、気、と呼ばれるそれは、生物共通のエネルギー。体や物質を覆えば、保護、機能の強化ができる。また、戦技や魔法なるものの源でもあった。

 体との対話が日課の私にとって、マナをいじるのは最高の暇潰しに。

 なお、これが錬気法という修行の一環であることはのちに知る。


 やがて私はリズテレスと名付けられた。

 父は正義感が強く、行動力のある人物。対して、母は感情豊かで口数が多い。魔女でもある彼女のおかげで情報収集は大いに進展した。

 前世で孤児だった私には、初めて実の両親と過ごす時間。

 惜しみない無償の愛を受けながら、清川貴子のことを思い出す。

 一緒だわ。やっぱり母さんは私達に本当の愛情を注いでくれていた。

 賑やかだった施設での暮らしが胸に甦り、懐かしさと共に寂しさが去来する。けれど、それらはすぐに癒えた。

 賑やかさではこちらも負けていない。

 私は待望の子供だったらしく、毎日、城の内外から人が拝謁にやって来る。

 そう、住んでいるのは王城だった。

 かつて孤児だった私は、一国の姫に生まれ変わった。


 でも、これなら前世の方が遥かに恵まれていたわ。


 思わずそう愚痴をこぼすわけは、ここが建国間もない小国であり、それゆえに近い未来の滅亡が確定的だから。おそらく多くの人が気付いていない兆候。だけど、前の世界の歴史を知る私には見えていた。

 もうすぐ、こちらでは史上初となる世界大戦が起こる。

 小国のほとんどが生き残れないだろう。私の読みでは、前回死亡した十五歳時には亡国の姫になっている。もちろん、再び死亡する可能性も。

 大国は複数の守護神獣を抱えている。対して、この国の守護神獣はハムスター、いえ、巨大なリスが一頭いるだけ。

 戦力差があまりに大きい。


 どうすればこの国を救えるだろうか。

 当然、戦力の補強が急務だわ。

 上位の神獣を味方にできるかはほぼ運頼み。

 となれば、人を育てるしかない。まずは、全員がマナの使い手である精鋭部隊の創設。そして、ゆくゆくは単騎で守護神獣と渡り合える……。


 確かにハンデは大きいけど、特典もある。

 なんと私は、生まれながらにして以前の記憶や人格を保持しているわ。

 以前の世界で流行っていた異世界転生ものでは、至極当然の設定。

 だけど、私にとってこれほど有難い特典はない。

 おそらく開戦まで残り十余年。大戦を生き抜くため、綿密に計画を立て、徹底した備えをすることができるもの。


 わずかな隙も見逃さず、念には念を入れて万全に。

 今回は絶対に失うわけにはいかない。

 守りたいのは、人々の温かさ。新たに育まれた大切なものである。さらに、この王国自体がそうなるのだろう。

 ここは彼が二度目の人生を賭して築き上げた国、コーネルキアなのだから。


 喋れるようになった私が最初に発した言葉は、パパでもママでもない。


「あなた、享護ね?」


 赤子の私を腕に抱く年配の男性。その目から涙がこぼれた。

 彼は私の祖父であり、享護が転生した姿。


 時間軸のねじれ。

 死の時間差一秒が一年になった。

 享護は半世紀近くもマナ共鳴で私の魂を呼び続けた。

 いずれ私もこの世界に転生すると、ただひたすらに信じて。

次話からトレミナに戻ります。


お読みいただき、有難うございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >「あなた、享護ね?」 赤子の私を腕に抱く年配の男性。その目から涙がこぼれた。 大きな感銘を受けました。この物語はどこまで行くのだろう。
[一言] 無駄回じゃなかった! ええ話や°・(ノД`)・°・
[良い点] 勇太郎は神獣となったのか(´;ω;`)
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