3 最下位を脱出、どころではない話
同級生との差を埋めるべく、私は毎晩ランニングすることに。
自分に高度な訓練は無理だと承知している。コーネガルデの街中や公園をただひたすらに走った。
同時に錬気法の修練も進める。
才能がある、という姫の言葉。完全に信じたわけじゃないけど、期待感を抱いて内なるマナを探り続けた。
教科書にはこう書かれている。
マナはそれを望む者に微笑む、と。
入学して半年が経った頃、ついに何となくマナっぽい何かを掴んだ。不明瞭極まりないけど、本当にそんな感じなんだよ。最初はこんなものらしい。
元々習得している一部の生徒を除けば、相当早い方になる。
まずはマナを一所に集め、そこから各部に送ってこれの性質を確認。
マナとは生命エネルギーであり、その使い道は体の内と外に分けられる。
内側は主に身体機能の強化だ。筋肉、視覚や聴覚、動体視力や反射神経、さらには自然治癒力まで、多岐に渡った。
外側ではエネルギーを武器や防具、あるいは潤滑油のように使う。
マナを纏うとは内と外を併せた付与を得るということ。
なので、マナに覚醒しているか否かは大きな差になる。
私も当然、実技の授業でマナを使えば、と考えた。が、
「いけません。トレミナさんマナをしまって」
実技担当、二十歳のジル先生に止められた。
一年生の授業では、公平性を保つためにマナの使用が禁止されているとのこと。
結局私は、引き続き持久走以外は最下位を独走することになった。
私から遅れること約二か月、セファリスもマナを認識。
こちらも割と早い方だと言える。
今はベッドの上で座禅を組み、難しい顔を。
彼女がやっているのは〈錬〉と呼ばれる、マナを鍛える修行だ。
〈錬〉は錬気法の基本であり、日々繰り返せば、マナの質が上がって量が増えていく。
「ぷはっ、えーと……、一時間半。新記録だわ!」
「おめでとう。私も描けたよ。タイトルは『錬るお姉ちゃん』」
「ありがと、やっぱり上手ね。それより、トレミナもたまには錬りなさいよ」
「ちゃんとやってる。じゃ、走ってくるね」
嬉しそうにデッサン画を眺める姉を横目に、私は部屋を出た。
マナをこねる〈錬〉は集中力が必要で、なかなか疲れる、らしい。
というのも、私の場合は全く違ったため。
まず集中するという行為がよく分からないので、何となくずっとコネコネ。疲労感は全然と言っていいほどない。
いつやっているのかと問われればそれも、何となくずっと。
授業中も、絵を描いている時も、ランニングしている時も。
朝起きた瞬間から、夜眠りにつく瞬間まで。
もしかして私の〈錬〉、間違ってるのかな。
でもマナの量は毎日増えてるし。
錬気法の中でも〈錬〉は基本であり、欠かすことのできない重要な技術。よって教科書ではコツなどが細かに記されている。
その辺は適当に押さえつつ、最も強調されている一文のみ守るようにした。
『何より継続が大切である』
幸い、私の得意とするところでもあった。
日々の修行を継続し、私は二年生に進級した。
ようやく実技の授業で、マナの使用が解禁される。
皆より早く覚醒してるし、少しは有利なはず。せめて最下位を脱したい。
百メートル走のスタートラインに、男女八人の生徒が並ぶ。
その一人、私は淡い願いを胸に立っていた。
合図で駆け出す。
しっかりマナを纏って手足を動かした。
そして、ゴール。
あれ? とおかしな状況に気付く。
前にも横にも、誰もいない。
振り返ると、他の七人はやっと中間地点を通過した辺り。
同級生達が唖然とした顔で見てくる。
我に返った彼らの視線が、時計を持つ生徒に集まった。
「……七秒、切りました。……トレミナさんのタイムは、六秒台です」
一斉に驚嘆の声。
ところで、これはまだ最初の種目。
二年生初日の実技とあって、この日は様々な競技を一通りこなす。
いわゆる、体力テストのようなものだ。
持久走、遠投、高跳び、幅跳び、――――。
マナを纏った私は、全ての種目でクラスメイト達を圧倒した。
何、この状況。
まさか、私、皆にかつがれて……?
ううん、そんな雰囲気はない。
けど皆、ちゃんとマナ使ってる?
とにかく、残すは生徒同士の手合わせだけだ。
マナをきちんと全身に漲らせて――。
「いけません。トレミナさんマナを抑えて」
ジル先生に止められた。
彼女が発した次の言葉に、全員が凍りつく。
「同級生を殺すつもりですか」
…………、……はい?
お読みいただき、有難うございます。