表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/212

28 [黒原理津] 終焉1

「最近ブログのアクセス数が普通じゃない、何これ……」

「それがこの生徒会の影響力。新しい会計長は面白いって話題なのよ」

「会社を再建しなくても食べていけそう、人気ブロガーとして」


 私と由良が他愛ない会話をしているのは生徒会長室。

 生徒会は他に会議室と応接室を有しているので、普段の仕事はそちらでこと足りる。よって、この部屋は私の自室となっており、結構私物が溢れている。

 由良もお気に入りのクッションを持ちこみ、ソファーの一つを自分専用に変えた。


 ちなみに、卓上の檻にいるハムスター、勇太郎はもう一人の常連のペット。

 飼い主の彼が軽くノックをして入ってきた。


「二人共早いね。ただいま勇太郎ー、会いたかったよー」


 猫撫で声でハムスターと触れ合う享護。

 武崎享護は一見チャラいイケメンだけど、その実、頭の切れる優等生。だけど、その実、一番の親友はハムスターで、趣味が漫画執筆という二重ギャップの持ち主だった。

 彼の深層を知るのは、学校でも私と由良しかいない。


「あんたのファンが今の姿を見たらドン引きよ」

「ブログに書かないでよ由良……。俺は理津の前で自分を偽りたくないんだ」

「言いつつ心臓バクバクなのバレてんのよ、この奥手が。ねえ、勇太郎」


 由良が「お手」と指を出すと、勇太郎はそこに前足を乗せた。それから、報酬としてヒマワリの種一個を受け取る。


「そうだ、練習してた技が完成したんだ。見て、お手ローリングお手!」


 勇太郎は享護の号令に合わせて、指にタッチ、くるりと横回転、もう一度タッチ。今回はヒマワリの種を二個獲得した。

 可愛い仕草に由良は歓声を上げる。

 けれど、どうも私は納得がいかない。


「パフォーマンスへの正当な対価になっていないわ。お手一回を種一個に換算するなら、今のは種四個、最低でも三個はあげないと」

「言われてみればそうね、ブラック飼い主だわ」


 享護は勇太郎を檻に戻しながらため息をついた。





 ――十二月。

 今年最後のテストも終わり、私は学年一位を取った。

 入学以来、この座は守り続けている。

 ちなみに由良は八百番台だった。この学校の生徒達は概ね優秀なので、彼女は常にその辺りをうろうろ。


「由良、職務やブログで忙しいのは分かるけど、もう少し勉強しなよ」

「やってる。この学校が変なのよ。それに最下位の享護に言われたくない」


 そう、享護は最下位である。孫4の中で。

 しっかり「学年では十一位だって」と反論した。

 向かい合ったソファーから、互いに言葉を飛ばす由良と享護。間にある机では、勇太郎が専用の運動場で体を動かしている。

 会長室おなじみの光景に、私はついクスリと。


「享護はあの微妙な漫画をやめれば学年二位にはなれると思うの」

「微妙って理津……。やめないし、冬休み中に新作に掛かるよ。ファンタジー要素を入れたいんだけど、主人公の国の名前が決まらなくて。理津、選んでよ」


 享護からタブレット端末を受け取り、さっと目を通す。


「作風も全く分からないけれど、コーネルキアね」

「相変わらず即決だね。コーネルキアか、じゃあこれで」

「そんなことより理津、さっき自分には絶対に勝てない的なことをさらりと言ったわね。大体、あんたのハイスペックぶりは何?」


 由良が執務机に詰め寄ってきた。享護も興味ありげな視線。

 仕事の手を止め、ゆっくりと体を背もたれに預けた。


「私には、人より得意だとはっきり言えることがあるわ。自己管理、よ」


 私は小学生の一時期、頻繁に市民図書館に通っていた。

 哲学書、文学書、さらには兵法書まで、あらゆるジャンルの本を読み漁った。先人達から得たかったものは、人生を計画通りに進めるためのヒント。やがて、複数の文献で共通して重要視されているものに気付く。

 それは、自分を知るということ。


 簡単なようで非常に難しい、まさに人生の命題。

 だけど、取り組む価値はある。自身を見極めた上で計画を練れば、齟齬が生じる確率は格段に下がるだろう。

 小学校低学年にして自分との対話を始めた。

 この過程で体得したのが、緻密な自己管理能力だった。

 やるべきことに優先順位を付け、それに応じて時間を配分する。仕事や学業においても同様で、常に自分の能力を把握し、適切に振り分けるのがポイント。


 黙って話を聞いていた由良。まだ釈然としないらしい。


「だったら運動神経の良さは? どのスポーツもまるで経験者じゃない」

「あれも自己管理の成果よ。私は日頃から体と向き合い、力のコントロールに努めているわ。これはあらゆる競技に通じる。成長期でもある体は常に変化するから、日々のアップデートは欠かさないように心掛けているの」

「アンドロイドか。あんた、人生の楽しみをバッサリいってるわね」

「そんなことないわよ。会社を大きくするのは楽しいし」


 高校進学に伴い、経営する会社は取引先が一気に増えた。来年から新プロジェクトやサービスが続々始動するとあって、現在は火を吹く忙しさ。

 私も由良とお喋りする一方で、仕事はきちんとこなしている。

 スマホを操作しながらつい笑みが。


「計画通りに物事が進むのは心地いいわ」

「腹黒さがにじみ出てるわよ。と、もうこんな時間。理津、行きましょ」


 私達が帰り支度を始めると、「どこへ?」と享護。


「木倉家のホームパーティーに招かれているの。打ち合わせも兼ねてね」


 私の会社と由良父の会社はすでに提携関係にある。由良の家に何度も泊まりに行っているので、私生活でもつながりは深い。

 ちなみに、今日は十二月の二十四日、クリスマスイブだった。

 一年でも指折りの、孤独が身に沁みる日。部屋に一人取り残されることになった享護は、親友のハムスターと戯れている。


「イケメンのくせにイブにボッチ……、なかなか趣のある風景ね。ところで享護、うちのパパは理津を養子にしたいと思ってるわ」


 唐突な由良の発言に、彼は眉をひそめた。


「理津を欲しがってるのはあんただけじゃないってことよ。この女はあちこちにパイプをつなぎまくってる。もう争奪戦ね」

「そういうお話はいくつかいただいているわ」


 私が相槌を挿むと、由良は「奥手のままじゃ負けるわよ」とビシリ。

 享護は手の中を覗いた。

 勇太郎に無言で何か語りかけているように見える。


「……由良、俺もパーティーに行っていい?」

「どうぞ。ママに連絡しておいてあげる」


 発破をかける形になった由良は、思わずため息。

 私の視線を受け、足早に部屋を出る。

 本音を言えば、由良には享護の恋路なんてどうだっていいに違いない。むしろ、うまくいったらいったで全然面白くない。

 それでも、わざわざお節介を焼いたのは……。


「あんたが姉になるのだけは断固阻止する!」


 やっぱり、背に腹は代えられないということね。


「たとえ来世でも! 理津の妹には絶対になりたくない!」

次話、リズテレスの現世ラストです。

ちなみにトラックではありません。


評価、ブックマーク、いいね、感想、本当に有難うございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。





書籍化しました。なろう版へはこちらから。
↓をクリックで入れます。




陰キャ令嬢が沼の魔女に。

社交界で沼の魔女と呼ばれていた貴族令嬢、魔法留学して実際に沼の魔女になる。~私が帰国しないと王国が滅ぶそうです~








強化人間になってしまった聖女のお話です。
↓をクリックで入れます。




腕力で世界を救います。

強化聖女~あの聖女の魔力には武神が宿っている~








こちらも連載中の小説です。書籍化します。
↓をクリックで入れます。




事故で戦場に転送されたメイドが終末戦争に臨みます。

MAIDes/メイデス ~メイド、地獄の戦場に転送される。固有のゴミ収集魔法で最弱クラスのまま人類最強に。~




書籍 コミック


3hbl4jtqk1radwerd2o1iv1930e9_1c49_dw_kf_cj5r.jpg

hdn2dc7agmoaltl6jtxqjvgo5bba_f_dw_kf_blov.jpg

1x9l7pylfp8abnr676xnsfwlsw0_4y2_dw_kf_a08x.jpg

9gvqm8mmf2o1a9jkfvge621c81ug_26y_dw_jr_aen2.jpg

m7nn92h5f8ebi052oe6mh034sb_yvi_dw_jr_8o7n.jpg


↓をクリックでコミック試し読みページへ。


go8xdshiij1ma0s9l67s9qfxdyan_e5q_dw_dw_8i5g.jpg



以下、ジャガ剣関連の小説です。

コルルカが主人公です。
↓をクリックで入れます。




コルルカの奮闘を描いた物語。

身長141センチで成長が止まった私、騎士として生きるために防御特化型になってみた。




トレミナのお母さんが主人公です。
↓をクリックで入れます。




トレミナのルーツを描いた物語。

婚約破棄された没落貴族の私が、元婚約者にざまぁみろと言って、王国滅亡の危機を逃れ、ごくありふれた幸せを手に入れるまで。



― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ