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27 [黒原理津] 生徒会選挙

 立ち尽くす由良が眺める先で、私と、彼女が言うところの孫4が椅子を寄せて集まる。会話をするのは主に私と享護の二人。


「まったく、うまく俺らを利用してくれるよ」

「人聞きが悪いわね。困った時は助け合うのが友人でしょ。さて、本題よ。そっちの人選は決まった?」

「うん。やっぱり会計、書記、総務にそれぞれ均等に配置する感じ。あと、理津の選んだ人達も了解で。現職の引き抜きは俺がやっとく」

「まあ、頼もしい。さすが次期副会長だわ」

「君の補佐が仕事だから。で結局、会計長のポストが問題なんだけど」

「それね、彼女にお願いしようと思うの」


 と私が視線を送ったのは、木倉由良。

 再び私達から注目され、彼女は飛び上がりそうになった。いえ、実際に少し体が浮いたように見える。


「いきなり何! さっきから何の話をしてるの!」


 私はタブレット端末を享護に渡し、さっと席を立った。


「私ね、来月の生徒会長選挙に立候補するのよ。この四人と連立を組んでね。でも重要な役職が一つ、なかなか決められなかった。今日のアプローチはあなたを屈服させるためじゃないわ。木倉さん、会計長をやってみない?」

「うちの生徒会予算は結構な額だからね、会計長は実質ナンバー2だよ」


 他の三人とタブレットを覗きながら享護。

 各界有力者の子女から、さらに選ばれた者で構成される生徒会。中でも予算を握る会計長の権力は他を圧倒する。


「そんなビッグポストになぜ私を? ……あ、」


 どうやら由良の頭も回転を再開した模様。


「連立って予算配分でもめたりしない? 会計長、すごく大変なんじゃ……」


 私は微笑みと共に、由良の肩に手を置く。


「この機会にお金の勉強をすれば、次は会社を倒産させなくて済むわよ」

「う、うるさいわね、どうして知ってるのよ」


 すると享護が「全部自分で書いてるじゃん」とタブレットを指した。

 私が孫4に見せたのは由良のブログだった。


「人のブログを勝手に! 勝手に見るもんだけど! そんなのまでチェックして、やっぱり私を屈服させていいように使おうって魂胆でしょ!」

「それなら会計長なんて要職は任せないって。理津、どういうつもり?」


 熱くなる由良と冷静な享護。対称的な眼差しを受けて、


「この決定に含みはないわ、単純な話なのよ。挫折を経験してもなお、必死に努力し、成長しようとする木倉さんの姿勢に私は魅かれた」


 正面に意中のクラスメイトを捉える。


「由良、私はあなたが好きになったのよ」


 このタイミングで初めて下の名前を呼んだせいか、由良は腰から砕けた。


 次いで、連立を組む四人に目を向け、「あなた達はどう?」と尋ねる。彼らはしばし言葉を交わしたのち、互いに頷き合った。

 やはり享護が代表する。


「いいよ、彼女に裏表がないのはよく分かったし。能力的な部分はサポートできるから、そっちの方が大事だ。……これ、俺らへのアプローチでもあったんだね。一つのアクションで欲張りすぎ」

「無駄がなくていいでしょ。じゃあ、改めてオファーするわ。由良、会計長をやって。自分がこの学校に来た理由を覚えているなら」


 何とか立ち上がった由良は、赤面しつつ私を見る。


「……そう、私は強くなるためにここに来たのよ。分かった、やるわ」

「決まりね。楽しい選挙戦になりそうだわ。あなたにはとても素敵なキャッチフレーズを考えてあるのよ、ふふ」

「何よ、その笑いは」


 こうして、私率いる陣営は一か月の選挙戦に突入した。


 生徒会の権限は大きく、影響力は学校外にまで及ぶ。学生選挙とはいえ、人によってはその後の人生を左右するので真剣そのもの。

 その真剣勝負を、由良は私が貼り付けた『生徒会は絶対に倒産させません!』という自虐キャッチフレーズで戦うことになった。

 けれど、これはきちんとした戦略に基づく。由良の会社が潰れた原因を洗い出し、そこから学んだことや改善案を発表。過去の失敗を成長の糧へと昇華させ、本来なら標的にされる弱点を武器に変えた。


 他の点でも万全に準備したため、陣営に隙はなかったと思う。

 また、享護も全般的に能力が高く、頭の回転も速い。


 二度の公開論戦で、私と享護は他陣営を徹底的に叩きのめした。



 怒涛の一か月が過ぎ、季節は梅雨の終わりに。


「……圧勝だった。ていうか私、何もしてない……」


 夏の到来を告げる蒸し暑さ、とは無縁の、空調の効いた生徒会長室のソファーで由良は呟いていた。

 机を挟んだ向かいに座る享護が、書類から目を離す。


「そんなことないって、頑張ってたじゃん。由良が面白いって決めてくれた人も多かったんだよ。まあ、地固めは完璧だったからこの大差だね」

「あん? 孫4様のおかげです、て言わせたいわけ?」

「由良、ずいぶん俺に慣れたね……。俺ら四人併せても、影響及ぼせるのはせいぜい全校生徒の十分の一程度だよ」

「ならあの理津を応援してた人達は? どこでも人の壁ができてたわよ」

「全部理津の友人だよ。千五百人くらいいるんだってさ」

「それ全校生徒の半分! ありえないわよ!」


 由良は勢いよく会長席を見た。

 そこに座る私はノートパソコンで作業中。手を止めることなく、「ありえるわ」と会話に参加する。


「私は二年かけて在校生、それに入学が見込まれる人とSNSで関係を築いたの。孤児で首席の私は確実に目立つ。事前に根回しするのが普通でしょ」

「あと選挙も見越してだろ? ほんと欲張りだよ、君」


 享護が呆れ気味に言ってきたので、まず微笑みを返す。


「せっかく友人を作るなら過半数が取れるまで、と思うのが普通でしょ」

「普通じゃない……、全然普通じゃないから……。こんな人間、いるの? ……異常なまでの用意周到さ。計算したように事を進めて……。怪物が跋扈するこの学校の中でも……」


 由良がぶつぶつ呟き始めたけど、気にしないことにした。

 ノートPCをパタンと閉じ、スマホを取る。


「あ、母さん? ええ、高校生活は計画通り順調よ。ようやく来週あたり一度帰省できそうなの。そっちは……大騒ぎ? 私が怪物達に食べられちゃったんじゃないかって? 嫌だわもう、そんなことあるわけないじゃない」

「……そう、そんなことあるわけない」


 まだ由良の呟きは続いていたらしい。


「だって……、あんたが誰よりも怪物だったんだから」

ちなみに読みは、

黒原理津 = くろはらりづ

木倉由良 = こくらゆら

です。

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