25 騎士トレミナ 誕生
「騎士は全員整列しなさい!」
ジル先生の号令で、観客席から一斉に騎士達が下りてきた。
闘技場の中央にはいつの間にか石素材の演壇が。たぶん誰かが地属性の魔法で出したんだと思う。
その前にざざっと並んだ騎士の方々。二千人近くいるだろうか。
リズテレス姫が壇上に登り、私に向かって手を差し出した。
「さあ、簡易だけど、叙任式を始めるわ」
先生に言われるまま、姫様の前で片膝をつく。
すると彼女は、私の頭上に抜き身の剣を。
「リズテレス・コーネルキアの名において、トレミナ・トレイミーに騎士の称号を授ける。はい、これで今からあなたはコーネルキア騎士よ」
続いてジル先生が前に立つ。
「レゼイユが帰ってこないので私が代理で行います。コーネルキア騎士団副団長ジル・アーサスの名において、トレミナ・トレイミーの入団を認めます。はい、これで今からあなたはコーネルキア騎士団の一員です」
本当に簡易だった。
勢いのまま一気に騎士にしてしまおうという意図も感じる。
分かっていても、大勢の騎士達から拍手を送られ、私もこう言わざるをえない雰囲気に。
「……騎士として、頑張ります」
「ふふ、最年少騎士の誕生ね。この剣は今日の記念に。あなたに合わせて作ったものなの。使い勝手はいいと思うわ」
と、さっき頭に乗っけられた剣を手渡された。
吸いこまれそうな漆黒の刀身。長過ぎず、確かに私の体にぴったりのサイズだ。いただいておこう。
ちなみに、私の後にチェルシャさんの叙任式も行われた。
「あなたの修行の成果、しっかり見せてもらったわ。その力を、この国と、私のために振るってちょうだい」
リズテレス姫の配慮により、チェルシャさんの機嫌はすっかりよくなった。
私への殺意も消え、「同期の騎士として一緒にがんばろ」と。何はともあれ、命を狙われる心配はなくなったので一安心だ。
唯一の同期は恐ろしくもあり、なかなか頼もしくもある。
闘技場を出ようとした時、ジル先生に呼び止められた。
「トレミナさん、今日までのこと、私と姫様が仕組んだと思っていますね?」
「その通りじゃないんですか?」
「違います。全て姫様がお考えになったことですよ。さらに言えば、二年前、あなたがコーネガルデの門の前に立った時から決まっていました。私でも怖くなるくらい予定通りです」
「いやいや、そんなまさか」
「あなたは、リズテレス様の腹黒さを知らない……」
意味深な言葉を残して先生は行ってしまった。
姫様が腹黒い? あんな綺麗で心まで真っ白そうな姫様が?
今回の件だって、先生が黒幕だと思っていたんだけど。
まあいいか、とりあえず帰ろう。
私が寮に戻ったのは夜の十時を回った頃。
寮母さんがご飯を取っておいてくれたのでそれを食べたが、少し足りず。エレオラさんが差し入れてくれたパンに救われた。どれもジャガイモが使われていて、お腹も心も満たされる。
それからさっとお風呂に入り、日課のランニングへ。
疲れがないと言えば嘘に、……はならないかもしれない。
うーん……、肉体的な疲労はマナを習得して以来すぐ癒えるようになったし、気持ちの面でも特に……。
まあいつも通りなので、いつも通り走ることにしたよ。
それにしても、セファリスはいつまで訓練してるんだろう。
そう、今朝連れ去られてからまだ戻ってない。
姉は私依存症だから長時間離れると心配になる。
いや、そういえば人間的に成長したんだっけ。成長してすぐ騎士団最強の人の弟子になるなんて……。
お姉ちゃん、どんどん強くなってね。私を追い抜いてくれて全然構わないよ。
ぼんやりと色々考えながら、決めたコースをひた走る。
街を抜け、公園に入った。すると、ため池の前のベンチに見慣れた姿が。
真っ白な髪は、闇夜の中でもよく目立つ。
先ほど別れたばかりのリズテレス姫が手を振っていた。
「どうしてここに?」
「もちろんトレミナさんを待っていたのよ。しばらく強引なことばかりしてしまったから、謝っておきたくてね」
「……自覚はあったんですね」
「当然よ、ふふふ。多少強引な手を使ってでも、トレミナさんをまず騎士にしたかった。そして、あなたにコーネルキアの現状を見てほしかったの」
「この国の、現状?」
「トレミナさんはコーネルキアが平和だと思う?」
姫様の隣に座ると、紙パック入りの飲み物を渡された。
美味しい。オレンジジュースだ。
飲みつつ質問の答を考える。
私だって新聞は読む。世界では戦争をしている国があったり、野良神が暴れ回っている国があったりと様々。
それらに比べるとこの国は……。
「平和だと思います。戦争はしていないし、野良神の被害も少ない」
「それは上辺だけよ。トレミナさんにはこれからもっと深く見てもらうわ。ところで、コーネルキアには二種類の騎士がいると気付いているかしら?」
「はい、鉄素材の鎧を着た騎士と、コーネガルデの黒い騎士ですね。昔は鉄鎧の騎士達ばかりだった気がしますけど」
「彼らは旧騎士団。その犠牲の上にこの国は成り立っているわ。私はそれを変えたくて、十年前、コーネガルデ構想に着手した。全員がマナを使える精鋭部隊の設立、そして、彼らを支援する都市の整備。つまり、あなた達は私が手塩にかけた精鋭ということ。その目でしっかりとこの国を見てきてちょうだい」
姫様はそう言ってベンチを立った。
そうか、私達、精鋭だったのか。
どうりで学生から高いお給料もらえたりするわけだ。
こんな大きな街まるごと造っちゃうくらいだから、姫様も相当本気だよね。十年も前から……、……え? 十年?
彼女は私と同じ十一歳だよ?
「……十年前って、姫様は一歳ですよね?」
振り返ったリズテレス姫はくすりと笑った。
「私はここと異なる世界から来たと言ったら、トレミナさんは信じる?」
お読みいただき、有難うございます。










