24 勝者への褒賞
チェルシャさんは膝を抱えて地面に座りこんでいた。
「もうマナがない。トレミナの勝ち。心から祝福する」
「悔しくないんですか?」
「悔しい。でも、それ以上に満ち足りている。トレミナのおかげで、私は戦うことができ、全てを出し切ることができた。本当にありがとう」
「相変わらず、直接的な物言いをしてきますね」
私が出場しなければ、チェルシャさんは不戦勝のまま学生最後のトーナメントを終えた。それは彼女にとって、敗北より許せないことだったんだろう。リズテレス姫に試合を見てもらうのが何より大事なようだ。
試合前と同じように、チェルシャさんは私に微笑みを向けてきた。
「私は先に騎士になる。修練を続け、トレミナが来るのを待つ。今度は負けない。タフなトレミナをも一撃で粉砕できるすごく強い魔法を構築する計画」
それ、私の殺害計画ですよね。とうとう命まで狙われる事態に。
でも、残念ながら私は騎士にはなりません。
今回の勝利でそれが確定しました。
さあジル先生、まずは宣言を。
「この試合はトレミナさんの勝利。よって、学年末トーナメント、四年生の部、優勝者は二年生のトレミナさんです」
先生、わざわざ二年生と言わなくても。
まるで四年生への当てつけみたいに……、いや、これは当てつけだ。あなた達、もっとしっかりしなさい、という。
観客席が一時ざわめき立つ。
しばらくして、そこから白髪の美少女、リズテレス姫が下りてきた。
このパターンは一昨日と一緒。
あの時は再エントリーという悲劇に見舞われたけど、今日はそうひどい目には遭わないはず。何しろもう大会はない。
「おめでとう、トレミナさん。四年生の部でも優勝してしまうなんて、あなたには感服したわ。そこで、以前より検討していた事案を正式に決定、公に発表することにしたの。今日の結果を見れば、誰も文句はないはずよ」
以前より検討していた……。間違いない、ジャガイモ農家の件だ。
やった、こんなに早く応えてもらえるなんて。
やっぱり姫様は信用できるよ。
彼女はその整った顔は動かさず、視線だけをジル先生に。
「ジルさんも了解してくれるわね?」
「はい、思うところはありますが、仕方ありません」
そうか、先生は私のために学園に入ったんだった。ごめんなさい、申し訳ないとは思いますけど、私はジャガイモを作る人生を選びます。
リズテレス姫は視線を戻し、まっすぐ私を見つめる。
いよいよだ。ついに私の夢が叶う。
「トレミナさん、あなたにコーネルキア騎士の称号を贈るわ」
よし、これで私は堂々とジャガイモ農家に……、ん?
…………。
……騎士の、称号?
農家じゃなく……?
「あの、姫様、何がどうなってそういうことに? 私はまだ学生ですけど」
「学生でありながら騎士になった者は過去にもいる。トレミナさんなら充分それに値するわ。今日の優勝で、もはや異論を唱える者もいないでしょう」
いえ、このトーナメントは姫様が出ろと……。
……まさか、あの時からすでに仕組まれて……?
「では、ジャガイモ農家の件はどうなったんです? 検討してくれるって」
「ええ、もちろん約束は守るわよ。本日より二年間、あなたの卒業まで検討を続け、きちんと結論を出すから」
「確かに卒業後の話ですけど……。じゃ、ジル先生の思うところって?」
「トレミナさんはまだ十一歳でしょう。さすがにその年齢で騎士になった者はいません。ですが、あなたなら仕方ありませんね。史上最年少騎士として入団を認めます」
……絶対そうだ。
リズテレス姫とジル先生は初めからこの筋書きを用意していた。
と背中を突っつかれるのを感じて振り返る。
チェルシャさんが微笑みを湛えて立っていた。
「騎士になるのまで先を越されるとは。でも、祝福する。祝砲を楽しみにしていて。トレミナ粉砕魔法の構築を急ぐ」
それ、完全に殺害予告ですよね。明確な殺意を感じますよ。
トーナメント編も次話まで。
騎士の仕事は、学生をしつつになります。
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