23 決勝戦(四年生) 怪物 対 天使2
光の精霊は非常に珍しく、発現するのは数千人数万人に一人と言われている。
チェルシャさんがこれに目覚めたのは三年生の夏頃。
それから半年ほど費やしてオリジナル魔法〈エンジェルモード〉を完成させ、四年に上がってからは敵無しとなった。
無敵天使の二つ名を与えられ、現在に至る。らしいよ。
自慢じゃないけど、私の〈トレミナボール〉にはかなりのマナが込めてある。
それがああも容易く消滅させられちゃうんだから、並の技能じゃ歯が立たないよね。先輩方、ことごとく棄権するはずだよ……。
とりあえず、今の私にできるのは、……ん?
チェルシャさん、全く動かないな。どうしたんだろ。
「翼を撃ち抜かれたのは初めて。トレミナは怪物か」
「あなたに言われたくないです」
「やっぱり本気を出さないと。残り二つのゲインも使う」
「どうぞ。私も私にできることをします」
私にできるのは、走り回って撹乱することだ。
翼で阻まれずに、直接本体にボールを当てられれば少しはダメージがあるかも。
よし、作戦開始。
駆け出した直後、チェルシャさんがギュンと空中を移動。
隣に並んできた。翼ではたかれ、私は吹っ飛ばされる。
闘技場の壁にぶつかってちょっとめりこんだ。
いたた……。
しっかりマナを集めてガードしたのに、攻撃と同時に結構削られた。攻めでも守りでも、光の特性が厄介すぎる。
それにあの翼は巨大な手だと思った方がいいね。
あれで羽ばたいて飛んでるわけじゃないし。
「そう、これは手。だけど、あくまでも翼」
高く舞い上がった天使は、翼を大きく振る。
すると、周囲に無数の煌く羽根がひらひらと。
次の瞬間、私に向かって一斉に飛んできた。
シュドドドドドドドド――!
光の雨が容赦なく降り注ぐ。
いってててててててて――。
マナがどんどん持ってかれる。逃げないと。
走りながら〈トレミナボール〉を投げる。
やっぱり翼で防がれるも、弾丸のような雨は止んだ。
うん、防御に回ってる時は、当然ながら攻撃はできないね。
それなら、止められていいからもっと投げていこう。光の攻撃で削られるよりマナを節約できる。作戦変更だ。
本当、チェルシャさんの〈エンジェルモード〉は完成度の高い、恐るべき魔法だよ。攻防速、全て揃ってる。
でもたぶん、私は勝てると思う。
少しすると戦いに慣れてきた。
駆けつつボールを投げ、たまに吹っ飛ばされて壁にめりこむ。
あと、たまに光線の雨にも打たれる。
こんな状況にも慣れることができるんだから、人間ってすごいものだ。
余裕も出てきたので、観客席に(マナを集中させた)聞き耳を立ててみた。
クランツ先輩達が雑談している。
「トレミナはやっぱ勝てないか。あのチェルシャが相手だもんな」
「うむ、打つ手なしに見えるな。やられっぱなしだ」
こう話すのはエレオラ先輩とコルルカ先輩。
そんなことありません。作戦を遂行中です。ちゃんと反撃もしています。むしろ私の方が手数は多い。めちゃボール投げてますよ。
「いや、この試合はトレミナさんの勝ちだ。もうほぼ確実だよ」
お、分かっていますね、クランツ先輩。
「なぜだ? どう見てもチェルシャが優勢だぞ」
「攻撃が派手だからそう見えるだけ。トレミナさんに大したダメージはないよ。それに、あの子は全然ペースを乱してない。きっと〈闘〉だけならきっちり規定の一時間、戦技分を引いても五十分は戦えるはずだ。マナの多さに加え、精神の安定性、持久力もずば抜けている。間違いなく、トレミナさんは怪物だよ」
先輩、一言余計です。でも、大体はその通りですよ。
クランツ先輩って私に早々に負けちゃったけど、やっぱり学年二位なだけある。私との試合、本気と言いつつ無意識に手加減してたと思うんだよね。優しいから。
先輩は「対して」と言葉を続けた。
「チェルシャはあと何分戦えると思う?」
「あ……」
盗み聞き終了。
クランツ先輩の言った通り、私の作戦は『持久力で勝つ』だ。マナの量はもちろん、毎晩ランニングしているから体力面でも自信はある。
一方、チェルシャさんの〈エンジェルモード〉は消耗が激しい。攻防速をあれだけ高いレベルで揃えた魔法を、ずっと発動しているんだもん。
感知で窺うに、そろそろのはず。
何十球目かの〈トレミナボール〉、発射。
今回も天使の翼が削りに掛かるが、マナ玉は半分ほどの大きさで突破した。
さらに本体部分も耐え抜き、ついにチェルシャさんの元へ。
初めて彼女は自分の腕でガード。
光の天使がぐらりと揺れた。
「何というタフさ、トレミナのミナはスタミナのミナという噂。本当だった!」
それ言ったの、ジル先生ですよね?
えっと、とにかく、
よし、もう一投。
……ううん、必要ないみたい。
チェルシャさんを包んでいた光がパァッ! と弾けた。
マナ切れだ。
ちなみに、トレミナのトレはトレーニングのトレです。
光と闇の精霊はレア属性です。
闇の特性はマナの吸収。
後々登場します。
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