22 決勝戦(四年生) 怪物 対 天使1
さあ、決勝戦だ。
観客席はもう混雑なんてレベルじゃない。騎士や学生で溢れ返っている。というより、本当に溢れて闘技場の壁に座っている人まで。
皆、何が何でもこの一戦が見たいんだ。
クランツ先輩の話では、チェルシャさんは騎士になれば、すぐに上位十位内に入るのが確定的なんだとか。卒業間近の現在、大注目されている学生だよ。
そのチェルシャさんも観客席に視線を送っていた。
見ているのは……、リズテレス姫?
向き直った彼女は、今度は私に微笑みを。
薄紅がかった髪に、金色を帯びた瞳の美少女。笑うと一層可愛い。
都会的な雰囲気もして、田舎娘の私とは大違いだ。
「そんなことはない。トレミナも素朴で可愛い。どんぐりみたいで」
「どんぐり……。マナ共鳴で心を覗かないでください」
「ごめん。とにかくトレミナには感謝している。二年生ながらこのトーナメントに参加してくれて。おかげで、修練の成果を姫様に見てもらえる」
「リズテレス姫に、ですか?」
「そう、私が強くなったのも、騎士になるのも、全て姫様の役に立つため。だから今日は本気でやる。トレミナも全力で来て」
すごい忠誠心だ。リズテレス姫、この人でいいじゃないですか。
私は村に帰らせてください。勝って堂々とそう言おう。
あっちも全力でって言ってくれてるし、通常の〈闘〉でいいですよね?
と審判員の方に目をやった。
やっぱり決勝の審判はジル先生が務める。
「ええ、もちろんです。では二人共、準備はいいですね?」
「よくない。トレミナは二年生で勉強不足。私の使う技能を教えてあげる。戦技は〈アタックゲイン〉、〈ガードゲイン〉、〈スピードゲイン〉。魔法は〈エンジェルモード〉。どういうものか説明すると、戦技は」
「あ、大丈夫です。大体はクランツ先輩から聞いたので。……それと、勉強不足ではなく、まだ習ってないだけですから」
「あのお喋りめ。人の能力をペラペラと。あとで折檻」
「やめてあげてください」
チェルシャさん、物言いは直接的だけど、律儀で素直な感じがするね。
彼女の能力はもう完成されていると言っていい。
ゲイン系は強化戦技だ。いわゆる必修科目で、四年生のこの時期は皆が全三種習得済み。一個でも取りこぼすと留年してしまう恐ろしい戦技でもある。強化は基本なのでしっかり身につけなさいって方針らしい。
それら以外に使用する技能はたった一つ。
言い換えれば、一つで事足りるということだ。
互いに〈闘〉の状態で向かい合った。
チェルシャさんのマナ量は、他の四年生より断然多い。
けど、私の半分程度。普通なら怯んでもおかしくない差なのに、彼女のマナは全く揺るがない。それどころか、自信に満ち満ちている。
逆にこっちが気遅れ……、は別にしないね。至っていつも通りだ。
「あなたならそうでしょうね。では試合開始です。始め!」
ジル先生の掛け声で、私は手の中にマナ玉を生成。
同じタイミングでチェルシャさんの体が一回だけ光る。
投げる体勢に入った時には、彼女はもう横に駆け出していた。
速い。
さっき使ったのは〈スピードゲイン〉だ。
これ、当てられるかな?
いいや、投げちゃえ。
案の定、〈トレミナボール〉はドスッ! と壁に穴を開けただけだった。
そして、チェルシャさんはこの一球を避けた段階で、完全体になるための充分な時間を得たと言える。
「光霊、私をすごく強い天使にしろ。〈エンジェルモード〉」
……詠唱も直接的ですね。
言霊は自分にしっくりくるものがいいらしい。直接的な表現を好む彼女は、文言通り、今からすごく強い天使になる。
シュルルルル――――……。
幾重もの光の帯がチェルシャさんの体を覆っていく。
煌く繭が出来たかと思うと、巨大な二枚の翼を広げた。
降臨を告げる眩い波動が闘技場を駆け巡る。
収束後、そこには神々しい光景が。
天使型の光に包まれた美少女が宙に浮かんでいた。
観衆からは「おお……」という感嘆の声。
確かに、おお……、だけど私はのんびり見惚れてる場合じゃない。
〈トレミナボール〉二投目、いくよっ。
チェルシャさんは片方の翼でこれをガード。
接触直後から、マナ玉は見る見る小さくなり、抜けた時には指で摘まめるほどに。それも少女を覆う光に触れるや消滅した。
当然、チェルシャさんは全くの無傷。
光の特性ってここまでなの?
……今の、私の全力投球だよ。
光の精霊には、他属性にはない特別な性質がある。それはマナの軽減。防壁を築けば、受けた攻撃のマナを徐々に削っていく。
いや、さっきのは徐々になんてものじゃなかった。
それだけあの〈エンジェルモード〉は完成されてるんだ。
これ、私に勝ち目ある?
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