211 [リズテレス]五竜討伐
狡猾な神竜は、同じく狡猾な私と神狐の連携により完全に動きを封じられていた。
……もうあちらも準備に入ったわね。それならのんびりしていられないしさっさと攻撃に移りましょ。
私が視線を向けた先には簡素な造りの倉庫があった。私の武器は少し大きいのであの中に格納されている。
マナを這わせて倉庫の中にあるそれに到達すると即座に起動。
ゴォーン……、ゴォーン……、ゴォーン……、ゴォーン……。
五竜ブレンギラが目を見張っているのが伝わってきた。この世界の兵器製造の水準から考えれば当然だろう。
倉庫の屋根を突き破って空中に浮かび上がったのは、四門の真っ黒な大砲だった。
通常の大砲と異なり、約二メートルの砲身の後ろにはシリンダーが付いている。
言ってみればあれらは巨大な魔導リボルバー。サイズはトレミナさんが使っている物の二十倍ほどになるわ。
私の武器とは、マリアンさん達魔導兵器開発所が辿り着いた最高到達点、遠隔操作型魔導砲よ。私もマリアンさんも、前世の記憶に引っ張られるところがあって、体長何十メートルもある巨獣を倒すにはそれなりの巨大兵器でないと、と考えてしまう。けれど実際、この方向性は間違っていないと思う。
それを今から証明する。
四門同時に魔導砲の撃鉄が動いた。
砲門が火を吹いた直後には魔導砲弾がブレンギラの巨体に着弾。その全身を炎が焼き、氷が凍てつかせ、雷が走り、風が切り裂く。
天高く神竜の絶叫が響いた。
魔導砲のシリンダーには火水雷地風の砲弾がランダムに装填されている。攻撃を読んで対応するのは難しいでしょう。
そして、通常の魔導弾の二十倍サイズにもなる砲弾の威力は絶大。神クラス上位の神獣といえども相当効いたようね。弾はそれぞれあと五発ずつあるわ。どんどん撃ちましょう。
次々に発射される魔導砲に、ミユヅキさんはさも楽しそうにその九本の尻尾を振る。背中に乗っているルシェリスさんとアイラは少し呆れ気味かしら。
「あんな大砲を武器にする人間は見たことがないし、なんか一方的だな……」
「リズって本当に呆れるくらい用意周到なのよ。一切の反撃を許さないのは当然」
「けど、闇魔法にでかい魔導兵器に、姫のマナもすごい早さで減ってるぞ。あれじゃ倒しきれない。私、何発か殴ってこようか?」
「いらないって、リズのこの連続砲撃はたぶん今後のための練習よ。ブレンギラはあの下手くそなメイド達の接待を受けていた時点で炭になるのが決まっていたようなものね。ほら、あれ」
アイラに促されて背後を振り返ったルシェリスさんの顔が納得したような表情に変わった。
そう、大体はアイラが言った通りで、私がブレンギラを倒す必要はないし、初めからその予定でもなかった。先に、絶対にここで仕留めると言ったように、この五竜にはコーネルキアの全力をぶつける。
私達から少し離れた所にメイド達が集まっていた。中心にいるのはシエナさんで、全員で空に向けて手を伸ばしている。
彼女達が見上げる上空に浮かんでいるのは巨大な炎の不死鳥だった。
特務魔女部隊の合同魔法、〈ノヴァ・フェニックス〉よ。
ブレンギラには空から舞い下りてくる自分より大きな火の鳥を回避する術はなかった。直撃すると同時に、その絶叫をもかき消すほどの凄まじい火柱が立ち上ぼる。
魔女達の別部隊が何とかのシルフィードという風の合同魔法で周囲に旋風を巻き起こしていた。これにより火柱は周囲に燃え広がることなく、その中心部はさらに高温に。
この合同魔法は、あなたが軽視していた人間の絆の結晶とも言うべき力。千年以上生きた神竜であっても耐え凌げるものではないでしょ?
――――。
大地にぽっかり空いた穴の中で五竜ブレンギラは炭と化していた。
今回の作戦に関わった全員でそれを眺めていると、不意に私の通話魔導具が鳴り出す。以前より改良されて発信者が分かるようになったそれの、表面に現れた名前を確認。皆から少し距離を取るように歩き、それから応答した。
「……ええ、ちょうどたった今ブレンギラを倒したわ。あとはトレミナさんが上手く領地を切り取ってくれるはずよ。……え? …………、ちょっと待ちなさい! トレミナさんに会いにいくって! こら、ヒナコ!」
通話を終了した私の所にジルさんが歩いてくる。私はゆっくりと彼女に視線を向けた。
「大変なことになったわ……」
「といいますと? 今のはナンバー3の彼女からですよね?」
「ええ……、あの子が言うには、トレミナさんがアレから目をつけられたそうなのよ。ほら、トレミナさん、ここに来て地属性の熟練度をぐんぐん上げて、大きなジャガイモを量産しているじゃない?」
「アレとは、まさかアレですか! 確かに現在トレミナさんはノサコット村でジャガイモを量産中ですが、そんなことで……」
「きっと私達が思っている以上に大規模に量産しているのよ。大地のマナを派手に動かしすぎた……」
ジルさんは崩れるように地面に膝をついた。
呆れすぎて言葉が出てこない彼女の肩に私はそっと手を置く。
「トレミナさんはただ、一人でも多くの人をジャガイモで救いたいだけ。責められないわ……。ヒナコが何とかしてくれると言うのだけれど……」
「……とても心配ですね」
……そうなのよ、なにせヒナコだから。
一人でも多くの人をジャガイモで救いたい。
ここに来て名言が。
……迷言かもしれません。
次回からトレミナに戻ります。
『強化聖女~あの聖女の魔力には武神が宿っている~』
が完結しました。
大体5万文字程度になりました。
お暇な時にでもお読みいただければ嬉しいです。
聖女として召喚された女子高生が魔獣との戦争で無双するお話です。
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