21 近日公開
一回戦の後、クランツ先輩は私に言った。
学年一位チェルシャさんの試合を見ておいた方がいい、と。
なので今、観客席から見ている。
けど、これは……。
「どういうことですか? クランツ先輩」
「俺もこうなるとは……。とにかくごめんね」
その爽やかな笑顔で謝れば、何でも許してもらえると思ってませんか?
確かに、大抵の女性は大抵のことを許してしまうでしょうが。私に向けても背中をむずむずさせる効果しかないです。
……まあ、先輩に八つ当たりしても仕方ない。
現在は準決勝。
闘技場に立っているのは審判員と噂のチェルシャさん、二人だけ。
対戦相手は出てこない。
私には分かる。なんせ、このパターンは何度も経験しているから。
相手方棄権による不戦勝だ。
準決勝に限った話じゃない。チェルシャさんは一回戦からずっと不戦勝。つまり、まだ一度も戦っていない。
当然ながら能力の確認もしようがないよ。
私はぶっつけ本番で最強の敵と対峙することになる。
「情けない話だ。私なら相手がチェルシャだろうが逃げはしない!」
そう言ったのはコルルカ先輩だ。
先輩は身長百四十センチちょっとだけど、年齢は十六歳らしい。残りわずかな成長期に全てを懸けている。
一ミリでも多く伸びるよう、私も祈らずにはいられない。
などと密かに神頼みしていると、コルルカ先輩がその赤い瞳で見つめてきた。
「なんとなくだが、トレミナ、私の背の低さについて考えてないか?」
「さすがに敏感ですね。先輩はどうして逃げるのが嫌なんです?」
「騎士だからに決まっているだろう。騎士とは逃げずに耐え抜くものだ」
先輩はまだ学生ですよ。
結局、〈トレミナボール〉の習得発覚後に挑んできたのは、この変わった信念を持つコルルカ先輩だけ。
そう、私も六回戦から準々決勝までずっと不戦勝続きだ。
「私も準決勝はまた不戦勝かな」
呟くと、クランツ先輩がため息をつきながら席に座った。
長身の彼は、立ったままの女子二人と同じくらいの目線に。
「トレミナさんのマナ量で、あれだけ体使う戦技を撃たれると、ほんと怖いんだよ……。俺だってどうするか考えたと思う。チェルシャに次ぐ防御力を持つコルルカが、一発しか止められなかったんだから」
「一発だが! 私は止めた!」
胸を張る小さな先輩を横目に、ふと私は不安を覚えた。
「チェルシャさんとは本気で戦っていいと言われているんですけど、大丈夫でしょうか? コルルカ先輩の時の倍近いマナ量で全力投球して、本当に平気ですか?」
「トレミナ貴様! もう一度私に投げてみろ! 全力で! だ!」
「コルルカ、命を無駄にしちゃダメだよ。チェルシャなら平気平気。マナは四年の中でも群を抜いて多いし、扱う精霊が普通じゃないから。そうだ、試合見れてないし、少し教えてあげるよ」
「はい、お願いします」
「チェルシャが使うのは光の精霊だ。その特性は――」
クランツ先輩の話を聞き終えると、私は闘技場内のチェルシャさんに目をやった。身長は百五十センチ台の半ばくらい。ほっそりしていてリズテレス姫に匹敵する美少女だ。
だけど、彼女は相当強い。
持っている能力も、マナの多さが武器の私には天敵のように思える。
そもそも、こんな人がいるなら私はいらないんじゃないかな。
おとなしくジャガイモ農家にならせてほしい。
ともかく、この強い美少女を倒さなければ、ジャガイモは作れないというならやるしかない。
決意を固めつつ、私も準決勝を不戦勝で終えた。
「お! いたいた! おーい! トレミナー!」
遠くから手を振り振り、笑顔で駆けてくるのはエレオラさんだ。
あれ? 私達、そんなに仲良かったっけ?
「お前なら絶対決勝まで行くって思ってたよ。これ、うちの親父からパンの差し入れ。なんでか全部、イモ使ったやつだけど」
「ありがとうございます。わざわざ応援に?」
「応援っていうか、単純に見逃したくないっていうか。楽しみなんだよ」
すると、クランツ先輩とコルルカ先輩が同時に頷く。
「俺も実は楽しみなんだ」
「私もだ。楽しみで仕方ない」
そして、全員で声を揃えて。
「マナ怪物トレミナ 対 無敵天使チェルシャ の試合が」
……結構単語多いのに、綺麗にハモった。
近日公開というより次話公開です。
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