209 [リズテレス]ナンバー0
現在、事態は私の予測を超えた速度で進行している。原因はトレミナさんの出現にあった。彼女が力を発揮するようになってから、ドラグセンとの戦争に突き進むスピードが加速し、それ以上に皆の成長スピードが上がったわ。
私自身も戦争に向けての準備を急ぐ必要に迫られたけど、それはどうにか間に合ったと言える。つまり、神と戦う準備は整った。目の前のブレンギラを見据えたまま微笑んでいると、私の隣に立つミユヅキさんが呆れ気味に。
「手筈通り、最初はわらわ達は手出しせんが、本当に大丈夫かの?」
「ええ、悪いわね」
この場には彼女の他に特務親衛隊もいるけど、初めは私一人で戦わせてくれるよう頼んであった。私と研究所が進めてきた準備が神クラスの神獣にどこまで通用するのか、単純に見てみたい。まずは私自身の力から試させてもらうわ。
解放するマナをさらに増やすと、私の体を覆っている黒いオーラが一層波立った。なお、これは私の腹黒さから来る比喩的表現ではなく、実際に黒い。私が扱える属性は全部で七つ。火風地雷水に、毒の特殊属性、そして闇属性よ。
ロサルカさんに闇の精霊を紹介してもらったら、私には適性があった。私自身も納得ではあるし、ユラーナも何の不思議もないと言っていたわね。(ちなみに、光の精霊にも父さんを介して何度も挑戦したけど徹底的に拒まれたわ)
この闇の力と魔導研究所が仕上げてくれた魔導兵器があれば、マナ量で劣る神クラスとも対等に渡り合えるはず。
まだ人型のままでいるブレンギラに私は指を突きつけた。
「もう一度自己紹介しますね。ナンバーズのナンバー0、黒姫のリズテレスです。あなた、その姿のままでいいのですか? 数秒で殺せてしまいますけど」
「くっ……! こんな人間、存在するはずがない!」
「目の前に存在しているでしょう。早く神獣に戻らないと本当に攻撃しますよ」
「十年そこらしか生きていない下等生物が! 調子に乗るな!」
明らかに彼の口振りが先ほどまでと違った。本性を現したといったところかしらね。
罵詈雑言を浴びせられたり、醜い本性を見せられたりしても私は受け流すことができる。ただし、それは全く怒りを覚えないということを意味しない。何より、こんな輩が何百年も人間を支配してきた事実を考えればここは怒っても、いいえ、ブチ切れてもいいように思う。
よし、ちょっと初めてブチ切れてみようかしら。
「……本性じゃなくてさっさと本体を現せと言っているのよ。この薄汚い毒トカゲ野郎が!」
言い放った瞬間、私のマナの質が少しだけ高まった。
あら、こんなことが起きるなんて。人生一度はブチ切れてみるものね。
一方で、私にトカゲ呼ばわりされた五竜ブレンギラも顔を真っ赤にしてブチ切れる寸前だった。
「人間の小娘がっ! もう許さん! 塵一つ残さず消し去ってくれるわ!」
まるでゲームのラスボスのようなセリフを吐き、彼はようやく神獣の姿に戻りはじめる。
大きくなっていく光を眺めながらミユヅキさんが首を傾げていた。
「あやつ、どうしてすぐに神獣に戻らんかったんじゃろ?」
「きっと私の口から聞きたかったのよ。私は人間じゃないって」
人でも長く生きていると考えが凝り固まる。千年以上も生きていればなおさらで、新たな事実が出て来た時はなかなか受け入れられない。
「嫌じゃのう、年はとりたくないものじゃ」
「あなただって数百年は生きているでしょ」
「わらわは(心は)まだピチピチの幼女じゃぞ」
「ええ、その人型を見れば分かる」
ともかく彼がのんびりお喋りしてくれたおかげで仕込みをする時間が充分にあったわ。
光の収束と共にブレンギラは体長七十メートルの巨竜、【冥獄神竜】になっていた。全身を覆う赤黒い鱗からは膨大なマナが溢れ出ている。
巨竜が一歩踏み出そうとしたその瞬間だった。突然足元から真っ黒な闇が湧き、彼の巨体にまとわりつきはじめる。
あれが私の仕込み。
「あなた達神々のために編み出した闇魔法、〈黒沼〉です。存分に味わってください」
来月も投稿予定です。
恒例の、大晦日だよトレえもん、も書きたいですし。
トレミナ
「そんなタイトルでしたっけ……?」
私もうろ覚えですがよろしくお願いします。
ところで新作を書きました。
『強化聖女~聖女として召喚されたはずが、魔獣も素手で倒す強化人間になりました~』
タイトル通りの内容です。
下にリンクをご用意しましたので、よろしければお読みください。










