205 [コルルカ]スタート
火霊上乗せ火霊弾を受けて地に伏したザンデュガだったが、すぐに頭だけを起き上がらせる。放たれた〈雷の息〉はメイティラ様の横スレスレを通過していった。
メイティラ様はニルレイアが魔導弾を撃った直後に再び〈認識擬装〉を発動している。
ザンデュガにしてみれば、攻撃に移った時にはもう標的を見失っている状態だ。
それでも、巨大な電磁砲を回避するのは容易ではない。直撃すれば二人(頭)共、確実に命を失う。
このステルス機動狙撃は本当に危険な戦術なんだ……。
私達もできる限りの援護をしなければならない!(私は防壁を維持するだけで精一杯だが!)
焦る気持ちで視線を送っていると、体を起こしたザンデュガの四本の脚を土が這い上っていく。鎧竜は振り払おうとするが、土は次から次に湧き出てくる。
これはクランツの地霊魔法、〈地障縛〉……。……しかし、私でも見たことのない規模と強度だ。
彼は額に汗を浮かべて拘束魔法を操っていた。
「もう本当にマナを使い切る覚悟だよ……。完全に封じるのは無理でも、絶対に空は飛ばせない!」
そうだ、空に舞い上がられたら計画の実行は難しくなる。
そこに気付くとは、クランツやっぱり頭が回るな。しかもしっかり奴の動きまで妨害してるし。
さらに妨害するようにミラーテさんの流星花火魔法が炸裂した。
その直後にニルレイアの魔導弾が着弾。
背中を燃え上がらせてザンデュガは再度倒れこんだ。
よし、チームとしてきちんと連携も取れている! いや、隊にはもう一人いたぞ。
目をやるとエレオラは静かに佇んでいる。本人は静かだが、右の手がバチバチと放電していた。
……相当な密度の雷霊を纏わせている。
「それで爆裂雷撃の必殺パンチを撃つんだな。いつ撃つんだ?」
「……アタシの予想が正しければ、間もなくだよ」
と話している内に、ザンデュガの尻尾が水を宿し始める。
水流は大きく広がり、鎧竜の全身を覆った。
く、脅威となっている魔導弾が全て火霊ベースだから水霊で軽減するつもりか!
「予想通りだ! させるか!」
エレオラが気合と共に〈爆裂雷撃必殺パンチ〉を放つ。
眩い雷の一撃が巨竜の尻尾を弾いた。
起点を叩かれた水のバリアは、パシュッ! と発散。
そして、これを待っていたように火霊弾が撃ちこまれ、今回も大爆発を引き起こした。
学生コンビすごいぞ! 息もピッタリだ!
私の眼差しにエレオラは胸を張る。
「アタシらは訓練で戦いの中での状況判断力も鍛えてるんだ。ありがとうトレミナ先生!」
…………、トレミナすごいな。
とりあえずこれなら勝機はある!
倒れているザンデュガにさらなる魔導弾が着弾した。
度重なる爆発により、鎧竜は相当弱ってきているのが伝わってきた。
次が最後の弾だ! 勝てる!
私も奥の手の準備を……。
この時、不意にザンデュガから不気味な気配が漂い出した。
なんだ……? 奴の両の前脚にマナが集まっていくのを感じる。
これは……、まずい!
前脚を大きく広げたザンデュガはそのまま乱暴に振り回した。
二つの爪から放たれたのは、凄まじいほどのマナが込められた風の刃。
ザガガガガガガガガガガッ!
荒れ狂う無数の風刃が鎧竜の周囲一帯を薙ぎ払った。私が防壁で守っている地点を除き、半径数百メートルに渡って大地が激しくえぐられている。
……甘く見ていた。〈風の爪〉でここまで広範囲に攻撃できるとは……。
これが、神クラスの神獣の底力か……。
しまった! メイティラ様達は……!
守ってくれる壁などなく、避けようもなかった彼女達は神技の直撃を食らっていた。
上空に目を向けると、無残にも装甲を砕かれた狐神が宙を漂っている。
メ、メイティラ様――――!
……わずかにマナは感知できる。どうにか生きているようだが、これではもう計画は……。
と諦めかけたその時、大狐の七本の尻尾からニルレイアが顔を出した。彼女は無傷らしく、すぐにライフルを構える。
メイティラ様が守ってくれたのか!
計画は続行だな! よしいくぞ!
私が手を前に押し出すと、雷を纏った〈フレイムウォール〉もズズッと動いた。
見るがいい、これが私の奥の手だ。
〈壁突撃〉!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ! ドォンッ!
完全に虚を突かれたザンデュガは壁の突進をもろに受ける形になった。こうなれば壁の防御力はそのまま攻撃力に変わる。食い止めるために鎧竜は慌ててマナを集め出した。
そのタイミングで、手薄になった反対側にニルレイアの魔導弾が着弾。
こちらでもザンデュガは虚を突かれることになった。
それまでの火霊による爆発ではなく、発生したのは体の芯まで痺れる雷だったのだから。
さらに弾丸に付与されたニルレイアのもう一つの属性、水属性が発動する。炸裂した水霊が、先ほどの〈水の尻尾〉のように鎧竜の全身を包んだ。ただし、今度はバリアではなく牢獄だ。
即座に〈フレイムウォール〉と〈嵐旋結界〉を解除した私はメイスを強く握る。残りのマナを全て注ぎこんで雷霊に変換した。
「ここが勝負所だ! エレオラ!」
「分かってるよ! アタシも全マナぶちこんでやる!」
エレオラが必殺パンチで雷霊を追加。
ニルレイアの水霊を介して合わさった三つの雷霊が、轟音を奏でながら激しく放電する。
これで仕留められなければもうこちらには打つ手がない!
私! 騎士の誇りに懸けて全部出し切れー!
――――。
目の前では、強靭な防御力を持つ神が巨躯から煙を立ち上らせて横たわっている。
何度目か分からないが、感知でその命が尽きているのを確認した。
立つ力も残っていない私とクランツ、エレオラは地面に座りこんでいた。
もう一人、ニルレイアもやはり同様らしい。人型になったメイティラ様に背負われて私達の所に合流。疲労困憊のチームが全員揃った。
「本当にギリギリだったわね……」
呆れ気味に言ったメイティラ様に視線をやる。
「メイティラ様、本体の方は大丈夫なのか?」
「大丈夫なわけないでしょ、あと数分で死にそうよ。まあ、あっち(裏ポケット)に置いておけばしばらくは平気だから」
「そうか……。ニルレイアを守ってくれたこと、感謝してもしきれない」
「た、たまたま尻尾に絡まってただけよ。でもこんなチームで神クラスを倒したんだから、あんた達よくやったんじゃない」
「おかしなことを言うメイティラ様だ。あなたもチームの一員で、その活躍があってこそではないか」
「そういうのいいから。あんた達は私を利用したかっただけでしょ。ちゃんと期待には応えてあげたわよ」
……そうか、メイティラ様には仲間という概念がないんだ。生まれてから長い間、ずっとミユヅキ様に利用されて生きてきたのだから。
だが、自覚がないだけでこの方は仲間想いだ。今日、共に戦ってみてそれがよく分かった。
少し時間は掛かるかもしれないが、ゆっくりでもいいだろう。とりあえず伝えておこう。
「メイティラ様を頼りにすることはあっても利用することはない。あなたは私達の大切な仲間だし、部隊が誇る立派な守護神獣様だ」
「か! 勝手に言ってれば!」
この特務コルルカ部隊はここからだ。
「まあ、今日がスタートだな」
私が立ち上がりながらそう呟くと、クランツが恐る恐る視線を寄こしてきた。
「今日がスタートって……、……今後の予定は、どうなってるんだ?」
「む? まずはこの神の肉を食べてパワーアップ。それから一旦コーネルキアに帰還して二日の休養日を挟む。休みが明けたら五竜ブレンギラの討伐に出発だ」
スケジュールを公開すると、場の空気が凍りついた。
「次こそ間違いなく死ぬ」
「アタシもさすがに無茶だと思う」
「ああ、昔(隊長だった頃)に戻りたい……」
「あんた、防御特化のくせにどうして特攻気質なの。あ、だから〈壁突撃〉ね」
ニルレイア、エレオラ、ミラーテさん、メイティラ様、と順番に冷たい眼差しが私に突き刺さる。
「……や、やはり皆で相談しよう! うむ、それがいい。私達、仲間だしな」
これでコルルカ編は終幕です。
ここで少しの間お休みをいただきたいと思います。
メイデスの原稿にかかります。
次話の投稿は、来月12/28です。
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