202 [コルルカ]威を借る狐の真骨頂
壁に空いた穴から、空中にいるザンデュガの体が光に包まれるのが見えた。
向こうも私達が人型のままで対応できる相手ではないと分かったらしい。
私はエレオラとメイティラ様の方に振り返る。
「行くぞ。ここからが本当に神との戦いだ」
「よっしゃ! 燃えるー!」
「ああ……、マジ帰りたい……」
対照的な反応を示した二人と共に私も館を出た。
外で潜伏していたクランツ、ニルレイア、ミラーテさんと合流する。
クランツから大盾を受け取りながら(装備は身につけていたが、これだけは色々引っかかるので持っていけなかった)、様変わりしたザンデュガの姿に目をやった。
頑強なゴツゴツした鱗に全身を覆われた体長七十メートルの巨竜。【鎧鱗神竜】だ。
……防御特化型の最上位神獣、相手にとって不足はない!
しかし、まるで草原にそびえる岩山のようだな。あんなサイズの怪物と町で戦えば周囲に大変な被害が出る。やはり屋敷にいるところを狙って正解だった。
館を中心としたこの一帯はザンデュガの所有地で民家などは一切なく、広々とした草原が延々と続いている。
周りの被害を気にせず、戦闘に専念できるだろう。
「被害が出るとしたら、私達の中にだけだね」
ニルレイアがいつものネガティブ発言をしていた。
ここは部隊長として私が皆を鼓舞せねば!
「作戦通りにやれば大丈夫だ! 犠牲は必要最小限に抑えられる!」
む、何だかどんよりした空気が。犠牲は出ないと言うべきだったか? だが、敵は神クラスの二十将だし無責任なことは……。
「……はぁ、作戦通りにやればきっと誰も死なないよ。ポイントに移動しよう」
クランツの先導で部隊は動き出した。く、私はリーダーとしてまだまだということか……。
私達が陣取ったのは、ザンデュガと屋敷のちょうど中間辺りだった。
この場所なのには理由がある。そろそろ……、うむ、現れたな。
屋敷から走り出てきた二人の男女。すぐにその体が輝き始める。
【災禍怨竜】と【滉仙月竜】の二頭が並び立っていた。
あれはザンデュガと常に行動を共にしている配下達だ。
「では頼んだぞ、メイティラ様。ミラーテさんもな」
私が呼びかけると、この二人の反応はよく似たものになった。
「マジ嫌だ……。コルルカ、ちゃんと私達を守ってよね……」
「本当に大丈夫なの……? 攻撃されたりしない……?」
まずメイティラ様が二頭に向かって駆け出し、すぐに神獣化。重装備をつけた体長三十メートルの大狐、【鎧鱗剛狐】の姿に戻った。
うーむ、ザンデュガと同系列なだけに後れをとってる感が否めん。
だが、あれで直接ぶつかり合うわけではないし、彼女の真価は別にある。
メイティラ様が合図を送るように振り返り、これを受けてミラーテさんがジャンプ。大狐の頭に飛び乗った。
途端に屋敷前にいる二頭の守護神獣は硬直する。
よし、メイティラ様の〈認識擬装〉がうまく効いたようだな。
今、奴らの目の前にいるのは、上位種にあるまじき弱さの狐と少し腕が立つ程度の騎士、ではない。コーネルキア最強の神獣と騎士のタッグだ。
【冥獄神兎】アイラ様と破壊神レゼイユ団長。
二頭の竜は、外見だけでなくマナまでそう感じている。(〈認識擬装〉は対象のマナに直接働きかける技だ)
交戦すれば結果は明らかで、安易には動けないだろう。
固まる配下達に対し、ザンデュガがせっつくように吠えていた。
そんな雑魚共を相手に何をしているんだ! といったところか。
しかし、無駄だ。二頭にはお前の声も届いていないのだから。そのために私達はこの場所を陣取ったんだ。
現在、ザンデュガ、私とクランツとエレオラとニルレイア、メイティラ様とミラーテさん、二頭の配下神獣、と一直線に並んでいる状況にあった。
ザンデュガの声はメイティラ様が展開する擬装フィールドを通過した時点でないものに変換される。
なお、メイティラ様によれば、神獣化したザンデュガを一定時間続けて欺くのは無理だろうとのこと。力のある神クラスの感知を誤魔化せるのは単発でわずかな間だけらしい。
ザンデュガの方もすでにメイティラ様の能力は把握したはずだ。もふもふの尻尾が七本も揺れているしな。【霊狐】種の、その特性に特化した神獣だと。
把握したザンデュガが次にどう行動するかも分かっている。
この一直線の並びはそれも考慮してのもの。
巨大な鎧竜は私達の背後にいるメイティラ様達に向かってガッと口を開いた。
予想通り! その前には私がいることを忘れるな! もう準備は万端だ! 春の時とは一味違うぞ!
ザンデュガが〈雷の息〉を放つのと同時に、私は先に詠唱を済ませておいた〈フレイムウォール〉と〈嵐旋結界〉を発動した。
今回は炎の壁のサイズを一気に上げる。
高さ五十メートル、幅二十メートルになった〈フレイムウォール〉が〈雷の息〉と激突。
バジジジジジジジジッ!
炎の壁は大部分が吹き飛んだものの、どうにか巨大な電磁砲を防ぎきった。
「うむ! 今度こそ正真正銘、神の雷を止めたぞ! 恐るるに足らず!」
そして、今だメイティラ様!
振り返ると彼女の方も理解しているようだった。
このタイミングで、配下神獣達に向けて足を踏み出す。
すると、二頭の竜達は弾かれたように翼で舞い上がった。そのまま大空の彼方へと飛び去っていく。
元々、あの二頭の忠誠心はそれほどでもないという情報を得ていた。ボスの攻撃が防がれた上に、目の前の勝てそうにない強敵が迫ってくれば、即座に逃げ出すのは自明の理。
これで邪魔な神獣達を戦わずして退かせることができた。
まさに他者の威を借るメイティラ様の真骨頂だな。
ジャガイモ書籍2巻、コミック1巻、発売記念読み切り
を活動報告の方で出しました。
私の名前クリック、マイページからどうぞ。
評価、ブックマーク、いいね、感想、誤字報告、本当に有難うございます。