201 [コルルカ]神をぶっ飛ばす
ザンデュガと会話しつつ、私は部屋の調度品に目をやっていた。
机などの家具から置き物まで、高級品ばかりだな。この屋敷も宮殿と呼んでいい大きさだ。こういう生活が送りたくて守護神獣になる者もいると聞くが……。
少し探っておくか。
「しかし、一介の旅人に過ぎない私がまさか守護神獣様、それも二十将のお一方とお会いできるとは思っていなかった」
「結構な本数のウイスキーを譲ってもらったからな。今、コーネルキアのあれを手に入れるのは手間と時間が掛かる」
「ドラグセンに来る前はあの国を旅していたんだ。何かの役に立つかと買いこんでおいたのだが、喜んでいただけたならよかった」
本当はザンデュガに接近するのに使えるかもしれないとリズテレス姫に持たされた酒だ。まさにその通りになった。
ザンデュガは話題がコーネルキアに及ぶのを待っていたように言葉を続ける。
「少しあちらの様子を聞かせてくれないか?」
む、旅の者から敵国の情報を得るつもりか。いや、この感じは……、欲しいのは情報ではないな。
「コーネルキアはこの国より経済的に豊かだが、これほどの暮らしをしている者はいなかった。さすがドラグセン二十将に数えられるお方だ」
「ふ、そうか。まあそうだろうな」
彼は満足げに笑みを浮かべていた。
やはり、欲しかったのは世辞か。探るまでもなく、この男は贅沢な生活がしたい神獣の典型例だ。
これ以上は話をする必要もないが、あと一つ聞いておこう。
「だが、ここの民達はなかなか大変そうな暮らしぶりだな。それについて、ザンデュガ様はどのようにお思いか?」
すると、彼は一度も考えたこともなかったというように停止した。一瞬の間が空き、それからさも当然といった様子で口を開く。
「別にどうとも思わん。人の暮らしが神より劣っているのは当たり前のことではないか」
「……民の生活を、良くしてやりたいとは思わないのか? この地を支配する者として」
「コルルカはおかしなことを言う。それは民が自らの力でなすことだ」
今度は私が絶句する番だった。
背後からメイティラ様が声をかけてくる(もちろんザンデュガには聞こえていない)。
「だから考え方自体が違うのよ。ここに暮らす人も神獣も、ね」
そうだ、あの町の子供達も疑問を抱くことすらなかった。何百年も、何世代にも渡って同じ生活をしているとそうなるのだろう。
このブレンギラ領はドラグセン五領の中でも最も極端で、コーネルキアとは根本的に相容れない。それゆえにリズテレス姫は懐柔策ではなく、力づくで取りにきている。
私も民達のためにはやはりその方がいいと思う。
ザンデュガ、そして五竜ブレンギラ、この地は私達がもらうぞ!
「話はここまでにしよう、ザンデュガ様」
「もう行くのか? 部屋を用意させるから泊まっていけばいい」
「それには及ばん。もう決着をつけよう」
私は座っていたソファーから立ち上がった。
「コーネルキア騎士団、特務コルルカ部隊隊長コルルカの名において、お前に決闘を申しこむ!」
言い放った瞬間、〈常〉以下まで抑えていたマナを一気に〈闘〉まで引き上げた。
同時にメイティラ様が〈認識擬装〉を解除。
ザンデュガも慌ててソファーから腰を上げる。
「噂のコーネルキア騎士か! 確かに人間にあるまじきマナ量だ! だがなぜ縮んだ!」
「これが私の真の姿だ!」
くっ、「縮んだ」という言葉がこれほど堪えるとは……! 見栄を張らなければよかった!
言ってる場合ではない! 戦闘開始だ!
「エレオラ! この神をぶっ飛ばせ!」
私が呼びかけるまでもなく、エレオラの拳はすでに雷霊を宿していた。
彼女はいつも通り戦技名を叫びながら、その拳をザンデュガに叩きこむ。
「〈爆裂雷撃必殺パンチ〉!」
ドッゴ――――ン!
ザンデュガは咄嗟にマナを集めて防御したものの、その体は応接室の壁を突き破って屋外まで飛んでいった。
「へえ、結構やるじゃない」
メイティラ様が感心したような口調で言った。
エレオラは戦技でも名称を声に出すことで、気合が入って威力が高まる。実力自体も、春からトレミナと何度も手合わせして上がってきているしな。
さらに今回、私達人間の五人はリズテレス姫から稀少肉を支給され、マナの量を底上げしてきた。
ザンデュガ、我が部隊の牙はお前に届くぞ。
前話かこの辺りに、以前書いたコルルカ短編を挿もうかと思っています。
そこまで本が出せればですけど。(よろしくお願いします)
配信マンガの方でも、ついにコルルカが(クランツも)登場してきましたね。
私、あの話を原稿チェックした時、「盾でかっ」と思いました。が、面白いのでそのままにしてもらいました。
よく考えてみれば、コルルカがそれだけ小さいということかもしれません。
一般的な騎士が持てば普通の大盾。
まあ、コルルカはもう壁を装備してる感じです。
評価、ブックマーク、いいね、感想、誤字報告、本当に有難うございます。










