20 小さな先輩
二回戦が終わると、ジル先生についてくるように言われた。
連れていかれたのは同じ演習場内にある広々とした部屋。
闘技場よりもう少し広いだろうか。
観客席はなく、あちこちに巨大な石の壁が立っている。
「ここは実験室。技能の威力を検証するための部屋です」
「こんな所があったんですね。それで、どうして私をここに?」
「決まっているでしょう。〈トレミナボール〉がいかに危険か教えるためです」
「……もう重々理解しています」
「いいえ、まだです。いいから聞きなさい。あなたも〈オーラスラッシュ〉は知っていますね?」
武器にマナを集め、波動として放つのが〈オーラスラッシュ〉だ。遠距離攻撃の戦技の中でも、基本とされる技になる。
「その通りです。ですが、あなたが使えば高威力の必殺技になります」
なんでそうなるんですか。
「やっぱり分かっていませんでしたね……。〈トレミナボール〉も〈オーラスラッシュ〉も、腕を振って体の力を使うのは同じなんです。人より多くマナを纏っている者は、加算される力も大きくなることを忘れてはなりません」
「え、じゃあ危険なのはボールじゃなくて」
「トレミナさん自身です。最後に実演してあげます。あなたの〈闘〉は……、これくらいですね。あなたならあと一か月で〈放〉を習得できるでしょう」
ジル先生は手の中にマナ玉を作ると、設置された壁に向かって振りかぶった。
そして、むん! と気合の声と共に投球。
ドンッ! ドンッ! ドッ! シュー……。
マナ玉は厚さ五十センチ以上ある石の壁を二枚貫通。
三枚目をへこませて消滅した。
「これが一か月後の〈トレミナボール〉です。分かりましたね?」
「……はい、しっかり目に焼きつけました」
「同様のことが多くの攻撃戦技で言えます。本来ならこの講義は進級してから行う予定でしたが、あなたがあんなものを編み出してくるから……。まったく!」
「すみません……」
初めて戦技を習得したのに、どうして謝らなきゃならないのか。
理不尽に感じつつ、納得できるところもあった。
先生だけじゃなく、四年生達も〈トレミナボール〉は使えるだろう。でも、その威力は〈気弾〉に少しプラスした程度。
〈トレミナボール〉は、〈トレミナが投げると危険なボール〉だったということだね……。
そう、本当に危険なのは進化版の〈トレミナボールⅡ〉だったんだけど、その誕生はもうちょっと先の話になる。
とにかく、〈放〉が未熟な現在でも手加減して投げないと。
対戦する先輩方が危ない。と私は配慮する気満々でいたのに――。
――三回戦。
試合開始時間を過ぎても、一向に相手が出てこない。
審判員が様子を見にいき、程なく戻ってきた。
「棄権するそうです。トレミナさんの不戦勝になりました」
――四回戦。
「相手方の棄権により、トレミナさんの不戦勝です」
凶悪な遠距離攻撃を身につけた私は、攻略不可と判断されたようだ。
詠唱の間もなく、開始二秒でノックアウトだから気持ちは分かるけど。
なんか、もやもやする……。
楽だし温存できるからいいんだけどね。
なんか、もやもや……。
どうせ次も不戦勝でしょ? と思っていたら違った。
――五回戦。
闘技場の真ん中に、ぽつんと盾が立っている。
いやいや、ダジャレじゃなく見たまんま。縦百五十センチくらいの大盾だ。
後ろで屈んでいるのかな?
マナを感知してみると、どうも普通に盾を構えているらしい。
え、私より小さい。子供? じゃないよね。四年生だもん。
とにかく、棄権はしないってことでいいの?
「では……、始め!」
合図と同時に向こうの盾が光った。
さらに、その前方に半透明の盾が展開される。
あと、マナも大盾に集めてる。
これは……、投げてこいって言ってる?
私がマナ玉を持って悩んでいると、盾の裏側から女性の声が。
「どうした? 早くその殺人ボールを投げてくるがいい。ふふ、心配は無用だ。こちらは〈ガードゲイン〉に、〈プラスシールド〉まで使っている。必ず受けきってみせるぞ」
親切に戦技を教えてくれた。
彼女の名前は確か……、あ、コルルカ先輩だ。
じゃあ投げるけど、手加減したら失礼だよね。ここまで強化して受ける気に満ち溢れているし。
あっちの五割増し状態、本気の〈トレミナボール〉で。
「分かりました。投げますよ、いいですね?」
「うむ! ドンとこい!」
では遠慮なく。せいやっ。
ドン! ギュルルルル――――ッ!
おお、本当に受け止めた。というより、盾に引っ付いてるよ。
マナとマナがせめぎ合ってるんだ。
ギュルルルルルル――――ッ!
「ぐぬぬぬぬ! なんという玉だ! 負けるかっ! であーっ!」
コルルカ先輩のマナが力強さを増す。
盾を振り払うと、弾かれたマナ玉は上へ。闘技場の天井に穴を開けた。
でも、先輩の大盾も観客席に飛んでいっちゃったよ。これは引き分けかな。〈トレミナボール〉はまだ何十発でも撃てるけど。
小さな先輩はその場にガクッと片膝をついた。
「盾を失ってしまうとは、ここまでか……。くっ、殺せ……!」
「いえ、普通に降参してください」
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