198 [コルルカ]潜入開始
我が特務コルルカ部隊はコーネガルデを出ると、その足でドラグセン国内に入った。
ヴィオゼーム領の中を北上してブレンギラ領へ。
西側に見える、連なる山々はキルテナ山脈だ。そして、あの向こう側はトレミナ領になる。
そちらを眺めながら同期の騎士達から言われたことを思い出していた。騎士になって間もないのに特務部隊の隊長に抜擢されるなんてすごい、といった感じの言葉だ。
私、そんなにすごくなくないか? 領主に抜擢されている奴がいるぞ?
だが、トレミナはそれに値する結果を出し続けている。
見習って私も一刻も早く功を立てるべきだろう。
そうリズテレス姫に相談したところ、今回の作戦行動となった。
現在、コーネルキアは五竜のエデルリンデとあと一頭とは手を組む密約を結んでおり、ヴィオゼームとは開戦までの不戦条約を交わしている。つまり、手を出せるのは残る二領のどちらか。
姫様は「まずはブレンギラからね」と言った。
この言葉で私は理解した。彼女は一年後の開戦までに二竜を叩き、敵をヴィオゼームの勢力だけにするつもりなのだと。
互いにプライドが高く、連携が取りづらい五竜達の隙を突く形だ。
もちろん、これを実行するのは主にナンバーズになる。
……負けてはいられない。
私達の部隊が先駆けて作戦決行ののろしを上げる!
というわけで、私達六人(頭)はブレンギラ領へとやって来た。今いるのはその領内の辺境の町だ。
この周辺には敵の守護神獣が配置されてないとかで、リズテレス姫からここで休息するように言われていた。
とはいえ、隠密行動なので町に入る前に装備類を外すことに。
「ねえ、私もこれ、外していい?」
尋ねてきたのは専属守護神獣のメイティラ様だった。
彼女が外したがっているのは私が貸してあげた腹巻きだ。
「いかん、メイティラ様のお腹が冷えたら大変だ。私も寝る時は必ずそれを付けているんだぞ」
「……専属の守護神獣になってあげるから、これだけはほんと許して。こんな姿で町に入ったら恥ずかしくて死ぬ……」
むぅ、仕方ないな。おへそは隠した方がいいと思うのだが。
最初は部隊に入ることを渋っていたメイティラ様だが、コーネガルデからここへ来るまでの間に心を決めてくれたらしい。
一番の決め手になったのは、ニルレイアが背負っているケースだろうか。
あの中に入っている大型魔導銃を完璧に扱えるのは、リズテレス姫と彼女だけだと言われている。今回の作戦成功の鍵になる武器だ。
そのケースを見ながらエレオラが頭をかいた。
「装備を外すにしても、ニルレイアのこれとか荷物多すぎて逆に目立つんじゃないか? 一番はコルルカ先輩のそのでっかい盾だけど」
「これは私の誇りだぞ。目立つなら本望だ」
「本望だ、じゃないだろ隊長。やっぱり俺が先に町まで行って荷馬車を借りてくる」
そう私達に告げると、クランツは一人で町へと向かった。
学生時代は、私は彼のことをひたすらライバルとしか見ていなかったが、一緒にチームを組んだ今はその有能さがよく分かる。私と違って周囲に気配りできる、頼りになる副隊長だ。
こうしてクランツが借りてきてくれた荷馬車で私達は町に入った。
宿に荷物を置くと、少し皆で散策することにした。
食事をするためと、あと姫様から町の様子を見て報告してほしいと言われている。
「トレミナ先生も聞きたいって言ってたよ」
「自分の領地の隣だし、やっぱ気になるのかもな。しかしこれ……」
ニルレイアとエレオラが話しながら辺りを見回す。その状況に言葉を失っているようだ。
それも仕方ないだろう、コーネルキアとはあまりに違いすぎる。
お世辞にも綺麗とはとても言えない町並み。建ち並ぶ簡素で寂れた家々。路上のあちこちで人が寝転がっている。
このブレンギラ領はドラグセンの中で最も経済が悪いと聞いていたが、ここまでとは……。
これは治安も相当悪いに違いない。
と思っていると、ガラの悪い男達の集団がこちらに向かってくる。
すると、一早く反応したエレオラがずいっと前に。
彼女が睨みつけると、男達は一斉に腰から砕けた。
エレオラのガラの悪さもかなりのものだが、それに恐れをなしたわけじゃない。彼女が威嚇と同時にマナを放ったからだ。
学園の四年生ともなると世間では達人と呼ばれる者達に匹敵するので、あの程度は朝飯前だろう。
逃げていく男達を見ながら鼻を鳴らすエレオラ。その背中をニルレイアが指でつつく。
「てっきり問答無用でボコボコにするかと思った」
「そんな必要もないだろ……。お前、アタシを何だと思ってるんだ」
「えーと……、チンピラ?」
「お前な……」
クランツが町の人々を眺めつつため息をついた。
「普段着でも浮いてるな、俺達……。女性ばかりだし、子供もいるし、狙いやすい旅行者に見えるのかも」
子供って、まさか私のことじゃないだろうな?
だが、こんな町では一人でご飯を買いにいったミラーテさんが心配だ。ああ、ちょうど帰ってきたか。
全員分の食事が入っているであろう大きな袋を抱え、ミラーテさんがこちらへ歩いてくるのが見えた。
「まいったわ、途中で男達に絡まれちゃって……。ふふ、軽く全員ボコボコにしてやったわ」
……案の定だ、この人はまったく。
得意げに語るミラーテさんを、メイティラ様は不思議そうな目で見つめている。
「……この人、部隊で一番年上なんじゃないの?」
「うむ、だがおそらく部隊で一番しっかりしていない」
五竜名、小出しにしているのはなかなか思いつかないからです。
最近、怪獣の名前ばかり考えてる気が。
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