197 特務コルルカ部隊 出撃
式典の翌日、私はパン工房エレオラまで来るようにと呼び出しを受けた。
併設されたカフェのテーブルに着く。
目の前には特務コルルカ部隊の五人。ニルレイアさん以外の四人はどこか神妙な面持ちだ。
皆の分も注文しておいてよかった。
程なく、六人前のそれが私達の元へ運ばれてきた。
コルルカ先輩がじっと皿を見つめる。
「トレミナ、なぜポテトサラダのサンドウィッチを私達の分まで」
「私一人だけ食べるのは申し訳ないので。ごちそうします」
私がこう言うと、エレオラさんがため息をつきながら頭をかいた。
「それならアタシがごちそうするよ、アタシんちなんだから。先生も遠慮なく、ってもう遠慮なく食べてる奴がいるけど」
私達が話している間に、ニルレイアさんがサンドウィッチに齧りついていた。
「私の家は貧乏だったから食べ物は即確保する癖がある。エレオラ、ろくでもない奴だけど、唯一の長所は家がパンの名店ってとこだね」
「他にもあるだろ……。アタシ、学年一位だぞ」
「銃があれば、私はその学年一位を数キロ先から抹殺できるよ」
学園の四年生コンビはなかなか相性がいいらしい。
私もサンドウィッチを手に取る。
「それでコルルカ先輩。どうしてこのメンバーでチームを組むことに?」
「騎士となった私は下剋上戦でミラーテさんを倒し、早々にその地位を奪うことに成功した。さらに上を目指していたところ、リズテレス姫から今回の特務部隊の話を打診されたんだ」
コルルカ先輩が話を振るように視線をやると、お茶を飲んでいたクランツ先輩はカップを置いた。
「俺は姫様からこの部隊を何とかまとめてほしいと言われてね」
クランツ先輩は能力も性格も、とにかくバランスに優れた人だ。能力も性格も特化した人達の間に入れるのは彼しかいないと判断されたんだろう。
続いて、エレオラさんとニルレイアさんの四年生二人も順番に。
「私達も姫様から理事長室に呼ばれて、ナンバーズを凌ぐチームを作るからって」
「そうだっけ、私はお給料が十倍になる話しか覚えてない」
リズテレス姫はしっかり各自の引かれるものを提示したみたいだ。
それにしても、分からないのはミラーテさんだよ。彼女はどうしてこの部隊に……。
私の視線を受けて、金髪のお姉さんはボソボソと語り出した。
「……私はジル様から言われて。私には部隊長の素質はないけど、騎士としての実力はそこそこあるし、技能が全般的に派手だから陽動役とかでチームを助けられるだろうって……」
ミラーテさんは一見大人な女性だけど、中身は結構頼りない。そしてその技も、華々しい見た目の割に威力が低い。つまり、彼女は完全に見掛け倒しの女。
なるほど、ミラーテさんは派手さ特化枠で入ったのか。
ジル先生の言うように、活躍できる場面は色々あると思う。
敵の神獣を倒すだけが部隊の役割じゃないだろうから。
と思っていると、突然コルルカ先輩が椅子から立ち上がった。
「やはり私の部隊に求められている役割は敵の神獣を倒すことだ! 今日は私達の決意表明を聞いてほしくてトレミナに来てもらった!」
「…………、どうして私なんですか?」
「私達のライバル、ナンバーズであり、全員と面識があるからな」
「その条件なら他にもいそうですが、まあいいです。で何を表明するんです?」
「我が特務コルルカ部隊はこれより! ドラグセン二十将の討伐に向かう!」
先輩は拳を握り締めて高らかに宣言した。
……おそらく極秘であろう特務部隊の作戦行動が、店内中の人に知れ渡ってしまった。
私が見回すと、皆さん「秘密にしておきます」と言うように頷きを返してくれた。
だけど、二十将といえばあのシグフィゼやレギレカと同格。
チームで戦うとはいえ、大丈夫かな……。
「普通の守護神獣じゃダメなんですか?」
「いかん、特務部隊を名乗らせてもらう以上、通常の隊と同程度の活躍では足りない」
部隊長がそう言うと、クランツ先輩とミラーテさんは目を伏せた。
「俺は並の守護神獣で充分だと思うんだけど……」
「いきなり神クラスなんて勝てる気がしないわ……」
一方、まだ学生のエレオラさんとニルレイアさんは。
「上位神獣なんて初めてだけど、まあ根性で何とかなるだろ」
「実習で【戦狼】としか戦ったことないのに、死の予感しかしないよ」
……このチーム、不安でしかない。
ここは私が引率の先生として一緒に行った方がいいね。
とコルルカ先輩が訝しむような眼差し。
「トレミナ、一緒に来ようとか思ってるだろ? 断固拒否する! ナンバーズのお守り付きなんて恥ずかしいにもほどがある!」
「……じゃあせめて、守護神獣と一緒に行ってください。確か先輩の部隊、専属の守護神獣がまだ未定でしたよね?」
ルシェリスさんはコーネガルデ防衛のためにここを離れられないから、今回はキルテナにお願いしよう。あの子、ヴィオゼームとの戦いでまた一皮剥けた感じがするんだよね。
きっと皆の力になってくれる。
「キルテナを一緒に……」
「専属の守護神獣ならもう決めたぞ? リズテレス姫に頼んで今日この場に呼び出してもらっている。お、来た来た」
コルルカ先輩につられて店の入口に目を向ける。
入ってきたのは今風の服装をした若い女性。
【鎧鱗剛狐】のメイティラさんだ。
ちょっと待って先輩、その人(神)一応は上位種ですけど、すごく弱いですよ。
止めるより先に、駆け出したコルルカ先輩はメイティラさんをガシッと確保。
「待っていたぞ、メイティラ様。我が特務コルルカ部隊の専属守護神獣になってくれ」
「え! そんなの聞いてないけど!」
「今伝えた。さあ、二十将を狩りにいこう」
「に! 二十将って! 無理無理! 絶対に嫌!」
「心配ない、二十将といっても戦うのは一頭だけだ。……む、メイティラ様、へそは隠した方がいい。破廉恥だぞ」
コルルカ先輩はメイティラさんを引きずるように店から出ていく。
他のメンバーはため息をつきながら後を追った。
改めての話になるけど、このコーネルキアで二十将を倒した者はまだいない。
それを、あの部隊が……?
大丈夫かな……。
突然ですが、私の書いているメイデスという物語が書籍化されることになりました。
MAIDes/メイデス ~メイド、地獄の戦場に転送される。固有のゴミ収集魔法で最弱クラスのまま人類最強に。~
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