196 新生ナンバーズ
特務部隊の発表が済むと、式典は各部隊長の就任式に移った。
メルーダさん、ソユネイヤさん、シエナさん、ジル先生、と順番に王様から任命を受ける。
そして、コルルカ先輩が玉座の前まで上がってきた。
先輩は私の顔を見てニヤリと微笑む。
「ふふ、どうだトレミナ、驚いたか?」
「…………。はい、とても驚きました」
「嘘だな……、このおっとりめ。まったく、今日まで皆で秘密にしてきたというのに」
コルルカ先輩に促されて視線をやると、そこに馴染みの顔が集まっていた。
クランツ先輩、エレオラさん、ミラーテさんだ。
「黙っていてごめんね、トレミナさん。色々あってこうなったよ」
「そう、色々あってアタシらは部隊を組むことになった。トレミナ先生にも負けない活躍をしてみせるからな!」
「……色々あって、私は部隊長からこの隊の平隊員になったわ……」
……ミラーテさん、本当にコルルカ先輩に下剋上されちゃったんですね。
ところで、コルルカ部隊にはもう一人隊員がいた。
エレオラさんがその彼女を紹介するように押し出す。
「ニルレイアだ。トレミナ先生も知ってるだろ?」
もちろん。ニルレイアさんは学園の四年生で、私が教師として指導している生徒でもある。
彼女の実技の成績はそれほどではなく、真ん中よりちょっと下といったところ。ただ、彼女は今年度から始まった魔導銃の授業で群を抜く成績を収めていた。命中精度、威力、共に学年でダントツのトップだ。
女性としてはやや小柄なニルレイアさんは、思い出したように口を開いた。
「あ、色々あってこの部隊に配属されました。とりあえず頑張ります」
……おっとりの私が言うのも何だけど、いつもどこかぼんやりした子なんだよね。天然気質っていうのかな。
私達が話している間に、コルルカ先輩はアルゼオン王と向かい合っていた。
すると、会場中から暖かい拍手が送られる。
実はコルルカ先輩、騎士の皆にかなりの人気があるらしい。今年の春の白黒狼戦で活躍したのもあるけど、何よりそのストイックさが評価されているようだ。
あんなに小さいのに大した先輩だよ。
「トレミナお前、私のことを小さいと思っただろう?」
コルルカ先輩がくるりと振り向いた。
相変わらず敏感だけど、王様の前ですよ。
そのアルゼオン王は笑みをこぼしながら先輩を見つめる。
「コルルカ、小さいながらもお前が誰よりも騎士の心を持っているのは俺も知っている。こういう運びになって嬉しいぞ」
「小さいは余計です、王様。ご期待に応えられるよう励みます」
王様相手にもそれが言えるってすごいですよ、先輩。
彼女の任命式を見ながら、私は特務コルルカ部隊の主旨が分かった気がした。
これは特化部隊だ。防御に特化したコルルカ先輩、近接攻撃に特化したエレオラさん、遠距離攻撃に特化したニルレイアさん、バランスをとることに特化したクランツ先輩。ミラーテさんは……、よく分からないけど色々あったんだろう。
私の考えを読んだようにリズテレス姫が歩み寄ってくる。
「気付いたわね、トレミナさん」
「はい、特務コルルカ部隊は機動力に富んだ少数精鋭部隊ですね」
「そう、彼女達には十二番目のナンバーズになってほしいと思っているの」
十二番目……? 十一番目じゃなくて……?
私の疑問はやはり姫様に筒抜けみたいだ。
彼女は「すぐに分かるわ」と微笑む。
進行役のジル先生がその職務に戻り、式典はいよいよフィナーレへ。
「特務部隊に所属する騎士はランキングから外れることになります。またこれより一年は下剋上戦も休止し、あなた方の給与は所属する隊の戦果に応じて上がります。これに伴い、ナンバーズの番号は順位ではなく、当騎士を示すコードナンバーに変わることになりました。ただ今より、コードネームと一緒に改めて発表します」
あれ、コードネームなんて聞いてないよ?
とリズテレス姫に視線をやる。
「基本的に皆の通り名をそのまま付けているわ。トレミナさんも、おそらくあなたの希望通りよ」
「どんぐりじゃないですよね……?」
ジル先生が新生ナンバーズのメンバーを読み上げた。
ナンバー0 リズテレス
コードネーム 黒姫
ナンバー1 レゼイユ
コードネーム 破壊神
ナンバー2 ジル
コードネーム ミス・パーフェクト
ナンバー3 ?
ナンバー4 メアリア
コードネーム 沼の女王
ナンバー5 トレミナ
コードネーム ジャガイモ農家
ナンバー6 ロサルカ
コードネーム 魔王
ナンバー7 チェルシャ
コードネーム 天使
ナンバー8 セファリス
コードネーム 瞬撃の戦乙女
ナンバー9 リオリッタ
コードネーム 毒電波
ナンバー10 ライ
コードネーム 人間兵器
やっぱりナンバー3の人は秘密のままなんだ。
私のコードネーム、確かに希望通りではあるんだけど、一人だけ農家って弱そうだな……。
あとお姉ちゃん、瞬撃の戦乙女なんて呼ばれてるの聞いたことないよ。絶対に自分で名付けたよね?
そして、リズテレス姫は黒姫ってまさにピッタリなんだけど……。
「姫様もナンバーズになるんですか?」
「ええ、取り組んでいた魔法がようやく完成したし、専用の武器も間もなく研究所から上がってくるから。これを機に私も本格参戦するわ。特務親衛部隊は私の親衛隊なのよ」
なるほど、姫様とあの隊が指揮系統の中枢になるわけだ。それにたぶん、敵の主力と直接ぶつかることも想定してる。だから専属の守護神獣がミユヅキさんなんだろう。
リズテレス姫はアルゼオン王の前へと進み出る。
「この場に集いし全ての者に告げるわ!」
一瞬にして会場全体の空気がピリッとした。
「今日よりコーネルキアはこの体制でドラグセンとの戦争に臨む! 戦いはすでに始まっているわ! 一年後、私達は完全勝利を手にここに立っていることでしょう! 必ずそうなるように私が導く! 全員! しっかりついてきなさい!」
……皆、薄々感じていたとは思う。そしてこの瞬間、はっきりと確信したに違いない。
リズテレス姫は天性の指揮官だと。
わずかな静寂ののち、騎士達は一斉に奮い立つような声を上げた。
姫様はさっと手を出してそれを収める。
「では最後に、この戦争の総司令官を紹介するわね。いよいよ彼女が表に出る時が来たわ……、私の妹、ユラーナよ!」
まるで他人事のようにぼーっと式典を眺めていたユラーナ姫。途端にその表情が凍りついた。
「……な、何を言ってるのリズ、表に出るも何も……、私、裏でも何もしてない……」
「大丈夫よ、ユラ。私が裏でやってきたことは全てあなたの功績になっているから」
「……な、……な、なんですって――――!」
王様と王妃様、それにユウタロウさんが同情の眼差しをユラーナ姫に向ける。
本当に、もう気の毒と言う他ない……。
ユラーナ姫はこの日一番の、誰よりも大きな声で叫んだ。
「だからあんたの妹になるのは嫌だったのよ!」
ついにユラーナがこの言葉を口に。
前世からの世界をまたいだ伏線。
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