194 流れ星を追いかけて(力技で捕まえる)
いよいよ式典当日を迎えた。
朝から一家五人で王都へ向かい、指定された時間より少し早く城の中へ。
謁見の間に入ると、ジル先生の指揮の下、騎士達が慌ただしく準備を進めていた。先生は私を見つけるや声を張り上げる。
「トレミナさん! 早く衣装に着替えて! 今日はあなたからですよ!」
「そうでした、急ぎます」
今日の式典ではまず新たな守護神獣就任の儀が行われる。それに先立って、私の中にいるトレミナ熊が紹介され、アレを受け取ることになっていた。
やはり私はトレミナ導師の正装で臨まなきゃならないらしい。
ちなみに、あの衣装はこういう場でしか着ないので、もう城で預かってもらっている。
私がゴワゴワしたローブ姿で戻ってくると、すでに式典が始まる直前だった。
結局ギリギリだ、早めに来ておいてよかったよ。
謁見の間の玉座の前に、王様と王妃様、リズテレス姫とユラーナ姫、さらにユウタロウさんやルシェリスさん達、守護神獣がずらりと並ぶ。
子供姿の神獣が多いけど、それでも上段のスペースが狭く感じるほどだ。
そして、彼らが居並ぶ前には、三千人を超える騎士達。
こちらも結構ぎゅうぎゅうだね。次回からは謁見の間を改築しないと無理だと思う。
今日の式典でも司会進行はジル先生が務める。
「すでにご存知の方もおられるでしょうが、この度、トレミナ導師様が神獣の魂を取りこんでいたことが発覚しました。その魂とは、南方遠征で交戦した熊神の首領、【水晶輝熊】とのことです。今回はトレミナ熊と命名されたそちらの方にも、コーネルキアの守護神獣になっていただきます」
先生がそう紹介すると、騎士達の方でざわめきが起こった。
そこそこ噂にはなっていたんだけど、まだ一昨日のことなので知らない人も多かったみたいだ。やっぱりちょっと常識じゃ考えられないことだしね。
すると、ジル先生が私に視線を送ってきた。
「実際にその目で見た方が早いですね。導師様、お願いします」
「えーと、では〈水の爪〉を」
私が伸ばした手の先に水の塊が浮かび上がる。もちろん言霊は発していない。
水球が氷結してゴトンと床に落ちると、先ほどより大きなざわめきが。
自分から振っておきながら先生は「静粛に」と言い放った。
「ご覧のように、トレミナ導師様は人間でありながらも神技が使えるようになりました。さらにこれより、〈人型生成〉の技能結晶を取りこむことに挑まれます」
あ、ここは私もちゃんと言っておいた方がいいかも。
「成功するかどうかは完全に未知数ですが、とりあえずやってみます」
騎士達からは拍手や頑張っての声が次々に。ありがとう、皆さん。
リズテレス姫とキルテナが私の前まで歩いてきた。
「どちらに転ぼうとこの後の流れには変わりないから、楽な気持ちでね」
「はい、姫様。私も言ってみれば応援する側なので、とても楽な気持ちです」
「……本当に別の人格として存在しているんだな。じゃあ、内なる熊に準備はいいか尋ねてくれ」
とキルテナは手の中に〈人型生成〉の技能結晶を作り出した。
トレミナ熊、いける?
『ああ、いつでも大丈夫だ。俺の心は今までないほどに穏やかで、かつ集中している。必ず受け止めてみせる』
ジャガイモ畑の真ん中で、トレミナ熊はうっすらと目を開けた。
すごい、確かに何かの境地に達したみたいだ。
私が頷きを返すと、キルテナの手から結晶がゆっくりと動き出す。私の胸の中へと静かに吸いこまれていった。
一方で、イモ畑のトレミナ熊がバッと上空を見上げる。
その視線の先で小さな光が瞬いた。
『来た! まるで流星だ! 素通りする気だな! させるか!』
流れ星を追ってトレミナ熊は駆け出す。
充分に勢いがついたところで、大空に向かって跳んだ。
『捕まえたぞ! このまま引きずり降ろしてやる!』
光る飛行体を掴んだ熊は落下していく。力任せに畑に叩きつけた。
そして、全身を使って覆い被さる。
『こら! 暴れるな!』
……穏やかな心はどこへ行ったの? すごい力技だった……。
それにしても、現実世界では小さな結晶だったのが、あちらでは直径一メートルほどになってる。不思議なものだね。
それで、何とかなりそう?
『うむ、俺の魂に反応してか、大分大人しくなってきた。だがこれは……、おそらく時間が掛かるぞ』
苦々しい声を上げるトレミナ熊の元に、遅れてトレミナBとGが走ってきた。
二人も巨大な〈人型生成〉に触れる。
『…………、うん、結構掛かりそうではあるけど、できなくはないね。あと、改造次第で私とGの体も作れるかも』
『ええ、三人で協力すれば来年中、戦争が始まるまでには完成すると思いますわ』
なるほど、じゃあ成功ということだね。
現実世界では、騎士達も王族も守護神獣も、全員が固唾を飲んで私を見守っていた。
「成功しました。皆の人型を作れそうですが、時間は少し掛かりそうです」
私がそう報告すると、謁見の間は歓声と驚きの声に包まれた。
あっと、リズテレス姫にはもうちょっと正確に伝えておいた方がいいね。
「姫様、今年中は無理そうですが、開戦までには間に合うと思います」
「そう、来年にはトレミナさんが四人に増えるのね。楽しみだわ」
これが技能に人格を芽生えさせた時から考えていた到達点です。ようやく辿り着きました。
体ができるまでまだまだ掛かりますが。
評価、ブックマーク、いいね、感想、誤字報告、本当に有難うございます。