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190 誕生日プレゼント

「トレミナさん、もう一度言ってくれる?」


 コーネガルデ学園の理事長室で、リズテレス姫は私の顔を見つめたままそう言った。

 執務机の傍らに立つジル先生も促すように頷く。


「はい、私の中に熊がいます」


 私の言葉に、姫様は今度は先生と見つめ合った。それから、ため息を一つ挿んで。


「まあ、今回使った神技と、セドルドでのすき焼きの件から、大体そうじゃないかと予想はしていたけど……。実際、直接聞いてしまうと、もうこう問わざるをえないわ」

「何でしょう?」

「トレミナさん、あなた本当に人間?」


 ……人間、だと思います。……段々と自信がなくなってきましたが。

 ジル先生がソファーの方に移動し、私にもそちらで座るよう勧めてくれた。

 腰を下ろすと、目の前のテーブルに地図が広げられる。コーネルキアの領土を中心に周辺国まで描いたものだ。

 もう南方域までしっかり組みこまれてるね。こうやって見るとずいぶん大きくなったもので、もう小国とは呼ばれないだろう。ドラグセンと比べるとまだまだ小さいけど。

 地図をしげしげと眺める私を見て、ジル先生が少し微笑む。


「一年後にはこの倍以上の国土になりますよ」


 あるいは、地図上から消えているかですね……。


「来年ドラグセンに勝利すれば、この国はすごいスピードで成長していくことになりますね」

「すごいスピードで成長しているのはあなたですよ。神獣の魂を取りこんでいたかと思えば、早くも地霊を扱えるようになって。今朝のことは報告を受けています。勝手に住宅地を農地に変えてはいけません」

「ごめんなさい……」


 ご立腹のジル先生をなだめるように、リズテレス姫がその前にコーヒーを置いた。

 あ、私にもですか。

 また姫様自ら入れていただいて。おそれいります。

 チョコレートを一つ食べ、それからコーヒーを口に。

 美味しい……、朝からバタバタしていたけど、やっと落ち着けた気がする……。

 そんな私を見ながら、ジル先生もコーヒーを一口。


「全くおそれいってませんね。いつものことですが」

「それでこそトレミナさんよ。とにかく、大地を耕す魔法まで編み出したのは素晴らしいわ。タイミング的にもバッチリね」


 話しながら歩き出したリズテレス姫は、執務机からペンを一本取って戻ってきた。


「タイミング的にも、とはどういうことですか?」

「ずいぶん待たせてしまったけど、ようやくトレミナさんへの誕生日プレゼントの準備が整ったの」


 と姫様は広げたままになっていた地図に線を引き始める。

 コーネルキア国土の上に、北側の一部を区切るようにスーッと。

 ……ここは、ジャガイモの生産が盛んな地域。ということは、プレゼントはやっぱりジャガイモかな?

 線を引き終えたリズテレス姫はテーブルにペンを置いた。


「はい、ここから上がトレミナさんのものよ」

「…………、え?」

「だから、このコーネルキアの北部地域はトレミナさんの領地になるの」

「…………、……え?」


 私はあまり物事に驚いたりしない性格だ。だけどこれは、驚いた、と言っちゃっていいかもしれない。突拍子のない話すぎて現実感が全くない。

 そもそも国の制度からしてありえないことだよ。


「コーネルキアは貴族や特権階級を認めていません。領主になるなんて不可能です」

「ええ、なのでこれは世襲せずトレミナさん個人に認めるものよ。コーネルキア王国からトレミナ導師への感謝と信頼の証といったところかしら」


 なるほど、だったらもらっておこうかな。

 と、いくわけない……。私は領地経営の知識も経験もゼロなんだから……。

 そのことを言って断ろうと思った矢先、ジル先生が先手を打ってきた。


「なお、トレミナ領へは国から各分野の専門家が派遣されます。治安の面でも、これまで通り騎士達が巡回しますので、実質的にトレミナさんは経営方針を示すだけでいいですよ」

「あなたの負担になるようなことはしないわ。そして、これが学年末トーナメントで約束したことへの答よ」


 リズテレス姫にそう言われて半年前の記憶を手繰る。

 ……そうだ、確かに姫様も先生も、きちんと検討するとあの時言ってくれた。本当に約束を守ってくれたんだ。


「いえいえ、検討を約束してくれたのはジャガイモ農家になる件ですよ。それがなぜ領主に」

「領地の大部分がジャガイモ畑なのだから、それを治めるトレミナさんもジャガイモ農家と言っていいと思うわ。つまり、全てトレミナさんの畑よ」


 全て……、私の畑……。

 確認するべく改めて地図に目をやり、ふと気付く。


「私の領地、かなりの距離に渡ってドラグセンと接してませんか……?」


 視線を戻すと、向かいのソファーではリズテレス姫とジル先生が満面の笑みを湛えていた。


「トレミナさんは確か、畑に悪さする獣を追い払えるくらいには強くなりたい、と言っていましたよ」

「あらそう、それは一年後が楽しみね」


 二人の笑顔を見ていると、何だか次第に引きこまれていくような感覚に。

 ……私、広大な畑を守るために、もっと強くならなきゃ……。

トレミナは基本的に驚かない設定です。

お気付きの方もおられるかもしれませんが、トレミナの発言は心の声も含め、一度も「!」を使っていません。

ですが、コミック版のトレミナは普通に驚きますし、「!」も結構出てきます。

これは連載開始時に、当時の担当さんとそう決めました。

小説とコミックの一番大きな違いかもしれません。

いや、やっぱり一番大きな違いはまゆ毛の太さかも。


評価、ブックマーク、いいね、感想、誤字報告、本当に有難うございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 利と責を同時にプレゼントしつつアフターフォローも抜かり無し 体験元にした実話と聞いても直ぐに信じられなそうw
[一言] さすがトレミナ検定一級
[一言] 千年くらいするとこの辺の主として有名に
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