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ジャガイモ農家の村娘、剣神と謳われるまで。  作者: 有郷 葉


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19/212

19 〈トレミナボール〉

 例により、二回戦まで結構な時間がある。

 また観客席で軽食を、と思ったんだけど、そうできない事態に。

 クランツ先輩を倒してから、私は一段と注目されるようになった。どこに行っても周囲に人だかりができる。

 いくらおっとりしていても、この状況では食べづらいよ。

 それに、静かに考えたいこともあるんだ。

 なので一旦演習場を出ることにした。


 敷地の壁づたいに歩いていくとベンチがあった。周りには人の気配もない。

 緑が多くて気持ちいいし、ここにしよう。

 ベンチに腰掛け、ポテトサラダのサンドウィッチを取り出す。

 そう、一昨日に続き二度目の登場。売ってるパン屋がお気に入りなんだよ。これ以外にも美味しいのがたくさん。ジャガバターを包んだボリューミーなやつとか、ベーコンポテトを乗せたピザっぽいやつとか。

 店主で職人のおじさんとも仲良くなって、私はもう完全に常連だ。

 お店の名前は『パン工房 エレオラ』。おじさんによると、一人娘の名前を付けたらしい。

 ……たぶん、あの三年のエレオラさんの家だよね。

 彼女はスラムのチンピラじゃなかったわけだ。とりあえず、トーナメントが終わったら姉のことを謝りにいこう。

 と思っている内にサンドウィッチを食べ切った。


 静かに考えたかったのはパン屋のことじゃない。

 この後の試合についてだ。

 学年二位をやっつけたんだから決勝までは余裕、というわけでもないんだよ。

 クランツ先輩との戦いを見て、皆きっと対策を練ってくる。

 私相手で絶対に避けたいのが近接戦。だから、動きを阻害した上で、遠くから攻撃を仕掛けてくるはず。結局クランツ先輩と同じ戦法なんだけど。


 厄介なのは攻撃技能より足止めの方だったりする。先輩の〈地障縛〉みたいにかなりのマナを込めてくると思うんだよね。

 どんな拘束であれ攻略が大変だし、毒系なんて怖いのもある。属性の代わりに毒術をマナにすりこんでくるのが毒系技能で、麻痺や幻覚などを引き起こす。

 まあ、拘束でも毒でも、マナも時間も消耗させられるのは間違いない。


 せめて私も遠距離攻撃が使えればな……。

 目の前にマナの玉を浮かべた。

 これが飛んでいってくれたらいいんだけど。

 私ができるのは、体から離したマナを維持する〈離〉まで。その先の、念じてマナを飛ばす〈放〉は未習得だ。


 じーっとマナ玉を見つめる。

 動け、動け。

 飛べ、飛べ、飛んでみせてよ。

 ……ダメか。もうっ。

 ペシッと玉を叩いた。


 するとマナ玉は空中を転がるように移動を開始。

 演習場の壁に接したその時、


 ボコッ!


 と大きな穴を開けた。

 しまった……、あれに結構マナを込めてたみたい。あとで弁償しよう。

 ジル先生に、反抗期ですか? とか言われそうだけど……。

 けど今の、どうして飛んだんだろ。


 もう一度マナ玉を作ってみる。

 そして指先で……。おっと、横は危ない。上方向へ。

 下からそっと触れてみた。

 玉は空高く昇っていき、やがて青色に紛れて見えなくなった。


 ふむ、直接触って意思を注入すれば飛ぶようだよ。

 あれ? じゃあ私、〈気弾〉撃てるんじゃない?

 〈気弾〉とは、掌からマナの塊を放つ無属性の戦技である。


 斜め上に手をかざし、強く念じた。〈気弾〉出ろ。


 掌からにゅーっと出てきたのは見慣れたマナ玉。

 飛んでいくことなく、その場で浮かんでいる。

 えー……、なんでだよ。

 手で払った玉は演習場の壁へ。

 ボゴッ! とさっきより一回り大きな穴を開けた。


 ……あ、強く念じたから。……弁償しよう。


 またマナ玉を製作し、眺めながら熟考。

 私、習得度が中途半端だ。接触で飛ばしても、このスピードじゃ確実に避けられるし。うーん、どうしたものか……。んん?

 ふと、マナ玉を手に取る。


 ……これ、投げたらいいんじゃない?



 ――さあ、二回戦だ。


 早速あの技を試してみるよ。〈気弾〉ならぬ〈気投げ〉。

 こんなものは戦技にもなっていない。一旦マナ玉を作り、さらに投げなきゃならないから、明らかに〈気弾〉より時間と労力を要する。

 でも、私の場合はそれほどマイナスにならないと思う。

 まず、マナを動かす速度には自信があるから玉の形成は一瞬。

 そして、投げるという動作は全身の筋肉を使う。体に纏っているマナの力をかなり上乗せできるはず。

 私の〈気投げ〉、結構強いんじゃないかな。


 二回戦の審判はジル先生だった。


「おや? トレミナさん、剣は構えないのですか?」

「はい、これで構いません。いつでも始めてください」

「よく分かりませんが、いいでしょう。では――」


 始め! の合図と同時に、右の掌にマナ玉を構築。

 全身のマナを投擲動作に最適化。


 一方、対戦相手の四年生男子は、やっぱり足止めにくる模様。


「水霊よ――」


 させませんよ。

 こっちは無詠唱で、もう準備も万端。

 あとは投げるだけです。

 よいっ、しょっと。


 ドッシュ――――――――ッ!


 私の放った剛速球は相手の腹部に命中。

 勢いは止まらず、彼の体をさらって闘技場の壁に叩きつけた。


 開始二秒の決着に、満員の観客席はシーンと。


 ……結構強い、どころじゃなかった。

 これは、完全に力をセーブしなきゃならなかったやつだ……。……あの人、大丈夫かな? 生きてる、……よね?


 倒れた彼の方を見ていたジル先生が、くるりと振り返った。


「安心なさい、生きています。それにしてもトレミナさん、恐ろしい戦技を編み出しましたね。〈気弾〉に全身の力を上乗せするとは……。あなたの〈放〉が完璧なら、彼の体は二つになるところでした」

「……未熟でよかったです」

「しかし盲点だった技ではありますね。新戦技として認定してあげますよ。名称は何にします? 〈デッドボール〉ですか? 〈殺人球〉もいいですね」

「お任せします……」



 結局、この新戦技は〈トレミナボール〉という名で正式に登録された。

 後に続くトレミナシリーズの、記念すべき第一号となる。

この世界では過去に食の大革命が起こっていて、

現代日本の料理が世界中に広まっています。

日本特有の総菜パンを作るパン屋もいたる所に。

後々本編でもきちんと説明します。


評価、ブックマーク、いいね、感想、本当に有難うございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] どこの治癒オーガだ
[良い点] 頭にあたってたら首がへし折れてるところでした あぶないあぶない
[一言] トレミナシリーズww
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