189 賑やかな朝
地盤沈下させてしまった家々を元に戻さなければならない。私にはまだ地霊の緻密なコントロールは無理なので、可能な人を探して騎士団本部に駆けこんだ。
すると、意外な騎士が協力を申し出てくれた。
「こんなに朝早くからすみません。ロサルカさん」
「いえいえ、トレミナさんの頼みならこれくらい。ですが、驚きましたよ。もう地霊を操れるようになって、さらに災害級の魔法まで編み出しているのですから」
「……農業用、のはずなんですけど。私も驚きました。ロサルカさん、地属性を扱えたんですね」
「今はほとんど闇しか使いませんが、私、元々は地と火が得意な魔女だったんですよ。ごく普通の魔女がなぜ魔王を降臨させるまでになったか、ご興味が?」
「いえ、結構です……」
人の闇に触れるのは遠慮しておこう。
ロサルカさんはご近所の家を、次々に本来の高さまで戻してくれた。私がお詫びのジャガイモを手渡して謝っている間にその家を完了させていたので、彼女は地属性のレベルも相当なものなんだろう。
普段使わないのがもったいないな、と思ってしまった。
私も早くそれくらい地霊を操れるようになりたい。錬ってばかりいないで調えなさいとは(ジル先生に)よく言われたものだ。
最後に我が家の工事をやって、全ての作業を終えた。
「ロサルカさん、ありがとうございました。お礼に朝ご飯でもご一緒にどうですか?」
「トレミナさんの手料理ならぜひ、と言いたいところなのですが、出てくる前に済ませてしまいまして。……あ、では代わりにこちらをいただきますね」
ロサルカさんの闇霊が私の体にぺたっと貼りつく。
う、相変わらずぞくぞくする。
しっかり私のマナを吸収した闇の精霊は、「ごちそうさまでした」とでも言うように目の前でクルンと回った。
……おそまつさまでした。
「消費した分はきっちり補充させていただきました、ふふふふふ。では、明日の式典で」
そう言ってロサルカさんは帰っていった。やっぱり怖い暗黒お姉さんだ……。
ちなみに明日の式典とは、南方地域での仕事を終えた第1、第2部隊の帰還を祝したり、レイサリオン王国を救った魔女の皆さんを祝したり、新たに守護神獣となる狐神達を祝したり、とにかくおめでたい式典となっている。
その他、色々と発表することもあるそうなんだけど。私も近頃バタバタしていて詳しくは知らないので、今日この後、リズテレス姫とジル先生にトレミナ熊を紹介する時にでも聞こうと思ってる。
ロサルカさんが敷地の門を出ていって間もなく、入れ替わるようにチェルシャさんが入ってきた。
「トレミナ、おはよう」
「おはようございます」
挨拶を交わすと、彼女は私の横を通り抜けて家の方へ。
ちょっとちょっと、我が家にご用ですか。
「何となく、朝ご飯でもご一緒に、と言われた気がしたから遠慮なくおよばれに来た」
「…………。まあ、いいですけどね。昨日助けてもらったので」
ではどうぞ、と玄関に目を向けると、ちょうどキルテナとセファリスが飛び出してきた。
朝から二人とも元気だね、って私のせいか……。
「トレミナが早朝から畑魔法で起こすからもう腹ペコだよ。私も今日から一年後に向けて修行するからな。めちゃ食うぞ」
とキルテナが私の腕を掴んでぐいぐい引っ張っていく。
一方のセファリスは後ろから私の背中をぐいぐい押していた。
「八倍速って反則でしょ! お姉ちゃんも修行頑張って属性を使えるようにするからね! めちゃ食うわよ」
家に入ろうとしていたチェルシャさんもおもむろに振り返った。
「分かってると思うけど、私もめちゃ食う」
はい、重々承知しています……。
玄関を入ってすぐの所にはルシェリスさんが立っていた。
「私は昨日の戦い、非常にもやもやしている。不完全燃焼だよ。なので今朝は、めちゃ食う」
結局、めちゃ食うんですね。
じゃあ、私も覚悟を決めて朝はめちゃ作るよ。家族皆の欲求を満たしてやろうじゃない(家族じゃない人もいるけど)。
……あれ、家族が一人足りないよね。
「お姉ちゃん、モアは?」
「まだ寝てるわよ。あの子は表も裏も図太いことに変わりないからね。家が少々沈んだくらいじゃ起きないわ」
いつかのバーベキューと連動したほのぼの回になりました。
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