188 初めての属性魔法
私の精神世界での決起集会はまだ続いていた。
今は、具体的にどう強くなっていくか、という部分に話が及んでいる。
やっぱり私(本体)は属性の修行だと思う。
地属性を習得すれば、既存の技を強化できるだろうし、新しい技も覚えられるだろうから。
『それなんだけど、マスター』
とトレミナBが小さく挙手。
『マスターの地属性ってもう結構なレベルに達してると思うんだよ。だって、毎日〈錬〉の時に、精霊も一緒に錬りこんでるだろ?』
うん、錬りこんでるね。
属性修行の初歩にして大切な要素が、精霊との親和性を高めること。これの一番効果的な方法が〈錬〉と同時に行うやり方だ。だから私もそうしている。
今度はトレミナGがため息まじりに手を挙げてきた。
『マスターは八倍錬れますので、普通の方が属性修行を八か月やったのと同程度にまで達していると思われます。おそらくもう技能として発動できる段階にいますわよ』
…………、え? 本当に?
言われてみれば、シグフィゼと神技で戦っていた時、〈地激波〉だけ異様に威力が高かった。果たして、その属性が好きというだけであそこまで威力が上がるものだろうか。
『いいや、上がるものではない』
精神世界に広がる畑を歩き出したトレミナ熊は、おもむろに足元のジャガイモを引っこ抜く。実ったイモを一つもいで、私に手渡してきた。
『農家に専念するのは平和になってからだとしても、もう始めてもいいのではないか?』
確かに、もうマナを属性変換できるならそれも可能になる。
視線を向けるとBとGも頷きを返してくれた。
皆、私が最初に作りたい魔法を分かってくれているんだね。早速この後やってみるよ。
戦いに使えそうな技能はそれからおいおい考えようかな。
……いや、こっちもちゃんと考えないと。そもそも、どうやって強くなるかという話だった。
皆はやること決まっているの?
尋ねると、トレミナ熊が真っ先に胸を張る。
『無論、己の技を鍛えるのみだ』
『それは当然なのですけれど、実は前々からBと検討していることがありまして』
トレミナGの言葉を受けて、Bが後を引きつぐ。
『さっき、熊は自分のことを魂だけのような存在と言っただろ? 私とGも似たもんだと思うんだよ。だとしたら、アレを改造して使えるんじゃないかって』
……アレか、私が受け取れるかどうかが問題だけど。
彼女達がやろうとしていることは分かる。成功すれば、現実に戦力が増えることになるよね。
『俺ならキャッチできるかもしれん。やってみる価値はある!』
張り切るトレミナ熊が小さな尻尾をピコピコと動かした。そこに目を奪われつつトレミナGが。
『今日は、リズテレス姫やジル先生にマスターが神技を使えるようになったいきさつをご説明なさりに行かれるでしょう? その際にご相談していただけませんこと?』
分かったよ、たぶんオッケーがもらえると思う。
じゃあ、決起集会はここまでということで。
『お待ちになって』
引き止めるようにトレミナGが手を伸ばした。
もふっと掴んだのはトレミナ熊の尻尾だった。
『あなた、ずっとその姿でいるつもりですの? たまには子熊になってもよろしくてよ?』
その意見には私も賛成だ。よろしくてよ?
『……善処する』
熊が渋々ながら承知してくれたところで集会はお開きになった。
~ 現実世界 ~
私はベッドで体を起こした。
ここはマイホームの私の部屋。ヴィオゼーム一派を撃退した(というよりお帰りいただいた)その翌日になる。今はまだ日が上って間もないから、他の皆は寝ている時間帯だ。
昨日は、ルシェリスさん以外は全力で戦ったのでなかなか起きてこないかも。
いつもならまず朝ご飯の準備にかかるところだけど……。
私はリビングのガラス戸を開けて庭へと出た。
朝の澄んだ空気を吸いながら少し歩く。足を止めたのは何もない一角。
ここは家庭菜園を作ろうと思って空けておいたんだよね。
よし、やるよ。
地面に手をつけた私はイメージを膨らませる。
思い出すんだ。あの春の、ノサコット村でやったことを。一面に広がったあの光景を。
……いける。
「地霊よ、その力で大地を耕せ。〈地霊耕起〉」
シュザザザザ――――――――……。
地面が見る見るふんわり柔らかな土に変わっていく。
その漣は菜園予定地の一角を越え、庭全体へと波及して……。
待って待って、どこまで行くの。
……お、思い出した。あの春、私は相当な面積を耕したんだった……。
しまった。
と思った時にはもう遅かった。
ズンッ!
マイホームが数十センチ地面に沈んだ。
敷地の外に目をやると、地霊の漣は天下の往来まで耕してしまっている。
ズンッ! ズンッ! ズンッ! ズンッ!
ご近所の家々がことごとく大きな音をたてて震動。
たぶんいずれも数十センチずつ沈んでると思う。
……私の初めての属性魔法、大変なことになってしまった。
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