187 結束するトレミナ達
~ 私の精神世界 ~
私はトレミナBさんとGさんを伴ってジャガイモ畑を進んでいく。
畑の真ん中で待っていたのはトレミナ熊さんだった。大事な話があると、私達は彼から呼び出しを受けた。
『待っていたぞ、まず俺はトレミナに謝らなければならない……』
改まって何でしょう?
大体の察しはつきますけど。……名前のこと、ですね?
トレミナ熊さんは静かに頷く。
『その通りだ。……実は、俺は最初から自分の名前を覚えていた』
はい、私達も最初から気付いていましたよ。
『どうしてこんな魂だけのような存在になったのかは分からないが、せっかくだから少しの間、お前と一緒にいたいと思った。そして、今まで知ることがなかった人間の世界にも触れることができたんだ』
後脚で立ち上がったトレミナ熊さんは、『もう思い残すことはない』と私の顔を見た。
『今が告げる時なんだろう。トレミナ、俺の名前は――――だ』
ついに本当の名を明かした彼は、空を仰いで目を閉じる。
その姿勢のまま、十秒、二十秒と経ち、さらに、一分、二分と過ぎていった。
うっすらと目蓋を開ける子熊。
『なぜ消えない!』
だって、私が引き止めていますから。そもそもどうして消える必要があるんです?
『……いや、本来俺はここにいるべき存在ではないし』
『そんなの、私達だってそうだよ』
トレミナBさんとGさんは互いの顔を見て同意し合う。
この世界では、私がいてほしいと願ったらいるべき存在です。いつか一緒に世界樹に行きましょう。
『トレミナ……、覚えてくれていたのか……。
……俺は、ここにいていいのか?』
もちろんですよ。もふもふがいなくなったら寂しいじゃないですか。
言った傍からトレミナGさんが子熊をもふっと抱き上げた。彼女も私に負けず劣らず触れ合いたいタイプだ。
『大体ですわよ、熊がいなくなったらマスターが神技を使えなくなるかもしれないじゃありませんの。発動させるのに体の動きを合わせていますから、絶対使えなくなりますわ』
『そ、そうだな。トレミナと深く結びついたせいか、どうも近頃うっかりだかおっとりだかすることが多くて……』
人のせいにしないでください。
では、今後は――――さんとお呼びすれば?
『いや、これまで通りトレミナ熊と呼んでくれ。この場所から新たな気持ちでトレミナと共に歩んでいきたい』
『とか言いつつ、本当はその名前が気に入ってるんじゃないか? もしくは、自分だけトレミナが入らないのが嫌とか』
トレミナBさんはGさんの腕の中にいる熊さんの顔をじっと見つめた。
『……両方図星か。そうだマスター、ちょうどいい機会だし、もう今から私達に敬語を使うのはやめにしない?』
急にそう言われましても。Gさんと熊さんはそれでいいんですか?
『私達は運命を共にするチームだということが、今回はっきりいたしましたわ。この後はもっと緊密に連携をとっていかなければなりませんし、私は賛成です』
『同じくだ。この二人も俺も、トレミナによって生み出されたのだから、何の遠慮も必要ない』
分かりました。皆さんがそう仰るなら……、もう敬語はやめるよ。
確かに、遠慮し合ってる場合じゃないって、今回の戦いでよく分かったし。
私達は全員で円陣を作った。
とここで、トレミナ熊が不満の声を。
『俺だけサイズが合わん。ちょっと待っていろ。俺もこの精神世界に馴染んできたということを証明してやる』
そう言うと、体長五十センチの子熊の体が光を纏い始めた。
光は人の大きさまで膨らむ。
やがてそこから現れたのは、見慣れた姿の少女だった。茶色のショートヘアに、黒い瞳。
これは……、やっぱり私だ。
だけど、少し違う箇所もあるね。頭に熊の耳、お尻に熊の尻尾がぴょこんと生えてる……。
……もはや、トレミナ熊以外に呼びようがない。
『見たか、これで俺もお前達と同じトレミナだ』
その姿と声で「俺」と言われると違和感がすごい。ほぼもふもふじゃなくなったし。まあ、本人は満足げだし我慢しよう。
改めて、四人のトレミナで円陣を組む。
ここはきちんと私が主導するべきだよね。
じゃあ皆、今からあと一年、力を合わせて強くなっていくよ。
そして、コーネルキアに平和が訪れた暁には……。
私は両手を広げて、精神世界に繁るジャガイモ畑に視線をやった。
……この光景を、現実世界で私のものにする(つまり、私はジャガイモ農家になる)。
私の決意に、B、G、熊は頷いて賛同してくれた。
『異議なしだ』
『異議なしですわ』
『俺も異議なしでいい。何だか近頃、イモ畑が第二の故郷のように思えてきた』
大きな目標を掲げたことで、私達四人のトレミナの結束は強固なものとなった。
熊は一か月ここにいたせいで洗脳されています。
評価、ブックマーク、いいね、感想、誤字報告、本当に有難うございます。










