186 決戦日確定
世界樹出身の神獣は、母親が単独で世界樹に戻って子育てを行うらしい。
たぶんキルテナはずっと父親のことを聞かされて育ったんだと思う。そして、外界に出てきて初めてヴィオゼームと出会った。
キルテナの神技って、属性が完全にヴィオゼームと一緒なんだよね。きっと彼女にとって父親は憧れであり、目標なんだ。
そのキルテナは人型になっていた。
私の前までやって来ると、悔しそうに顔をうつむけさせる。
「……皆の助けを借りて、ようやくヴィオゼームの力半分だ。……私は、まだまだ親父には届かない」
あっちは千年以上生きているんだよ。そんなこと、キルテナには関係ないんだろう。私は何かを言う代わりに、そっと彼女の腕に手を伸ばした。
今回の戦いは、私達にとって色々と見つめ直す機会になった。
とりあえず、全員が無事で終結となってよかったよ。
と安堵していると、レゼイユ団長がマナを漲らせて進み出た。
「何を勝手に終わらせようとしているんです? 決着がつくまで互いに死力を尽くして戦いましょう。私の弟子は本当に死ぬかもしれませんが……、えーとまあ……、必要な犠牲です!」
聞いていたセファリスが顔面蒼白に。
『私も賛成だよ。むしろここからが本番だ』
武神の黒兎、ルシェリスさんもこちらに戻ってきていた。レギレカと戦っていた時とは打って変わって生き生きとしている。
私とシグフィゼの視線が合った。同時に、敵であるはずの彼女と初めて心が通じ合う。
『もう帰りたいのだが』
『私もです』
『……なぜ心で会話ができる? これもトレミナの能力か?』
『あ……、しまった……』
『ふふふふ、うっかり私に力を明かしてしまうとはな、おっとりな奴だ。さては、先ほどのキルテナ達の絶妙な連携もトレミナが起点になっていたな?』
……とりあえず急いで精神をブロック。
……いけない。このままじゃ、団長とマイナス特性おっとりのせいでどんどん私の能力がバレてしまう。早く戦闘を終わらせないと。
『わらわに任せておくのじゃ』
心にそう声が響いた直後、ミユヅキさんも九尾の狐から人型に姿を変えた。
幼女は陽気な笑みを浮かべながら、敵陣に向かって歩いていく。
「ここで一旦休戦とするのはあの姫の意思でもあるのじゃぞ。あの、ユラーナ姫、のな」
ミユヅキさんは探るような眼差しでシグフィゼを見る。
「やはりな、采配を振るっていたのはユラーナか」
「のじゃのじゃ。わらわもコーネルキアに行って驚いたのじゃよ。あんな八歳児がおるとはのう」
「ふ、トレミナは人間だったが、ユラーナは果たしてどうだろうな」
「……何を言っておる。ユラーナ姫は正真正銘、普通の人間じゃぞ」
「まあいいさ」
……すごい、ミユヅキさんの話術はシグフィゼに負けていない。
リズテレス姫の存在が露呈していないことをしっかりと確認した。そして、ユラーナ姫を得体の知れない何かに仕立て上げた。
間違いない、この場にいる者の中で一番交渉に長けているのはミユヅキさんだ。
彼女が言ってくれた通り、ここは任せておこう。
ミユヅキさんは懐から酒の瓶を取り出した。
それをヴィオゼームの頭部にいるシグフィゼに投げ渡す。
「ユラーナ姫からじゃ」
受け取った竜の知将は瓶のラベルを見ているようだった。
「私達が同意したとしても、この日になるとは限らないぞ」
「エデルリンデにも動いてもらうそうじゃ。それで実現可能になるのはそちにも分かるじゃろ?」
「ふむ……」
シグフィゼは屈みこみ、小声でヴィオゼームに語りかけ始めた。
この間に私は、あのラベルに何が書かれていたのかミユヅキさんに尋ねる。
「コーネルキアとヴィオゼーム領の間で交わす約定の提案じゃよ。決戦まで互いを攻撃しない停戦状態とすること。それから、決戦日の取り決めじゃ」
決戦日の、取り決め……。
やがて黄金の巨竜が大きく頷く。あちらの答が出たようだ。
もちろんここもシグフィゼが主人に変わって返答する模様。
「私達の行動に関係なく、最初からこの提案をしてくるつもりだったな。エデルリンデ様が造反を告げてきたのも、そちらと示し合わせての上だったというわけか」
「わらわは知らぬが、そういうことなのじゃろうのう。して、どうするのじゃ?」
シグフィゼは少しの間を空ける。
その後、ミユヅキさんではなく、私の顔をまっすぐに見つめてきた。
「受けよう。決戦は今日からちょうど一年後だ」
――――。
東の空を泳ぐヴィオゼームの姿が完全に見えなくなるまで、私達はその場を動かずにいた。
戦争が早まってきている予感はあったけど、これで正式に確定してしまった……。
ここは前向きに捉えよう。
一年間の猶予があると思えばいい。
……あと一年で、私はどこまで強くなれるだろう。
なお、学年末トーナメントからこの日で、大体半年くらいです。
神獣と戦ったこともなかったトレミナ、最上位神獣と渡り合えるほどになりました。
(わたあめ神獣から攻撃を受けた経験はあります)
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