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184 〈エンジェルモードⅡ〉

 セファリスの〈天槍〉に感心したのも束の間のことだった。

 彼女の身に迫る危険に一早く気付いたモアが、精神通話で警告を発する。


『セファリス! ヴィオゼームの〈爪〉が来るぞ!』


 空中のセファリスに、黄金竜の巨大な〈火の爪〉が振り下ろされようとしていた。

 いけない、いくら今の高まってるお姉ちゃんでもあれが直撃すれば死んじゃう。

 その時、私の心の中に姉の声が響いた。


『これまでのことも全部含めて……、トレミナ、本当にありがとう』

『お、お姉ちゃん……』


 それ、さっき死にかけた時の私。

 冗談言ってないで早く逃げて。〈ステップ〉を使えば何とか避けられるでしょ。

 しかし、その必要はなかった。

 空を切って飛来した光がセファリスの体をさらう。光はそのまま高速で旋回してこちらに戻ってきた。


 ……信じられない速さだ。ナンバーズは大体全員が人間離れした速度で動けるけど、その中でもトップクラスかもしれない。

 目の前には、天使のオーラに包まれた美少女が浮かんでいた。

 二枚だった背中の翼が四枚に増えている。


「チェルシャさん、その姿はいったい……」

「現在の私の本気、〈エンジェルモードⅡ〉。翼が増えただけじゃなく、全ての能力が上がってる」


 元々、一つで全てを補う魔法ですもんね。


 無事回収されたセファリスが私に抱きつく。


「お姉ちゃん! 死ぬかと思ったわ!」

「一人であそこに突っこむとか無茶しすぎ」


 チェルシャさんはミユヅキさんに視線をやった。


「九尾の狐、援軍はまだ来る?」

『のじゃ』

「来るそうです。もしかして攻撃するつもりですか?」

「この〈Ⅱ〉は消耗が激しいから防御担当としては使うわけにいかなかった。でも、今なら話は別。私もシグフィゼに一矢報いたい。どんぐりを失ったら姫様に顔向けできないところだった」

「一矢ならお姉ちゃんがもう」


 言いかけた時には、すでにチェルシャさんの姿は消えていた。

 起き上がった銀の竜の周囲を光が舞っている。攻撃は突然始まった。


 キィィ――……、

 ガガガガガガガガガガ!


 息をつく暇も与えず、煌く弾丸と化したチェルシャさんが突進を繰り返す。

 シグフィゼは反撃はおろか、狙いを定めることすらままならない。ただただ一方的に撃たれるのみ。巨体がグラッと揺れた。

 隙を逃さず、光弾はその頭部を直撃。


 ズウゥゥン……。


 シグフィゼは再び大地に倒れこんだ。

 戻ってきたチェルシャさんは生き生きとした表情で四枚の翼をパタつかせる。


「気分爽快。私はコルルカじゃないから防御一色だとモヤモヤする」

「一矢と言いつつ何矢報いてるんですか……」

「できる時にできるだけやるのが私の信条。九尾の狐もナイスサポート」


 そういえば、ミユヅキさんまた何か毒を使っていましたよね? あれ、何だったんです?


『知覚を鈍らせるだけの軽い毒じゃ。軽いゆえに確実に効く!』


 九本の尻尾がもっふもっふと揺れる。

 ……この神獣が敵にいたら、本当に嫌だと思う。


 二度までも地面に寝転ぶことになったシグフィゼ。ヴィオゼームに向かって短く吠えた。

 すると、黄金の竜は彼女を庇うように前に立つ。これを受けてシグフィゼは人型になり、再度主人の頭に乗った。誰かに毒殺されないようにマナでしっかり守ってもらっている。


「……まったく、大変などんぐりに手を出した気がする。だが、ナンバーズ二人の実力も確認できたのでよしとしよう」


 彼女が微笑みを湛えると、手の内を明かしてしまったセファリスとチェルシャさんは顔を見合わせた。

 私のせいでもあるんだけど、……やっちゃったね二人共。


「さて、収穫もあったし得体の知れないどんぐりの分析もしたいのでもう帰りたいのだが……」


 とシグフィゼは草原の向こうに視線をやった。

 そちらの方向、遠くの岩山付近ではルシェリスさんとレギレカがまだ戦っていた。

 ルシェリスさんも一頭で最上位神獣の相手をすることになったわけだけど、まあ何の心配もいらないはずだ。


 先ほど、このヴィオゼームとシグフィゼを前にした時、武神と謳われる黒兎の心にあったのは恐怖でも焦りでもない。

 感じられたのは、純粋な期待感。

 ルシェリスさんとは困った神獣で、しばしば自分ルールなるものを設定することがある。彼女が自分に課したのは、それに値する敵が現れるまで最上位進化はしないというもの。

 えーと、目と耳にマナを集中させればあの岩山まで届くかな?

 …………、どうにかいけそうだね。


 様子を探ると、どうやらルシェリスさんは完全に無傷のようだった。

 今の彼女から感じられるのは、ただひらすらに倦怠感のみ。

 対するレギレカは結構傷だらけではあるものの、何とか耐え忍んでいる。あの一角竜も二十将に数えられるだけあって相当な強者。だけど、武神のお眼鏡には適わなかったらしい。

 ……つまりルシェリスさんは今、中途半端に強い、という最悪の敵と対峙している。


 ほら、だからやっぱり自分ルールなんて設定するものじゃない……。

本当に自分ルールなんて設定するものじゃないです。完璧主義に陥りがちですし。

「まあ、これでいいか」の精神で生きた方が、楽だし楽しいと思います。


評価、ブックマーク、いいね、感想、誤字報告、本当に有難うございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 縛りプレイは必要悪!(笑)
[一言] がっつり情報を得ちゃったご様子で…転んでもただでは起きなかったり これではルシェリスさんは、まだまだステップアップ(進化)しない感じで?
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