182 恵まれた神技に恵まれた人間
私の精神世界は大変な騒ぎになっていた。
ジャガイモ畑を駆けてきたトレミナBさんとGさんが、二人で熊さんを担ぎ上げる。
『よくやった! 熊!』
『ですわ! まさに(精神)世界の救世主!』
頭上でモフられるトレミナ熊さん。されるがままだ。
『はは、よせよ、お前達。俺もトレミナとしてなすべきことをなしたまでだ』
まんざらでもないみたいだね。
子熊の栄誉を一通り称えたところで、トレミナGさんが改まって私に語りかけてきた。
『神技はとても応用が利きますわ。マスターならきっと残りのマナでも充分に戦えます。頑張ってくださいまし!』
『私とGは応援しかできないけどね。心は一つだよ!』
トレミナBさん……。私近頃、心が四つある気がしてならないのですが。でも心強いです。
トレミナ熊さん、力を貸してくれますか?
イモ畑に腰を下ろした彼は、今度は落ち着いた様子で話し始める。
『俺はかつて、最上位に進化する一歩手前で命がついえた。俺が辿り着けなかった遥か先にいるあのシグフィゼは申し分ない相手だ。どこまで俺の技が通用するか試してみたい』
立ち上がったトレミナ熊さんの目には強い意思が宿っていた。
『トレミナ、やるぞ!』
はい、行きましょう。
現実世界では、シグフィゼが警戒するように私を見つめていた。
先ほど〈水の爪〉を放ってから私は距離を取った。
あの神技も彼女には大したダメージになっていないけど、やはり氷に変換したのが気にかかるらしい。私の神技は覚えたてのものじゃなく、すでに熟練の域にあるということ。そうなると攻撃の幅は格段に広がる。
シグフィゼは私と同じく論理的に戦いを捉えるタイプなので、それゆえに慎重にならざるをえない。
さっき〈雷壁〉を見たのも影響してるかな。
防御の神技を持っている神獣は少なく、彼女の頭の片隅には、まさか熊神系統か? という疑念があるはず。
熊神戦争の際にもちょっと触れたけど、彼らはとても技能に恵まれている。
まず防御の〈壁〉がある点。それから、範囲攻撃の技を二つ持っている点だ。
私のマナは残り四分の一を切った。でも、二つの範囲技を駆使すれば援軍到着までの時間は稼げると思う。
しばしの静寂の後、銀の巨竜がくいっと首を動かした。
来る、〈息〉だ。
警戒して見つめていたのは向こうだけじゃない。
細心の注意を払っていた私は、先手を打って腕を振る。
神技、〈風薙ぎ〉。
ゴオォォ――――ッ!
放った暴風が攻撃に移ろうとしていたシグフィゼの体勢を崩した。
この〈薙ぎ〉は私から前方に向けて広く攻撃する技。巨大な相手の動きを妨害するのにはもってこいだよ。さらに……。
しゃがみこんだ私は大地に手をつける。
神技、〈地激波〉。
モコモコモコモコ。
シグフィゼの周囲の地面がもこもこと隆起。土がまるで生き物のように、その脚や尻尾を這い上がっていく。
この〈激波〉は前方の一点を中心に広がる技。たとえ相手がどれだけ巨大でも全身をカバーできるよ。
シグフィゼはまとわりつく土を蹴散らそうとするも、手こずっている様子だ。
土とはいえ相当な強度がある上に、次から次へと上ってくる。
確かに、私はあれにかなりのマナを込めてるんだけど、それにつけても効果的だね。
すると、技を発動中のトレミナ熊さんから。
『俺だけじゃなく、トレミナの側からも特別な力が流れこんでくるのを感じる』
私の側? 地は私の好きな属性だし、修行も始めてるからそのせいかな。
これなら神クラスの神獣でもどうにか抑えられそうだ。
たまに〈風薙ぎ〉をおりまぜつつ、〈地激波〉を放ち続けてシグフィゼの自由を奪う。残り少なかった私のマナはさらにどんどん減少。
だけど、これでいい。
私はリズテレス姫を信じてるから。
ほら、もう送ってくれた。援軍だ。
「…………ぉぉのぉじゃ――――――――!」
コーネガルデの方角から凄まじい速度で飛来した幼女が、ズドン! と私の近くの地面に激突。
もちろん普通の幼女ではなく、五百歳を超える神獣なので何の心配もない。たぶんレゼイユ団長あたりが力任せに投げたんだと思う。
激突した幼女、ミユヅキさんは土煙が収まるより先に本体へと戻った。
ズズズズズズズズ…………。
溢れ出す瘴気と禍々しいマナ。長く伸びた九本の尻尾。
九尾の狐、【災禍神狐】がその姿を現した。
力のゴリ押し、貫通しか能がないと言われたトレミナに、範囲攻撃が二つも。
トレミナ
「……そこまで言われてましたっけ?」
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