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181 神の技

 守護神獣は人型から元の姿に戻る時、周囲に人がいないかしっかり確認する。巻きこんでしまうとただじゃ済まないからだ。

 あのキルテナだって建物を壊したりしないように気を付けてくれる。

 ただ、それはあくまでも味方の守護神獣の場合。


 私のすぐ目の前でシグフィゼは竜と化した。

 突然現れた体長七十メートルの巨体に私の体は弾かれる。空中で大きく崩れる体勢。

 まずい、これじゃ剣もリボルバーも出せない。せめて〈プラスシールド〉だけでも。私がこれほど急ぐのは、相手が次にどう行動するか分かっていたため。

 すでに銀の竜は前脚を振り上げ、準備を整えていた。

 放たれた〈水の爪〉は即座に氷結。

 凍てつく刃が、どうにか魔法の盾を出した私に迫る。


 この結果がどうなるかは、考えるまでもなく明らかだった。

 さっきは全力の防御で凌いだ攻撃だ。今はマナの大剣も対属性の魔法弾もない。

 ……私は、確実に命を落とす。


 精神でつながっている四人の慌てる様子が伝わってきた。


『そっちも強敵と戦闘中なのにごめんね。私が死んだらそれぞれをつないでいる精神通話は切れちゃう。急いで逃げて』


 四人は口々に私の心に向かって叫ぶ。

 中でも一際大きく聞こえたのがセファリスの声。


『トレミナ! 絶対に死なせないわよ!』


 纏っている〈合〉マナが急に力強さを増した。

 距離が離れている彼女に唯一可能な支援。これでも耐え切るのは難しいと思う。だけど、お姉ちゃんの気持ちは伝わってきたよ。これまでのことも全部含めて。


『お姉ちゃん、本当にありがとう』

『ト、トレミナ……』


 それから、こっちの皆には謝らなきゃならない。

 トレミナBさん、Gさん、熊さん、ふがいない宿主でごめんなさい。


『運命を共にする覚悟はできているよ。マスター、私を生んでくれてありがとう』

『Bに同じくですわ。マスターの技能に生まれたことを誇りに思いますの』


 ジャガイモ畑にて、二人の私は心穏やかに最期の時を待っていた。

 一方のトレミナ熊さんは黙りこんだままうつむいている。

 奇妙な形でしたけど、私はあなたと出会え、こうしてしばらく一緒に暮らせて楽しかったですよ。

 そう語りかけても彼は反応を示さなかった。

 まあ、トレミナ熊さんは一度死んでいるし、誇り高い神獣の魂だからここで慌てるなんてことはないよね。できれば、最後に名前を教えてほしかったけど。


 精神世界では時間が圧縮される。伝えるべきことは伝えられてよかったよ。

 皆を見習って、私も静かな気持ちでその瞬間を迎えよう。

 迫りくる氷の刃。

 目を閉じた私の頭の中を、十二年間の思い出が流れていく。


『……認めん』


 うつむいたままのトレミナ熊さんがポツリと呟いた。


『……俺は認めん! お前はこんな所で終わる奴ではない! トレミナ!』


 叫びながら子熊は両の前脚を大空へと伸ばした。

 え……、トレミナ熊さん……?


 異変は現実の世界に現れた。


 ……ジ、……ジジ……。

 ……ジジ、ジジ、バチバチバチバチッ!


 私を守るように、前方に雷の防御壁が展開されていた。

 まさか、これは……、〈雷壁〉?

 かつて【水晶輝熊】と戦った際、私はこの技を見ている。確かにこれは彼の神技だ。

 出現した〈雷壁〉がシグフィゼの〈水の爪〉を受け止めた。

 わずかな時間で突破されるも、私が〈ステップ〉の足場で後ろへ逃れるのには充分だった。


 致死確実に思われた氷の刃を避け、ため息を一つ。

 はぁ、今回ばかりはもうダメかと思ったよ……。

 ……あれ?

 シグフィゼは攻撃の手を止め、信じられないものでも見るように私を凝視している。ヴィオゼームと四人の方も、戦いを中断して揃ってこちらに視線を。

 戦場全体が静まり返っていた。

 最初に届いたのは、精神通話でキルテナから。


『……今の、間違いなく、神技だよな? どうして人間のトレミナが神技を使えるんだ……?』

『さあ、どうしてだろう?』


 すると、四人全員の心が一つになった。


『『『『おっとりか!』』』』


 いやいや、神技はおっとり出せるものじゃないでしょ。実際のところ、私にも分からないんだよ。

 ここはやっぱり出した本人に聞くべきだよね。

 トレミナ熊さん、なぜ技を発動できたんですか?


『分からん。無我夢中でやってみたらなぜか出た』


 分からないものはしょうがないですね。

 じゃあ、もう一度試してみましょうか?


『うむ、そうしよう』


 まだ固まったままのシグフィゼに向かって、私は〈ステップ〉で宙を駆けていく。

 剣を抜きながら〈オーバーアタック〉を発動。横に回りこみ、マナ大剣で特大の〈オーラスラッシュ〉を放った。

 が、難なく巨竜の前脚で防御される。

 力の差が歴然なのは変わらないし、やっぱり接近しすぎるのは怖いんだよね。

 ……と私は思っていると、向こうは思っているはず。ついさっき死にかけたばかりだし。

 その裏をかいて、今回は大胆にいくよ。


 シグフィゼの頭上で、足にマナを集めつつ、再度〈オーバーアタック〉を使う。

 魔法板を力いっぱい蹴って急降下。

 一気にドラゴンの背後をとった。


 さて、今までのお返しじゃないけど、こっちもたまたま同じ技を持ってるんだよ。

 トレミナ熊さん、準備はいいですか?


『いいぞ、氷への変換は俺に任せておけ』


 お願いします。では、いざ。

 私が左手を振るのとタイミングを合わせて、精神世界のトレミナ熊さんが前脚を振り下ろした。

 神技、〈水の爪〉。


 シュザザンッッ!


 出現した氷の大鎌が、シグフィゼの背中に一太刀。


 おお、本当に出ましたね、熊さん。


『ああ、本当に出たな』

なお、トレミナはまだ属性修行の最中です。

先に神技を覚えました。


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― 新着の感想 ―
[一言] おおっと、トレミナ熊さんがキーだったか~ 向こうも神技は大抵見たことあるだろうし、そりゃ場が止まるほどになるか… そんでもって最後に二人揃っておっとりぴったしw
[一言] トレ熊モードか ますます人の道を踏み外していくな 能力的な意味で
[一言] あ〜もう完全に人外ですね!(笑) トレミナ熊さんの神技が!ここに蘇る! くまさん…いい仕事しますね!(笑)
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