180 神との戦い
キルテナ達とヴィオゼームの戦いに視線をやっていたシグフィゼが向き直る。しばらくの間、静かに私の顔を見つめた。
……まるで、私が四人の精神をつなげたのが分かっているみたいだ。彼女のあの目は、少なくとも元凶は私だと確信している目。
その瞳に宿った殺意が強まる。
魔法の足場で空中に立っていた私は、とっさに後ろに跳びながらリボルバーを抜いた。
銀の竜の爪に水霊が集まっていくのを感知し、シリンダーをカチカチッと回転。
シグフィゼが前脚を振ると、巨大な氷の刃が出現した。
迫りくる神技に銃弾を放つ。弾丸に込められた雷が威力を削ぐも、相殺するまでには到底至らない。
すぐさま刃渡り十メートルのマナ大剣を作って薙ぎ払う。しかし、それも〈水の爪〉に押し負け、刃は粉々に砕け散った。
最後に出した〈プラスシールド〉も破り、氷刃は私を直撃。
ズシャ――――ン!
いたた……。そして冷たい……。
地面に叩きつけられた私は氷の残骸に埋もれていた。それらを押しのけ、どうにか起き上がる。
……属性の相性まで利用して全力で防御したのに防ぎきれなかった。この〈合〉マナじゃなかったら危なかったかも……。
……これは本当に神様と戦ってると自覚した方がいいね。
今までの神獣とは完全に格が違う。
『トレミナ! 攻めろ! 攻撃し続けるんだ!』
トレミナ熊さんが精神世界から叫んでいた。彼だけじゃない。
『マスター! 私を投げるんだ!』
『Bの〈Ⅱ〉を投げまくるのですわ! 反撃を許してはいけませんこと!』
トレミナBさんとGさんも必死の訴え。彼女達がここまで前面に出てくるのは初めてのことだ。
今回はそれほどの危機的状況だということ。
神技一発であれなんだから、連続で受けたら耐えられるわけがない。皆が言う通り、私が生き延びるには攻撃力の高い〈トレミナボールⅡ〉を投げ続けるしかないと思う。
手に持っていた剣とリボルバーを収納した。
私は両利き。左右どちらの手でも同じ精度で投擲ができる。
今から放つのはこの特性を活かした技だ。それは〈トレミナキャノン〉とは異なる、〈トレミナボールⅡ〉のもう一つの発展形。
最近世界では、毎分二百発の弾丸を発射できるガトリング銃というのが開発されたらしい。
私の新技はその回転速度を上回る。
両の手にマナ玉を生成した。
〈トレミナラッシュ〉発射。
シュドドドドドドドドドドドド!
マナ玉を作っては投げ、作っては投げ。
シグフィゼの尻尾から発生した炎が、体長七十メートルの彼女を隠せるほどの巨壁を築き上げた。だが、放たれたボールはそれを易々と貫通していく。
連射しているけど、一発一発がちゃんと〈トレミナボールⅡ〉だ。
その威力は熊神戦争で神水晶を欠けさせたあれに匹敵する。〈オーバーアタック〉は使ってないけど、ゲインの五割増しがあるし、私自身も成長しているので。
いくら別格の神技でも止めるのは不可能だよ。
あなたも全力で全身を守るしかない。少しでもマナの薄い箇所があれば、私はそこを狙い撃つ。
向こうも分かっているらしく、銀の竜は防御姿勢のまま動けずにいる。
……よし、私はこうなるのを待っていたんだよ。
今はジル先生のように敵を無力化してくれる人はいない。だから、確実に足止めするためにこの消耗の激しい〈トレミナラッシュ〉を使うしかなかった。
高密度にボールを投げ続ける〈ラッシュ〉は一分も維持できない。
それでもこの技に踏み切ったのは〈トレミナキャノン〉につなげるためだ。私はマナの大半を失ってしまうけど、シグフィゼを少なくとも動けない状態にはできるはず。
そうなれば私はキルテナ達の援護に回れるし、賭けに出る価値はある。
『準備万端だ! マスター! いつでもいけるよ!』
コントロールボールに入ったトレミナBさんが合図を送ってきた。
マナの大玉を迅速に作るために、今回は彼女にも手伝ってもらうよ。
じゃあBさん、早速やりましょう。
直径十センチのマナ玉を投げ続けていた私の手の中に、突如として直径五十センチの大玉が。
シグフィゼのマナに驚きの色が浮かぶ。
大丈夫だ、今なら確実に命中させられる。いくよ。
ドドドドドバァァン! ゴッシュ――――――――ッ!
強烈なバーストと共に〈トレミナキャノン〉は放たれた。竜の巨体の中心部に向かって飛んでいく。
直撃した、と思った瞬間、
こつ然とドラゴンは姿を消した。
マナの大玉は虚しく空を切る。
……そんな、嘘でしょ。
地面に目を向けると、人型になったシグフィゼが立っていた。彼女は私を見て微笑みを湛える。
「さすがに焦ったよ。今のを食らえばただじゃ済まなかったからな。本当に、危険極まりないどんぐりだ」
もちろん人型で逃れられることを想定していなかったわけじゃない。だから、トレミナBさんに協力してもらい、隙を作らないようにした。
……想定外だったのは、シグフィゼが竜から人型になるまでの早さ。あんな一瞬だとは思わなかった。
確かにアイラさんが、長く人型を使っている神獣は独自の技術を持っているから気を付けなさい、と言っていた。
……もっと警戒しておくべきだったよ。
「さて、これで私がさらに優位になったな」
そうだ、私、マナの大半を消費しちゃったんだ……。
とシグフィゼの言葉に気を取られた次の瞬間、ギュン! と彼女が接近してきた。
「まったく、おっとりしている。悪いが一気に勝負を着けさせてもらうぞ」
私のすぐ目の前で彼女は竜の姿へと戻っていく。
……しまった。私……、死ぬ。
トレミナ、ついにおっとりが原因で死んでしまうのか。
ちなみに両利きなのもおっとりのせいです。気付けばおっとり両手でお箸を使っていました。
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