18 爽やかな決着
「試合時間から気付いていると思ったよ。俺が二位だって」
戦闘中の張りつめた雰囲気も抜け、クランツ先輩はすっかり柔らかく。
言われてみればそうだ。
学年一位から十位までがまず各闘技場に振り分けられ、彼らから試合が行われる。そして、これは第二闘技場の最初の試合。
私、たまたまここに組みこまれたのかな?
……そんなわけないよね。何者かの意思を感じる。
けど、これで超満員の理由が分かったよ。
学年二位と特例出場の二年生。注目されるはずだ。
「先輩、私に負けちゃって大丈夫ですか? 評価とか」
四年生にとって、今回のトーナメントは将来を左右しかねない重要行事。
彼の進路が心配になった。
「大丈夫だと思うよ。負けたのがキミだからね」
「どういうことです?」
「トレミナさんが決勝まで勝ち上がってくれれば問題ないってこと」
「……頑張ります」
クランツ先輩は笑いながら私の頭を撫でた。
「プレッシャーかけちゃったかな。ごめんね」
子供扱いしないでください。私はあなたを打ち負かした女ですよ。
ああ、背中がむずむずする。
ようやく手をよけてくれた先輩は「でも」と。
「トレミナさんなら、普通に戦えばいけると思うよ。マナを抑えてあの強さだし」
「バレていましたか。さすが学年二位」
「気付いたのは途中からだけどね。キミならうちの一位ともいい勝負ができるよ」
「学年一位の人、強いんですか?」
「うん、俺はかなり差をつけられてる。四年生では敵無しだし、能力はまさに無敵って感じだ。決勝までに一度見ておくといいよ。学年一位、チェルシャの試合」
……四年の一位、チェルシャさん。
なるほど。それが、私が本気で戦わなきゃいけない相手か。決勝まで何試合もあるし、助言に従って一回は見ておこう。
それにしても、ここまで親切に言ってくれるなんて、やっぱりクランツ先輩はすごく優しい。
去り際、彼は振り返って再び爽やかな笑顔を作った。
「じゃ、頑張って。応援してるから」
やめてください。むずむずする。
背中をかきつつ第二闘技場を出ると、リズテレス姫が待っていた。
レゼイユ団長とセファリスも一緒だ。
「素晴らしい戦いだったわ、トレミナさん」
「はい、どうも。……あの、私がここに入れられたのって、姫様のご判断によるものですか?」
「まさか、そんなことするはずないでしょ。トレミナさんの入る場所は抽選で決めたのよ。いきなり学年二位との対戦になって驚いたわ。でも、しっかり勝ってしまうんですもの。やっぱりあなたは素晴らしいわ」
え……? 本当にたまたまだったの?
「ジルさんからジャガイモ農家の件は聞いているわ。コーネガルデ学園は騎士養成のための機関だから、できればトレミナさんにもその道に進んでほしい。けれど、もし今日あなたが優勝できたなら、きちんと検討すると約束するわ」
おお、姫自ら約束してくれた。
これでもう安心だよ。
――もう安心?
当時の私は本当に何も分かっていなかった。
大人はズルい。それは間違いないよ。
けど、大人以上に警戒すべきはリズテレス姫だった。
とにかく私は分かっていなかった。彼女を、見た目通り普通の子供だと思っていたんだから。リズテレス姫は(黒く塗り潰されている)だ。
『剣神(兼ジャガイモ農家)トレミナの回顧録より』
…………?
……えっと、そうだ、リズテレス姫って私と同じ十一歳なのに本当にしっかりしてる。その彼女が約束してくれたんだから大丈夫だ。
ジャガイモ農家目指して頑張らないと。
それでセファリス、どうしてレゼイユ団長に捕まった感じになってるの?
姉は団長にがっちり肩を掴まれていた。
「ジルちゃんばかりズルいので、私はこのセファリスを弟子にすることにしました。トレミナより強く鍛えて見せますよ」
「……うん、お姉ちゃん、レゼイユ団長の弟子に、なったの……」
消え去りそうな声。さっき戦っていた時の元気はどこへ。
身長百七十を超えるレゼイユ団長は、ひょいとセファリスを小脇に抱えた。
「これから私は訓練です。付き合いなさい、我が弟子よ」
姉は、荷馬車で連れていかれる子牛のような目で私を見た。
ごめん、どうすることもできないよ。
とりあえず、まあ……、
私、ジル先生でよかった。
これでセファリスが強くなる目途も立ちました。
次話、トレミナがオリジナル戦技を編み出します。
評価、ブックマーク、いいね、感想、本当に有難うございます。